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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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スパツェロ止血なるか

 幸いにして、あまりにもプルミエ国の前面弓兵の被害が甚大であり、追撃はなかったため、スパツェロは仲間に応急の止血をされ、担がれて戦線を離脱、本陣へと運ばれる。


軽装歩兵部隊は突撃前の位置に戻って布陣を再編成していた。





 本陣に運ばれると、のぞみ、アス老人、テラガルドが囲む。


どうみても致命傷である。


受傷した部位は大腿動脈を貫いており、もはや通常では止血はできない。


この時代、世界における医療では手術、輸血は不可能であった。


まだ十数分しか経っていないが、すでに多くの血が流れ、顔面は蒼白、意識も朦朧としている。


「助かるかわからないけどが、ボクが止血するよ」


そういって、のぞみはスパツェロの前に行き、テラガルドに薄い食塩水を用意させる。


「アスさん、指揮をお願いできますか?」


そう言って、全軍の指揮をアス老人に委ね、のぞみは治療に専念する。


「止血ヒーモスタット」


全神経を集中し、血を止める。


血液もまた半分以上は水分である。


水の魔法使いののぞみは簡単な止血であれば行なうことができるため、局所的な血流を止めることで止血を行なう。


当然だが、止めるだけであって、輸血しているわけではない。


これ以上の出血をしないようにするだけだ。


ただ、量はバケツなどに入った水に比べると少ないが、水圧はそれなりであり、勢いよく出血している。


そして、細いため、扱いは繊細であり、魔法で水を操ると言ってもかなり難易度は高い。


滲むような出血であれば、楽なのだが、血管からダイレクトに出るものはなかなかに集中力を要するのだ。


そこへテラガルドが食塩水を持ってくる。


「なるべく新鮮な水になるように煮沸したものを持ってきました。指定の量の食塩も入れてあります。ちょうど人肌にはなっているはず」


もはや説明不要であるが、加温した生理食塩水である。


この時代の医療が未発達ではあるが、零コンマ九パーセントの濃度の食塩水が血液を破壊しないという事実は一部の軍の医療班では知られた事実である。


本来はキチンとした知識の元で輸液というものが有効であるということを知るべきなのだが、時代的に難しい。


簡単に傷を洗い流すということと、魔法を扱いやすくするために生理食塩水を用意したのだが、結果として輸液としての効果も得られることになる。


少量の水を扱うよりも、多少まとまった量で、水たまりのようになったものの方が水の「操」はやりやすい。


ただそれだけのことで、生食を患部に垂らし、止血を促すとともに、体内に生食を浸潤させていく。


結果として止血と輸液を同時に行なっていくことになるのだが、輸液の効果は予め期していたものでもない上に、その有効性については知るよしもなかった。


一通り止血は終わったが、依然として予断は許さない状況である。


が、のぞみにできることはここまで。


医療・衛生班に任せ、全体の指揮に戻っていくのだった。

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