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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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投槍による狙撃

「ようやく出番なのは嬉しいけどよぉ。よりによって琴葉だけでなくティラドールまで指揮官を取ったとなると、それなりにプレッシャーだなぁ」


朝美は直線的に敵軍の中央に単身で突っ込む。


二百メートル以上の距離があり、櫓の上という高さから射った矢が当る方が奇跡なのだ。


琴葉ですら運要素が高い。


両者ともにあたるとはよもや思わなかったため、朝美は憂鬱になる。


左手に二本、右手に一本の槍を携え、無謀ともいえる特攻をする。


あまりにも無謀無策に思える単身での特攻に敵軍は一時騒然となるが、すぐに中央の弓隊の指揮が指示を出す。


「斜め四十五度に放物線を描くように・・・・・・斉射!」


指揮官の声とともに、ヴィータ国の弓隊のみが遠距離斉射する。


弓矢の直線での射程は数十メートル。


これが殺傷力をもった丸木弓の限界射程である。


狙ったとおりにあてるのならば五十メートルが限界で二十メートルが一般的であろう。


琴葉は百メートル先を射貫くが。


これは先端の鏃といわれる部分が金属で、貫通力を持たせ抜けにくくさせている分重いからである。


しかし、実際には先に行なわれたような狙撃は現実的ではない。


遠くに向かって角度をつけて飛ばすことで、落下のように矢の雨を降らせることが多い。


そのため、射程は二百メートルとなる。


さきほどから両軍が意識していた距離はおおよそこれくらいである。


弓手によっては三百を超えるであろうが、単独では斉射とならない。


しかも、相手の先頭にだけ届いても意味がないので、実際はもっと引きつけて射つ。


そこらへんは部隊と指揮官によるものだ。


実際に二百メートルを切ったところから指示を出すポイントだ。


朝美が突撃すると、やはり二百メートル手前から矢が降り注ぐ。


しかし、距離感がつかめないのだろう、高速で突撃してくる少女のいる場所には一本の矢も飛んでこない。


第二射が降り注ぐ頃には百メートルまで詰まる。


ここでようやく朝美のいる場所に照準が合った矢が降り注ぐが、量としては少ない。


朝美は回避しながら、突進のスピードを緩めない。


ちょうど五十メートル地点が朝美の目標地点だ。


ただ、その時に第三射目がくると予測されるので、動きが止まったところに矢が降り注がないように細心の注意をする。


「到着っと。まずは一発! とりゃあ!」


朝美は右手に持っていた槍を投げる。


狙うはプルミエ国の弓隊隊長だったのだが、惜しくも躱される。


照準はバッチリだった。


元々立っていた位置に寸分違わず槍が到達するも、回避され、後ろの一般兵に刺さる。


さすがに弓矢による狙撃のあとで、槍を持った少女が単身突っ込んできたのだ。


狙いも途中からバレており、致し方ない。


「くっそ! このまま手ぶらじゃ帰れねぇ」


琴葉が馬鹿にしてくる姿が頭に浮かび、歯ぎしりすると、左手に持っていた槍を右手に一本持ち替え、次の標的に向かって投げる。


次の狙いはヴィータ国の弓隊指揮官だ。


「頼むぜぇ。避けるなよ! うりゃぁ」


槍はやや放物線を描きながら、標的まで飛んでいき、ヴィータ国の指揮官の胸に刺さる。


身体ごと吹っ飛ばし、後ろの兵も数人なぎ倒す。


さすがに距離があって威力が落ちたのか、貫通するには至らなかったが、見事狙撃を果たした。


朝美は隠すことなくガッツポーズを取ると、最後の槍を右手に持つ。


「最後のコイツはおまけだ」


そういって、助走をしっかりとつけ、ドルディッヒ王の方に向けて最大威力で投槍する。


「追風!テールウィンド」


風の魔法を発動させ、気持ちばかりの若干の追い風機能をつける。


数メートル分だろうが、射程が伸びる。


およそ七十メートル以上は飛んであろうが、元より届くとも思っていないし、狙撃を行なったわけでもないが、その飛距離に敵軍からどよめきが起こる。


運悪く、名もない弓兵に刺さり、犠牲者が出たが、敵に恐怖を与え、射程距離を植え付けることに成功した。


追撃の矢が第四斉射として放たれる頃、朝美は全力で戻っていく。


さすがに背中を向けて逃げるわけにはいかないので、横向きに大きく迂回し、ジグザグになって本陣に戻ると、のぞみとアス老人、琴葉、テラガルド、ティラドールと次々にハイタッチを交わす。

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