戦闘跡地にて
一方、戦闘跡地へと向かった朝美は、アス老人から魔獣のことを聞いていた。
「ふーん。なるほどね。あたしがいれば十分に対応できたんだけどね」
スピードを活かした近接戦闘を得意とする朝美のいうとおりであろう。
戦闘に置いては相性というものが存在するのだ。
手分けして死体を中央部に集め、アス老人が鎧や剣、弓含め、持ち物を剥いでいく。
朝美はスコップで穴を掘りつつ、疑問を口にする。
「っていうか、死体はそのまま魔獣の餌でも良かったんじゃねえのかなぁ。ま、今更だけどさ」
不満を口にしつつも、本気で嫌がっているわけでもなく、手はしっかりと動かす。
実際に、最後に取り残されていた兵士も、身体の多くが食い散らかされていた。
どう見てもグロテスクな光景なのだが、その臭気以外は気にすることなく作業を進めているあたり、手慣れたものなのだろう。
「うーむ。確かに言われてみればそうかも知れんのぉ。魔獣も腹が膨れれば、その分こちらが襲われる心配も減るしの」
二人の間に数秒の沈黙が流れ、朝美が口を開く。
「身ぐるみは引っ剥がしたし、そうするか。万が一死体が見つかっても、あたしらにやられたよりも、魔獣に食い殺された死体の方が与える情報も少なくて済むしな」
「そうじゃな。下手に腐敗を嫌って埋葬すると、隠蔽した事実が残るしのう。身ぐるみ剥がされているのは不自然じゃが、放置するとしようかの」
アス老人は同意すると、矢傷だけは隠蔽するように、近くの石で新たに衝撃を加える。
「そんじゃ、撤収しますかね」
朝美はそう言って、置いておいた槍を持つと元来た道へ戻ろうとする。
アス老人もたいまつを持って先導できるよう、朝美を追い越すように、早歩きで前に歩みでた。
ちょうど、アス老人が朝美の前に出た直後に、朝美は足を止める。
「ん? 嬢ちゃんどうしたんじゃ?」
アス老人は振り返ると一見で状況を理解した。
そこには暗闇に光る目が二つ。
置き去りにした兵士を食い殺した魔獣なのかはわからないが、そこに確実に存在している。
朝美は持っていた槍を担ぐと、投擲できるように準備を整える。
近接戦闘を得意とする朝美であるが、これがもう一つの戦闘スタイルだ。
つまりは槍による投擲である。
いくらスピードを活かした近接戦闘が得意と言っても、近寄れなければ意味は無い。
また、状況に応じた戦い方というものがあるため、遠距離での攻撃手段は当然持っている。
ちょうど、琴葉が薙刀と弓矢を持っているように、朝美は打撃と投げ槍が戦闘スタイルなのである。
「嬢ちゃん。少しずつ後退しよう。獲物にさえ近ずかんかったら、こっちを襲ってはこんじゃろ。警戒しつつ、ここから離れるんじゃ」
そういって、老人は後ずさる。
朝美はにっこりと笑って、了解と呟くと、槍を構えたまま後ずさる。
ものの十メートルで視認不可能な状態となったが、死体をむさぼる音が聞こえたところで、朝美達は警戒を軽く解き、キャンプ地に向けて歩き出した。




