アールッシュ、散る
プルミエ国の重装歩兵が突撃をし始めたのと同時期に、フラハーの弓隊が動く。
正面のヴィータ国に対して一斉射撃を行なったのだ。
そして、一射打つと同時に、全速力で後退する。
こちらは二百五十、相手は六百五十である。
反撃の応射では倍の矢が返ってくることになるのだ。
全速力で相手の射程から逃れるべく、後退する。
後ろに控えていた軽装騎兵も同様に後方に下がる。
プルミエ国としては、意表を突かれた形となる。
そもそも倍以上の兵数を誇る同兵科に対して、射かけてくるとは思わなかったのである。
膠着を予想していた上、万が一攻撃したとしても、相手の弓隊は、突撃した重装歩兵に対して発射することを想定していたのだ。
そのため、まさか自分たちに矢が来るとは思わず、応射が遅れる。
しかし、さすがにすぐに弓隊に向けて一斉射撃がなされる。
ある程度に被害を与えたことに気を良くしたことと、相手が一目散に背中を見せて逃げるところを追撃しだしてしまった。
ほんの数十メートルだが、逃げる弓兵に向けて軽く走って、弓矢を射る。
意識は完全にプルミエ国両翼の弓矢隊に向けられた時に、再び鏑矢が戦場に響く。
ティラドールと、琴葉、二人が森に向けて鏑矢を放つ。
「ぽうぅぅぅ・・・・・・ぅん」
「ぽうぅぅぅ・・・・・・ぅん」
だいぶ待ちくたびれたのだろう。
フラハー国陣営の右翼、つまり北の森からはアンダール、南の森からはフラハー王が重装歩兵五百とともに奇襲する。
瞬く間にヴィータ国の弓矢隊が潰され、プルミエ国の重装歩兵を挟撃する。
味方の重装歩兵の間をすり抜け、ドルディッヒ王の後を追っていた近衛兵団は投槍することもできず、伏兵の重装歩兵にすり潰されていく。
アールッシュは南の森からの重装歩兵にフラハー王の姿を視認すると、今の自身の状況から生還は諦め、せめて相手の王を取るべく突撃を開始する。
「くそっ。見えていた千五百が全てではなかったか。ドルディッヒ様、お役に立てず申し訳ございません。せめて、相手の王の首だけは取ってから死にます!」
持っていた槍をフラハー王に投げつけ、ロングソードで斬りかかる。
「すまんな。威勢が良いのは認めるが、この首は安くない。恨むなら使えた主を恨んでくれ」
そういって、ニンマリとフラハー王は笑うが、目は一切笑っていない。
槍を避け、片手のモーニングスターでロングソードを叩き折ると、もう一方のモーニングスターでアールッシュの頭部を兜ごと殴打する。
致命傷ではなかったが、すでに脳震盪を起こし、戦闘不能である。
フラハー王は笑いながら二撃、三撃と殴打を繰り返す。
アールッシュが息絶えるまで叩き潰すと、次なる目標を定め、笑いながら去って行くのだった。
消えゆく意識の中で、アールッシュは「恨むなら使えた主を」というフラハー王の言葉に返答する。
「愚王と言われようと、我が主に恨みなどあろうハズがない。むしろ感謝だ。お役に立てず、すみません・・・・・・」
志半ばで褐色の騎士は息絶える。




