最低!!
「ねぇ、本当なの?」
「………」
ここにきて、1番の問題が来てしまった。
どう説得しようか、これから考えようと思っていたところだ。
アルラの目は、明らかに行かないでと訴えている。そんな目をされたら、余計行きたくなくなるじゃないか。
「一生、隣にいてやるって言ってたじゃない!」
悲しみを通り越して、それが裏切られたことへの怒りに変わる。
告白のようにも聞こえるが、付け加えると、妹としてだ。
「どうして……どうして、何も言わないの!」
言わないんじゃない……言えないんだ。
「カズトの馬鹿! 勝手にいけばいいのよ!!」
バン!!
部屋から勢いよく出て行ってしまった。
部屋をなんとも気まずい空気が漂う。互いが気を遣い合って誰もしゃべらない。
アルラが出って言った時、彼女の目から一滴の涙が出ていた。
アルラが泣くところは何回も見た。
しかし、今回は何かが違う、重みがあった。
自分の申し訳なさと、身勝手さが許せない。
「おい、バカズト。」
「なん……」
パン!
気まずい空気の中、ルナがカズトに話しかけ、平手打ちをした。
「お前、最低だな。」
皮肉交じりに一言。しかし、それはどんな武器よりも鋭く、深く刺さった。
最低という言葉に、何も言い返せない。
「行きましょう、会長。このどアホ唐変木クソ野郎の事なんて、心配する価値がありません。」
「え、えっと……」
クラミーも突然、振られるものだかどう返事していいかわからないようだ。
「た、確かに、勝手に決めたカズト君も悪いわ。でも、貴方には他の問題があるわ。」
「他の……問題?」
それは一体どんな問題なんだろうか。わからない。
素直に聞こうとした。しかし、彼女はカズトが尋ねる前に部屋から出て行ってしまった。
残ったのはカズトを含めた3人。
その様子を見ていた。闇影はやれやれといった感じでため息をついていた。
「カズト殿、拙者が言うのもアレでござるが……女子を泣かせる殿方はルナ殿のいう通り最低でござる。」
口を開いたかと思うと、闇影からも厳しい一言が返ってきた。
しかし、闇影はカズトには見えない様に口をニヤリと動かし……
「男なら……覚悟を見せろ。師匠に言われた言葉でござる。」
意味深な言葉を残して、一瞬で消えた。
「覚悟を見せろ……」
覚悟。久しぶりに聞いた言葉だ。戦いの中でしか、見せたことがないものだ。
しかし、闇影のいった“覚悟,,とはそれとは全く違うものだ。
男としての、男のあり方としての覚悟だ。
俺はバカだ。どうしてそれに気付けなかったのだろう。
ルナもクラミーも同じことを言っていたんだ。平手打ちされた時は、痛いとしか思わなかったが、今は心に響いて、励ましになった。
「すまんマサトーナ!アルラの所へ行ってくる。」
「そうですか。けじめをつけてきてください。」
彼女もわかっている様で、カズトを止めようとはしなかった。つくづく、お前には叶わないよ、マサトーナ。
勢いよく、部屋を飛び出し、アルラが下宿している寮へと向かった。
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「ふふ、青春ですね〜」
勢いよく、出って行ったカズトを、温かく見守る。
教師として、教え子がいい方向へ育つことは何よりも、嬉しいことだ。
「さて、私は書類の続きをやりますか。」
未完成の書類に手を出し、業務に差し掛かる。
すると、突然電話が鳴り始めた。
「はい、マサトーナです。あ、これはこれはお久しぶりです。例の件ですか? 少々、問題が生じましたが、大丈夫です。
そちらの方は……」
電話の主はエメレシア学園の校長。例の交換留学の件についてだ。こちらの方は、ゴタゴタがあったが、本人がけじめをつけると言っていたから、問題はないだろう。
「………そうですか。では、失礼します。」
電話を切ると、マサトーナはため息をついて、窓の外を覗いた。
今日は、いい天気。しかし、これがいつまで続くことか。
「さて、こちらも行動を起こしますか。」
再び、受話器を取り、とある番号へとかけた。
しばらくして……
「もしもし、マサトーナです。大至急調べて欲しいことがあるのですが……」
誰もが知らない。何かが起きようとしていた。




