秘密を知っている王女
夕方になって、昼寝から覚めると、全身の疲労の質が変わったことを実感する。
早くも筋肉痛の予感がし、節々の疲れを感じる黒騎士だった。
夕食まで、まだ時間もあるが、城下町に行くほどでもない。
今日の夕方の報告はなしにしてあるため、時間はある。
暇つぶしがてら、王宮内を散歩し、ひまわりの庭園に足を運ぶと、先日後ろ姿を見た王女がいるのが遠目で見える。
相手が警戒したり、嫌がるようであれば素通りしようとしたのだが、丁寧にお辞儀をする姿を視認し、自身も庭園に行くことを決める。
よく見ると、今日は侍女を連れておらず、先日の庭師と話をしている。
(あの庭師が私のことを良く言ってくれたお陰で警戒が解けたのだろうか?)
そう考えながら、王女の元まで行って挨拶をする。
「お初にお目にかかります。王女。ビーゼスの宰相を務めております。故あって素性を明かせぬため、このようなお姿でのご無礼をお許しくださいませ。皆は黒騎士と呼んでおります。以後お見知りおきを」
「いえ、こちらこそ何度かお見かけしたのですが、政治に関わらない無知な私が出しゃばるのもどうかと思い、ご挨拶を控えておりました。挨拶が遅れたこと、お詫び申し上げます」
深々と頭を下げ、顔をあげると、まだあどけなさが残る少女である。
年齢も二十歳にはなっていないようにみえる。
年の割にはしっかりとしており、社交の場に出しても決して恥ずかしくはないだろう。
王女は目配せをすると、庭師は双方に会釈をし、下がる。
ひまわりの庭園には黒騎士と王女の二人きりとなった。
庭師が庭園からいなくなるのを見送り、王女が微笑む。
「リアからお話は聞いています」
黒騎士は一瞬固まり、その台詞から想像できるあらゆることを想定、思考する。
リアというのは、アインハイツ将軍と策謀を練った後、このひまわりの庭園で出会った女性である。
出会ってすぐは外見の違いもあり全く気付かなかったのだが、知り合いだとわかったのだ。
こちらが全身を鎧兜で覆い、完全に身元を隠蔽しているにもかかわらず、彼女は気付いてしまった。
オージュス連合国内において、キミュケール第一王子、タクソケール第二王子の二名しか素性を知るものはいなかったのだが、第三の人物が現れたことになる。




