聞こえるよ
「我の背中に乗れ。」
「じゃ、遠慮なく。」
白竜王の背中に乗るなんて、もう2度とないことだろう。
ゴツゴツとした鋭い、鱗は水晶のように美しく輝き、いかなる攻撃をも防ぎそうだ。
これ一枚で一生遊んで暮らせそうだ。
龍は鱗が何よりも誇りであるため、あまりベタベタと触られるのは好ましくないんだとか。
たいうか、さっきまで、アルラがペタペタと触っていたが男気がいいのか「気にするな」と言っていた。
ちなみにエドが触ろうとしたら、鼻息でふっ飛ばしました。
どうやら、女性限定のようです。
ましてや、俺は男でしかも鱗を土足で踏んでいるから申し訳ない気でならない。
「ふん、我の背中に男が乗ったのは初めてだな。運がいいやつめ。」
ですよね。
「しっかり摑まれよ。」
背中には紐と鞍が装備されていて、これならゴツゴツした鱗の上でも快適に乗れそうだ。
「くく、どうだ乗りごごちは。」
「おお、なんかずっしりするな。」
跨ると、龍の鼓動が全身に伝わってきて熱くなる。
これが、竜騎士が見ている目線か。軽兵が雑魚にしか見えないのも納得できる。
こんなのが、空から大群で襲われたらひとたまりもないことだろう。
竜騎士は相手にしたくない気持ちがよくわかる。
見方にすれば、怖いものなしだな。
以前、相手した竜騎士は白竜王よりもひと回り小さかったがそれでも苦戦した。もし、あの時の相手がこれに乗っていたらと思うと、ゾッとする。
「では、行くぞ!」
バザー!!
一度、翼を羽ばたかせると物凄い風圧で砂埃がまって軽い砂嵐状態に。
「ぎゃー!!目が〜目が〜!」
どこからかエドの悲痛の声が聞こえる。どうやら、目に砂が入ったみたいだな。
他のみんなは想定していたかのように全身を風の防御魔法で覆っていた。流石は、Sクラスなだけある。
感心している中、雄叫びをあげた白竜王はカズトを乗せて空へ飛びだった。
「カズト……」
地面から少しずつ離れていくカズトを見て、アルラは気持ちを抑えるのでやっとだった。
でも、やっぱ我慢できない。
「カズト!!!」
心からの叫び。既に飛び立ちはるか上空にいるカズトにこの声がと届くかはわからない。
「絶対!絶対帰ってきてね!!」
でも、この気持ちだけでも伝えないといけない。
影がさらに小さくなっていく中、
「ああ、じゃあな!!」
とアルラにしか聞こえないほんの小さな返事が返ってきた。
気がつけば頬に涙が垂れていた。でも、これは悲しみの涙じゃない。
涙を脱ぐんで、アルラは決意する。
「私も頑張るから……お兄ちゃんも頑張ってね」
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「ああ、じゃあな。」
「何、独り言を言ってるんだ。」
「いや、何か聞こえた気がしてな。」
実際には何も聞こえてはいない。でも、聞こえた気がするんだ。
「頑張れ」って。
「……そうか。」
竜王も何か理解したらしく、それ以上は何も言わなかった。
王都が段々と小さくなっていく。上空から見るとデカイと思っていたのになんだか小さく見える。
空は完全にカズトと白竜王の独壇場であった。
「これなら、あと二時間ぐらいで着きそうだ。」
絶好の飛行日おりで、雲ひとつもなく快晴だ。
地上人が空飛ぶ怪物を見たらどう思うだろうか。きっと、騒ぎ出すだろうな。
そんなことを思いつつ、空の旅を楽しむのだった。




