プルミエ国、夕方の決戦を決意する
プルミエ国は荒れていた。
今すぐに突撃し決戦に望むことを主張するドルディッヒ王とそれを支持する決戦派、アインハイツ将軍、アドランデ将軍の援軍と物資を待ち、待機を主張する持久戦派に分かれる。
本当はヴィータ国を中心に、撤退派も多くいたのだが、ドルディッヒ王のどえらい剣幕に主張はできずにいた。
両軍ともに膠着に陥っていたこともあり、交代で昼食を取るが、物資がないことがバレている以上、いつ攻撃されるかわからない。
また、味方兵士の遺体の収容、負傷兵の手当などもあり、休む間もなく陣内では人が行き交う。
幸いにして、午前中のうちに工兵と輜重隊が簡易ながらも拠点を構築してくれたお陰で、医療、衛生や食事の配給などのいくつかは機能できていた。
が、実のところ、今夜の食事はない。
拠点構築のための資材だけが先行部隊に合流したのであって、食糧や武器などは全て後続の輜重隊が持っているはずだったのだ。
アインハイツ将軍が道中に防衛していた輜重隊、工兵、騎馬隊がいたが、その輜重隊はあくまでも先行部隊としての輜重隊であり、兵糧は詰んでいない。
ただ、アインハイツ将軍のドルディッヒ王への配慮であろう。
ドルディッヒ王専用と書かれた食糧だけが何食分か搭載されており、それがドルディッヒ王の機嫌を何とか保っている。
王は分配する気もなく、一人食事を取りながら、突撃を主張する。
自らが攻撃されたことに腹を立てており、その怒りは一向に治まらない。
唯一なだめることが可能と期待されたアールッシュも決戦派に回っている。
「私も決戦が良いと思っております。アドランデ将軍の護衛していた物資がいつ到着するかはわかりません。ただでさえ半日から一日は行程が遅れていたのです。交戦した後、いつ合流できるとも限りません。無論、主力の到着は待ちたいですが、いつになるかわからない、最悪来るかどうかも確定しないものを待つのは楽観的すぎます」
そういって、持久戦派の指揮官を説得する。
「しかし、今は二千ですが、アドランデ将軍、アインハイツ将軍さえ合流できれば四千になります。数で圧倒的有利にたちますぞ」
持久戦派の指揮官が食い下がる。
「いつ到着するかわからないものを待つわけにはいかない。しかも、ヘス国との交戦でどれだけ減っているかもわからぬ。物資を奪われた可能性だってある。到着するのはこちらの主力ではなく、相手の援軍かもしれんのだ!」
アールッシュの最悪の想定が場を騒然とさせる。
近衛兵団は、王の身辺警護という特性上、常に最悪の事態を想定する。
ゴミ箱の中、カーテンの陰、裏切り者の存在など常に意識する。
マイナス思考なほど向いているのだ。
実際に、アールッシュの言うことに誰も反論できない。
「時間が経てば経つほど、食糧や武器などの問題は深刻になる。そうなれば士気は下がり、戦どころでは無くなる。相手の戦術をみただろう? 策を弄する時間を与えることもこちらには不利だ」
そういって、まくし立てる。
ドルディッヒ王は一人食事に夢中であったが、腹が膨れてやや落ち着きを取り戻すと、単純に昼寝がしたくなっただけであろう。
「もう良い。夕方に総攻撃を仕掛ける。これは命令だ。決定事項ゆえ覆ることない。各自準備をしておけ」
そういうと、奥に簡易ベッドを用意させ、横になる。
「ドルディッヒ王、賢明な判断かと存じます」
アールッシュを筆頭に、決戦派の指揮官が深々と頭を下げ、退席する。
まだ何か言いたそうな持久戦派の指揮官も渋々退席し、場所を変えて、決戦派と議論を続けるのだった。




