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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
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庭師

 一方、プルミエ国に滞在する黒騎士宰相は、比較的ゆとりのある時間を過ごす。


状況を記す書簡をしたためた後は、王宮内を基本的な滞在場所にし、城下町へと散策をする。


他国ではあるが、プルミエ国を警護するという任務に就くウィッセン国の重装騎兵と毎日朝と夕方に会い、訓練の指示と報告を受ける。


「これから毎日、順番に四方へ訓練を行なって欲しい。初日は南へ、次は西へ、次いで北へ、最後に東へ。すでにシーハーフ国へは訓練の実施を連絡してあるから、不要な刺激を与える心配はしなくても良い。当然、我がビーゼスへの心配も無用だ。ヴィータ国については、悪いがそちらで連絡をしてくれ。今からならギリギリ間にあうだろう」


「はっ。承知しました」


重装騎兵の指揮官達は、他国の宰相である黒騎士に従う。


予め、ウィッセン国王インゼルによって、そのような指示を受けていたからに他ならない。


プルミエ侵攻に向かったアドランデ将軍が戻るまでは、全て黒騎士宰相の指示に従い、指揮下に入ることと厳命されたのだ。


黒騎士は北と東の訓練に同行することにし、それ以外の訓練の参加は見送った。


南は一度徒歩で散策済みであり、西のビーゼス国方面は自国方向ゆえ何度となく通っている。


地理的にも把握する必要は感じず、訓練内容もそれほど他と変わらないだろう。





 黒騎士は自分の空き時間を確保すると、王宮のひまわりの庭園へと足を運ぶ。


王宮内のほとんどの領域の出入りを許されている黒騎士は、この場所が一番好きで、暇さえあれば訪れる。


(そういえば、あの女と会ったのもこの場所だったな)


黒騎士はふと思い出し、今どうしているだろうかと考える。


ひまわりは季節の花というだけあって、見頃は七月中旬から八月中旬で、下旬には最盛期を迎える。


早いと六月下旬、遅いと十月下旬まで開花が続く為、種をまく時期やその年の寒暖によって差がある。


プルミエ国の王宮はひまわりの庭園があり、わざと開花時期を操作し、なるべく長い期間花が咲くようになっているため、九月に入った今でもいくらかの開花が見られる。


時期は過ぎているため、やや寂しい一角にのみ咲いているが、それでも十分の見応えであった。


手入れをしてくれている庭師と談笑し、穏やかな日々を過ごす。


「ところで、以前こちらに伺った際、眼光鋭い異国の庭師の方がおられたが、最近はみかけませんね」


黒騎士は庭師に話しかける。


「ああ。アールッシュ様のことですかな? あの方はたまに庭いじりを手伝ってくれることはありますが、庭師じゃありませんよ。異国の出自ですが、プルミエ国で育った方で、近衛兵長を務めてらっしゃる偉い方なんでさぁ」


そういって、日焼けした顔をほころばせて教えてくれる。


「おお、近衛兵長であられましたか。それはとんだご無礼を。挨拶くらいしておくべきでしたな」


黒騎士もにこやかに応じる。


「確かこの国には二つ近衛兵団がありましたな。以前この庭園でお会いしたエイドス近衛兵長ともう一人がかのものでしたか・・・・・・」


「そうです。エイドス様は、もともとあった近衛兵団の団長で、新たにもう一つ近衛兵団の新設を前王に提言したんですよ。その時に就任したのがアールッシュ様ですよ」


普段の庭仕事が単独で、話し相手がいないせいもあるのだろう。


おしゃべりが楽しいようだ。


もちろん、何度も庭園に足を運び、打ち解けていたというのもある。


「ほほう。エイドス近衛兵長は自分以外に近衛兵団を率いるものがいるのは嫌では無いんですかね? いや、一般的には地位や名誉などの関係でライバルは蹴落としたりするものでしょう?」


「はっはっは。まぁ、普通はそうでしょうねぇ。ただ、あのお方は違いますよ。元々家柄が良く、代々近衛兵長を務める家系だったもんで、早くして近衛兵長になったんです。それこそ十代だったんじゃなかったかなぁ。でも、さすがに実力が伴わないって思ったんでしょうかねぇ。どっかに留学するとかで三年くらい留守にしたんですよ。それで、その間の代わりも含めて創設して、入れ違いでどっかに行ったみたいですよ」


庭師は中々に情報通なようだった。


王宮で働くもの同士、横のネットワークがあり、世間話が娯楽でもあるのだろう。


「なるほど。自分に厳しいお方なんですね。近衛兵長の地位を三年も空席にして留学とは。で、戻ってきてからは交代で?」


「そうです。まぁ、近衛兵団なんてそんな仕事がたくさんあるわけじゃ無いですけどね。基本的には交代で勤務していたようですが、エルドス様の方はどちらかというと、王女様の方の護衛を主にやるようになりましたね。ドルディッヒ王子、あ、もう王様ですが、そちらはアールッシュ様が主にやる感じですよ。何となく相性の問題じゃ無いですかねぇ」


最後の方はなんだか小声になっていき、思わせぶりな言い回しが気になったため、追求してみる。


「なるほど。相性ですか・・・・・・」


沈黙がしばらく続くが、案の定、しゃべり出す。


「いや、実はここだけの話ですけどね。ドルディッヒ王と妹君が仲悪いんですよ。で、王の幼馴染みのアールッシュを妹君が敬遠するもんだから、エルドス様が代わりにやることが多くなってねぇ。まぁ、エルドス様も女みたいなきれいな顔立ちしているし、寡黙だけど優しい感じが妹君には好感があったのかもしれないねぇ。アールッシュ様もいい人なんだけどねぇ。どうも誤解されがちでかわいそうだよ」


そう言って、内緒ですよと言って、人差し指を口に持って行くが、おそらく王宮では周知の事実なのだろう。

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