スパツェロ、王の怒りを買う
敵との距離が五十メートルになったころからスパツェロは指示を出す。
「よし!今だ。 狙いはつけるな。遠くへ飛ばせば自然とあたる。槍投げ、斉射ぁ~!」
突進する軽装歩兵が一斉に槍を投げる。
およそ半分も届かず、完全にフライングの指示だったが、半分は想定内だった。
威嚇が目的だったからだ。
先の朝美の投槍は七十メートルと女子最長記録に匹敵するが、改造した槍であり、若干の魔法付与がある。
一般の男性の兵の槍投げは五十メートルくらいが平均だろう。
届かないのも無理はない。
ただ、先の七十メートルが脳裏に焼き付いている敵兵が警戒し、ビビるには十分である。
気持ちと身体が回避運動に走り、矢を射るよりも避けることに集中してしまう。
届かなかったことに安堵し、矢を番える頃には、二本目の槍が飛んでくる。
その頃には立派に射程距離であり、数百を超える槍が弓兵に降り注ぐ。
最後にトドメとばかりに、三本目の槍も投げる。
一人あたり三本持たせていたため、七百の兵により二千本の槍が投げられたことになる。
面白いように軽装歩兵の槍が敵を打ち倒していく。
スパツェロは作戦通りに動く。
作戦では、本来の接敵ラインに到達した後、第一撃目で届かなかった槍を拾って最後の投槍、あるいは最前列で動揺している敵を討ち取り、すぐに退却という手筈だった。
同士討ちになるため、両翼の弓隊からの矢は可能性として低いが、退路は別である。
また、弓矢隊の奥にはドルディッヒ王がおり、軽装騎馬隊が控え、その奥には主力となった重装歩兵がいるのである。
突出すると、反撃があるため、ほどほどで撤退する予定だったのだ。
無事に作戦通り接敵ラインに到達すると、地面に刺さった不発の槍を取って、投げる。
スパツェロは奥にドルディッヒ王の姿を確認し、王に向かって投槍したのである。
まさか届くともあたるとも思わず・・・・・・
ドルディッヒ王も、目の前で弓矢隊が槍の嵐で無残に散っていくのを見て、怒りのボルテージが上がっていたところに、スパツェロの放った槍が兜をかすめ、弾き飛ばす。
遠目でスパツェロと目が合うと、怒髪衝天。
「おのれ!! ムシケラがぁ!!!」
単騎で駆け出し、スパツェロに襲いかかる。
スパツェロは恐ろしい形相で迫ってくる王に腰を抜かし、尻餅をついて固まる。
かろうじて、声を張り上げ、指示を出す。
「て、撤収! 撤収だぁ」
しかし、腰が抜けて動けない。
回りの部下達が、引きずるように移動させるも、鬼気迫るドルディッヒ王に恐れをなし、皆が一度距離を取る。
馬上から容赦ない槍の斬撃が振り下ろされるが、かろうじて初撃は腰に佩いていた剣ではじく。
駆けつけた周囲の部下達が盾になるも、槍で払われて弾かれていく。
ドルディッヒ王の怒りはすさまじく、激しい槍の突きがスパツェロを襲う。
身体を捻るようにして避けるも、大腿部、ちょうど内股のところに深々と槍が刺さる。
すぐに抜かれ、大量の出血があたりを染める。
ちょうどその時、軽装騎馬の後ろにまたがったアールッシュが来て、王を引き留める。
「ドルディッヒ様、危険です。単騎での突出はおやめください。一度立て直しましょう!」
そういって、怒り治まらぬ王をなだめ、堂々と自陣に戻っていくのだった。




