軽装騎兵同士のすれ違い。
両軍ともに対峙、時刻は夕方四時となっていた。
九月の日没は六時のため、一戦交えると、日没近くになりそうだった。
のぞみは作戦の全容を指揮官に伝える。
時間は十分にあったため、森の伏兵にも詳細な説明を行なうことができた。
琴葉隊全員とティラドールは本陣、正確には焼き払われた本陣のあった部隊のやや後方に待機する。
「さて、スパツェロさんの敵討ちを始めましょうかね」
珍しく冗談を言いながら、のぞみは開戦に望む。
予想通り、プルミエ国の重装歩兵部隊が猛突進してくる。
盾を前面に押し出し、いつでも上向きにできるようにしていることからも、投槍に対して警戒しているのであろう。
ティラドールは鏑矢と呼ばれる音の出る矢を放つ。
「ぽうぅぅぅ・・・・・・ぅん」
何とも覇気のない音ではあるが、音が聞こえると、中央正面の軽装歩兵部隊が投槍する。
重装歩兵部隊に七百の槍が降り注ぐが、ほとんどは盾で防がれる。
一部の兵はくらうが、多くは無傷であり、進軍は止まらない。
大慌てで後退し、二射目を放つと、そのまま交戦となる。
二射目は高めに放射線を描いたため、突撃を意識して前に盾を構えた重装歩兵には効いたようである。
しかし、被害はやはり軽微と言わざるを得ず、突進力は衰えない。
盾での突進ゆえに、剣や槍でない以上は致命傷を負わないが、重量で吹き飛ばされていく。
軽装歩兵は横に弾き飛ばされていき、両者の思惑通り、中央に道ができ、両陣営の軽装騎兵百騎ずつが相まみえる。
フラハー王の影武者を務めていた兵は、単騎で翻り、のぞみ達の元へと退避する。
本陣手前で、大きく迂回し、のぞみ達の後方に到着すると、馬から下りて、合流する。
その様子を見ていたドルディッヒ王は大声で笑う。
「はーはっはっは。フラハー王は逃げ足だけは速いようだなぁ。尻尾巻いてオンナの元に逃げていったぜぇ。」
周囲の騎馬兵もまた同調して笑い、士気を高めると、ドルディッヒ王の剣の振り下ろしにあわせ、突撃を開始する。
対峙していたシークンドもまた剣を振り下ろし、ドルディッヒ王に向けて騎馬を走らせる。
すぐに剣をしまうと、スピアに持ち替え、突っ込んでいく。
フラハー王と違い、極めて冷静な態度を変えないシークンドはそれはそれで脅威である。
シークンドはドルディッヒ姿を認めると、標的を定める。
予め作戦ではお互いにすれ違うことになっているのだが、騎士としての衝動がシークンドを突き動かす。
「一撃だけ挨拶をしておくか・・・・・・」
口角を釣り上げると、ドルディッヒ王に向けて突進していく。
ドルディッヒ王もまた攻撃的かつ高慢な性格から、立ち塞がる騎馬をすり抜けるだけでなく、一撃入れようと企む。
両雄がすれ違いざまに一撃を入れるが、勝敗はシークンドに軍配が上がる。
落馬こそしなかったが、右肩をスピアで打ち抜かれ、武器の槍を取り落とす。
「ぐわぁっ。くっ。まだだ。まだ終わっちゃいねぇ。相手の大将落とせば、こっちの勝ちよ」
そういって、腰の剣を抜いて、本陣を目指す。
勢いの付いた騎馬は止まらない。
二合目を打ち合うことなく、両者はすれ違う。
「フン。やはり勢いだけの小童か。つまらん」
そう吐き捨てると、作戦通り、そのまま突進する。
他の軽装騎兵も結局は一合だけ打ち合って、完全にすれ違いというのは中々ないが、両軍ともに行き違うのであった。




