朝美、本陣に戻る
「さすがに、三発命中とはいかなかったけど、まぁ良しとしてくれ」
そう言って、朝美は頭を搔くが、上出来だろう。
「いや~。わたし達がやった後だからね。警戒されてあたらないかと思ったよ」
そう言って、琴葉はおどけている。
「あたしも、そう思ったんだけどな。結果なんとかなって良かったよ。にしても、お前らがあの距離、あそこからあてるとは思わなかったよ。威嚇狙撃だと考えてたからな」
「ふふふ。私も自分でまさかという気持ちです。運が良かったとしかいえませんが。腕にあたったようですが、毒を塗ってあるので、明日の朝には亡くなっているでしょう」
ティラドールは琴葉とは仲直りし、軍規違反については触れないこととしていたため、二射目については言及しない。
「中央も、朝美殿の投槍のお陰で、遠距離攻撃が軽装歩兵でも十分脅威となることを知ったでしょう。全員投槍用の槍を持っているわけですからな」
ティラドールはスパツェロの軽装歩兵部隊が通常装備とは別に投槍用の槍を持っていることを遠目に見る。
さすがに、全員が朝美同等の能力を持っているとは誤認しないだろうが、警戒を持たせることはできたであろう。
「作戦としてはあまり褒められたもんじゃないけどね。個人の戦闘力に頼ったものだし、だいぶ危険にさらしちゃったから」
のぞみは申し訳なさそうに朝美を見る。
「なーに。あんなもん危険でも何でもないさ」
朝美はのぞみの肩に手をやり、にっこりと微笑むと、汗を拭いて、水を飲む。
ふぅ、と一息つくと、軽装歩兵の元へと戻っていくのだった。
「じゃ、わたしたちも戻ろっか? ティラちゃん、またね~」
そう言って、手を振っていつもの笑顔で弓矢隊に戻っていく。
のぞみは先ほどのことを心配してティラドールを見て一声かける。
「琴葉ちゃんはもう気にしてないと思うから、ティラドールさんもあまり引きずらないで大丈夫だよ」
「わかっております。琴葉殿は切り替えができるお方ですから」
そういって、半笑いをすると、狙撃用の弓ではなく、三矢斉射用の弓に換装し、部隊へと戻っていく。
後ろ姿を見ながら、テラガルドが呟く。
「琴葉さんと接してから、だいぶ考え方が柔軟になりましたな。以前ならまだ切り替えが一割もできていなかったでしょう」
「そうじゃなぁ。根がクソ真面目じゃからな。今でも半分は引きずっておろう。ま、これからじゃな」
ふぉっふぉっふぉと笑い、敵陣を見つめる。
動揺は走っているが、陣形に大きな変化はない。
最初の太鼓と圧をかける作戦で弓隊がやや横陣になった以外は中々に動じない。
指揮官を三名も倒したといっても、総被害者数も似たような数字である。
「膠着状態は避けたいなぁ。かといって、ゴリ押せば余裕だろうけど、被害もそれなりに出そうだし」
のぞみは呟くようにいうが、現状をまさに吐露したような内容だ。
確かに、森の伏兵で挟撃すれば、数で圧倒できる。
しかし、四倍もの数を擁する弓兵達の矢を浴びることになり、被害は甚大となる可能性はある。
まぁ、重装歩兵ゆえに、盾でかなり防げるのだが、それでもある程度は覚悟しなければならない。




