香水の香り
「では、また折を見て連絡する。指示があるまで独断で動くなよ」
黒騎士はそういって、アインハイツ将軍を見送り、自身は庭園のひまわりをしばし散策する。
意図的に退出の時間をずらしたとかではなく、単純にひまわりを見ていたかっただけなのだが。
庭師もおらず、一人庭園を眺めていると、王宮の廊下を歩く人物がこちらに気付き、近づいてくる。
通り一遍の社交的な挨拶をし、しばらく、ひまわり観賞に付き添う。
おそらく出会いは完全な偶然だろう。
「花は、ひまわりはお好きですか?」
その問に対し、黒騎士は正直に答える。
「ええ、とっても。花を見るのは動物と同じくらい好きですよ」
そして、次の問の答えを誤った。
「ひまわりが一番好きな花ですか?」
「ええ、そうですね」
正直、何にも考えていなかった。
社交辞令半分で、相手が喜びそうな答えを言ったのかも知れない。
「嘘ですね」
鋭く、冷たい言い方にハッとして顔を見ると、そのものはキスができるほど顔を近づける。
もちろん、兜をかぶっており、それは不可能だし、それだけ近づいても黒騎士の表情を窺い知ることはできない。
「ほほう。なぜそのように思うのですか?」
努めて穏やかに聞き返す。
「白梅の香り・・・・・・」
そう呟くと、黒騎士を見て少しだけ顔を綻ばせる。
出会ってから一時間も経っていないが、今までにない人間らしい表情だ。
まったくの無防備な、旧知の友人と酒場で談笑でもしているかのような子供っぽい笑顔だ。
黒騎士が黙していると、
「貴方が本当に一番好きな花、それは梅でしょう。それも白梅」
正解だ。
「そのとおりです。お見それしました。社交辞令で嘘をついてしまいました。申し訳ございません」
正直に謝罪し、頭を下げる。
「しかし、香水の香りからそこまで推理を働かせるとは素晴らしい推察力ですな。香りで気付くとは女性のような観察眼をお持ちのようだ」




