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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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矢、なくなる

 動いたのはフラハー右翼の先頭に位置する百五十の軽装騎兵。


相手正面に向かうのではなく、戦場を真横に駆け抜ける。


ちょうど、右翼から左翼に向けて、横切り始めたのだ。


そこはヴィータ国の弓兵を右手に見据えて平行に走る形となり、あたかも挑発しているかのようだった。


無論、だいぶ前進した後のこと、すでに相手の射程圏内であり、ヴィータ国の弓矢隊も反応する。


「う、射て! 騎馬を移動させるな。横っ面に矢をかませ!」


ドルディッヒ王の判断ではなく、ヴィータ国の独断である。


ちょうど指揮官が失われ、繰り上がりで指揮官になったものゆえの未熟さと、これまでの張り詰めた緊張感、そして過去ののぞみの剣の回転から何か仕掛けてくるという恐怖。


全ての条件がそうさせたのだろう。


結果、百五十の軽装騎馬が左翼に合流するまでに敵軍中央部は矢を射続ける。


両翼は正面奥に弓隊がいる関係で、動けずにいた。


騎馬を狙って矢を射ようものなら、正面からの矢を一方的に受けることになるからだ。


無事に左翼に合流した後、再度のぞみの剣が掲げられ、回転する。


今度は元々左翼にいた騎馬が右翼に走る。


先ほどの逆である。


再び中央軍のみ矢を浴びせる。


先ほどよりは精度が高くなっているが、それでも騎馬の速度で走る移動体を捉えることは難しく、なかなかあたらない。


三度、四度、五度と繰り返しのぞみの剣が回転し、右翼の軽装騎馬が一往復半して左翼に、左翼の軽装騎馬は一往復して元の左翼に集結する。


三百騎の軽装騎馬が左翼に集合し、およそ十騎ほどの被害が出たが、中央の軽装歩兵が落馬、負傷兵の回収に走り、被害は一ケタで済んだ。


そして、六度目ののぞみの剣の回転が起こる。


左翼にいた軽装騎馬が右翼に走り出すが、今回は大きくカーブを描き、中央部の軽装歩兵の後ろを通るようにUターンして左翼に戻る。


今までと同じと誤解した中央の弓兵は矢を射るも、その後の動きに慌てる。


中央にいた軽装歩兵が突進してきたのである。


通常であれば、射程、装備の問題であり得ない。


盾は持っているが、重装ではないのだ。防御力が弱い。


当然、槍では弓の射程に勝てない。


したがって、兵科の相性から正面切っての突撃はあり得ないのだ。


何よりも、まだ二百メートル切ったくらいの距離はある。


到達するまでにハリネズミとなるのが通常だ。


が、ここで異変が起こる。


矢がまばらにしか飛んでこない。


要因は二つ。


一つに、軽装騎兵に射った直後であったため。


もう一つは矢がきれたことが原因である。


一般的な矢筒という矢を入れるケースは最大で十二本。少ないと六本だ。


戦場の最前列で、弓矢隊である以上、十二本の可能性が高い。


六回の軽装騎兵への斉射で打ち尽くしてしまったのである。


もちろん、それを狙ったのがアス老人の策の目的である。

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