フォウ王女
黒騎士は思案する。
(リアが私のことを喋ったのか? ありえん。 が、絶対にないとは言えん。 軽くすっとぼけてみるか)
「はて? リアとはどなたのことでしょうか?」
多少白々しくはあるが、初手としてはこんなものだろう。
「あ、すみません。私がもっとも信頼している者です」
王女は自分で言ったことにハッと気付いたのか、慌てて補足する。
(取り越し苦労だったか。下らんことで自滅するところだった。 が、リアの名を知っているということは王女もまた信頼の置ける人物ということか?)
黒騎士は、王女がどこまで何を知っているか分からず、対応に困るが、自身で情報を提供しないように少しずつ手探りで会話を進める。
「ほほぅ。そのリアさんがなんと?」
王女は素直に答えてくる。
「ビーゼス国の黒騎士宰相は文武に優れ、非常に優秀な方だと。黒い鎧兜で怖そうなイメージだけど、人間的にも素晴らしく、尊敬に値するお方だと言っておりました」
どこまで言葉を信用して良いのか判断に迷うが、当たり障りのない台詞だけに、こちらも同様に返しておけば良い。
「ははは。それは褒めすぎです。私などまだまだ未熟ですよ」
王女は真顔で黒騎士を見つめ
「いえいえ。リアがこの数年、人を、特に他国のことを褒めるなんてあまりないんです。だから、よっぽどなんだと思ってます」
その言で、何となくこの数年ツラい思いをしたんだろうと推測してしまい、黒騎士はやや沈黙してしまった。
「何かあった際は、全面的に黒騎士宰相を頼れとリアは言っていました。困った人を見捨てることはできない人だからって」
(あのやろう・・・・・・)
黒騎士は必要以上に情報が伝達されていないことに安堵する反面、リアが保険として自分をあてがったことに苦笑する。
「そうですか。私も誰にでも手を差し伸べるわけにはいきません。手は二本しかありませんからな。ただ、リアさんとやらがそこまで私を買ってくれているようであれば、期待には添いたいところです。王女のために手は開けておきます。困ったときはお申し出ください。私にできることならば努力します」
黒騎士は跪いて頭を垂れる。
「ありがとう。リアは今不在ですが、戻ったら是非三人でお話ししましょう。まだかろうじてひまわりも咲いているでしょうから」
そういって、一角にのみ咲いているひまわりを見る少女もまた以前見た光景に似ていた。
ブロンドの髪を風になびかせ、夕陽とひまわりを背景に、曇りのない青い目の少女はいつかのリアを思い出させたのだった。
「フォウ様~。フォウ王女様! あ、やはりこちらにおいででしたか。夕食の準備ができました。そろそろご準備を」
侍女の声が、王宮の廊下から聞こえ、手を振っている。
王女も手を振り返し、こちらにお辞儀をしたかと思うと、侍女の元に走って行った。
侍女の元に辿り着くと、王女は侍女共々お辞儀をし、談笑しながら宮殿の奥へと消えていく。
「フォウ王女、か。アインハイツ将軍にやるわけにはいかなくなったかな」
そう呟き、黒騎士もまた夕食をするために自室に向かうのだった。




