戦争の終焉
軽装歩兵に入れ替わるように現れた重装歩兵は、一瞬で弓隊を殲滅し、重装歩兵同士の乱戦となる。
軽装歩兵は五人一組となり、無理ない範囲で弓隊の残党狩り、倒れた重装歩兵のトドメなどをこなしていく。
突撃したシークンド達は、相手本陣に到達し、ほぼほぼ無抵抗だった輜重隊と工兵を駆逐、制圧する。
森への脱出口を封鎖した形となった。
「お前達がすり抜けて本陣に到達しようと考えたように、我々もまた本陣にたどり着けることを考えなかったのか?」
シークンドは作業を淡々とこなすように殲滅を実施する。
元々戦闘力が低い工兵と輜重隊に対し、馬上から一方的な攻撃を浴びせるのだった。
右肩を貫かれ、ダメージを負ったものの、本陣は目の前である。
途中で落馬、負傷したものが数名いるが、九十騎以上の軽装騎兵がいる。
相手は小娘四人とジジイ、やたらデカいおっさん、そしてフラハー王。
辿り着けば勝てる!
その思いで必死に突撃をする。
しかし、目標だけを見据えているドルディッヒ王は後ろで森からの奇襲から始まった挟撃が行なわれており、自軍の完全崩壊を知らない。
何人かの振り返った軽装騎兵は状況を王に伝えようとするも、前に行くしかないという現実がそれを阻む。
王はそれを知らない。
「いいかぁ。前だけを見ろ。あいつらの首を挙げればそれで終わりだ!他のことは一切考えるなぁ!」
その声を聞いて、部下達は相手の本陣だけを見る。
部隊の誰か一人でも良い。
あそこに到達し、指揮官をやる。
その意志で駆け抜ける。
「おいおい。スパツェロさんよぉ。本陣囮にして、伏兵使って挟撃してんだけど、すり抜けられちゃったぜ?」
朝美は呆れたように呟く。
「あいつも馬鹿じゃのぅ。仮に重装歩兵が千人目の前にいても、抜けられるときは抜けられてしまうものじゃ。ましてや挟撃でサンドウィッチなど、間に合わん方が普通じゃわい」
アス老人もあきれ顔で笑っている。
「一応、作戦通り、二体くらいは狙撃するよ」
そういって、琴葉は弓矢を構える。
それを見てティラドールも同様に矢を番える。
特に合図もなく、それぞれが両端の軽装騎兵に向けて矢を放つ。
琴葉の放った矢は剣で弾かれるも、その勢いで兵は落馬、後続を二頭巻き込んだ。
ティラドールの放った矢はそもそも標的から外れるという結果だった。
「おいおい。櫓からの超遠距離があたって、なんでこの距離外すんだよ。落ち着けって」
朝美は笑っているが、実際に迫り来る敵の圧は凄い。
自分に向かってくる相手がいるのと、遠くから静かに狙うのとでは違う緊張感だ。
「す、すみません。次は大丈夫です」
そう言って、二射目を射るが、こちらはしっかりと命中し、一体を倒す。
同様に、琴葉も二射目をいるが、やはり命中する。
両脇を狙ったため、やや広がっていた軽装騎馬はより中央に寄ることとなる。
いよいよ五十メートルに近づいた頃である。
「朝美ちゃん、テラガルドさん」
そういって、のぞみは剣を上に上げる。
「了解!」
朝美は投槍を、テラガルドは投石を開始する。
やはり両サイドを狙いとする。
琴葉とティラドールも三射目を指示されて、射つ。
距離が近づいたこともあり、全員が命中させるのはさすがである。
「敵の大将は俺が取ったぜぇ! ふはははっ!」
ドルディッヒを先頭に、十数頭の騎兵が迫っていたが、その王の言葉を最後に、姿が消失する。
「ドゴゴゴゴッ」
元いた本陣の舞台の焼跡にさしかかったとき、ものの見事に落とし穴に落ちていったのだ。
深さは五メートルくらいであるので、運が良ければ無傷であろうが、不意の落下である。
運良く馬がクッションとなり助かったものも多いが、いずれにせよ敗北が決定である。
三十メートル四方の穴である。
多くの軽装騎馬が落ち、後続で気付いたものも、急には止まらず、追加で数頭落ちていく。
先頭集団のドルディッヒ王が落ちたことが他の軽装騎馬兵の士気を一気に喪失させた。
この戦場でののぞみの何度目かの所作である、剣を掲げての回転が行なわれると、
のぞみたちの背後の森から軽装歩兵五百が姿を現わすのだった。
フラハー王の重装歩兵とともに森に伏兵としていたものを本陣後ろの森に移しておいたのだ。
軽装騎兵は力なくうなだれ、のぞみの剣が振り下ろされるのと同時に軽装歩兵は容赦なく戦意喪失したものに襲いかかっていくのだった。
落とし穴に嵌まったものを上から見下ろすと、ドルディッヒ王が生存しており、何かしら言っている。
が、なんだか様子がおかしく、しばらくした後に、全身から血を吹き出し、倒れて死んだのだ。
引き上げて確認すると、毒が強く疑われたが、結局はわからずじまいだった。
敵に討ち取られること、捕虜にされることを嫌って、服毒自殺をはかったのではないかということで落ち着いたのだった。
第一次プルミエ侵攻に続き、第二次プルミエ侵攻も圧倒的勝利によってカンナグァ連邦の勝利となった。
完全なる包囲殲滅が行なわれたことで、生還者はほぼ皆無となった。
もちろん、何十名かは森に逃げ込むことができたが、来るときよりも怖いホルツホックの森である。
帰路の迎撃を受けてほとんどのものが討ち取られることになったのだ。




