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神聖剣使いの姫騎士と鬼神刀使い  作者: ザウルス
学園編
42/63

炎。それは全てを焼き尽くす……

「あっぶねー!!」


赤マントと決闘している時、運悪く建物が崩れ去り、カズトは落っこちてしまった。


神風を抜刀していたおかげで、地面にぶつかる寸前に神風を壁に刺して落下を防いだのだ。


しかし、片手に全体重と落下による速度がプラスされた為に、腕を痛めてしまった。幸い、骨折もしてないようだから直ぐに治ることだろう。


カズトは神風を壁から外し、地面へと降りた。下には先程崩れたコンクリートの破片で一杯だ。


補強のための鉄筋が突き出ていて、あのまま落下したら人体を貫通していたことだろう。


「しかし、本当に弱ったな……」


敵とはいえ、ここがどこなのか聞くチャンスでもあり、カズトは殺すつもりなど微塵もなかった。攻撃してきたとはいえ、背に腹は変えられない。


神風で相手の武器をなぎ払った後に、腹部にパンチを入れて気絶されるつもりだった。


その為に、人体強化を使ったはいいが、この有様だ。


力は抑えたはずだが、それでも崩れたとなると相当老朽化が進んでいたのだろうか。もしくは、脆いことを知っていてわざとここに送り込んだのか。


どっちにしてもありえそうな話である。


もう一度、壁を蹴って登ってはみたが、流石に赤マントはいなかった。


赤色は遠くからでも目立つが、この濃い霧の中ではわからずじまいだ。


完全に逃げられてしまった。


探そうにも、砂漠の中で針一本を見つけるようなものだ。


しかし、カズトにはきになることがもう一つあった。


「この霧……明らかに人工物だ。」


霧のことは森に住んでいたからよくわかる。天然の霧は水分を多く含んでいて、湿っぽいのが特徴だ。


逆に街中で起こる霧は、工場から出た排気ガスや家庭から出る煙など、スモークが混ざり合い濃くなったものが多い。


だが、この霧は天然よりも明らかに多くの水分を含んでいる。かといってスモーク特有の匂いもしない。


手で追い払うと汗をかいたかのように水が手についており、今気づいたことだが、下は水浸しになっていたのだ。雨など降っていた覚えはない。


強いて言うなら霧というより雲の中にいるみたいだ。それも濃くて水分を多く含む雨雲のような感じだ。


ここであるものを思い出した。それは実際にはありえないとは思うが……今の状況はそれにぴったりなのだ。


天空都市(アトラス)


たしか何かの物語で勇者が悪竜を倒した所の名前だった気がする。


天空都市全体が大きな雲に覆われていて、外敵から守っているのだ。街は天空人と呼ばれる、腕に小さな羽毛のような物が生えている。


空は飛べないらしいが、人々は平和に暮らしていたんだとか。


しかし、悪竜が突然現れ、天空人を襲い始めたのだ。なす術がない天空人は街全体を霧で囲んで身を潜めたと書かれている。悪竜は水に弱いらしく、水蒸気の塊である霧の中にはあまり長くはいられないそうだ。


これはあくまで物語での話だ。


物語はモデルになった人物や話があるが、殆どは子供ウケを狙ったフィクションに過ぎない。


「……馬鹿馬鹿しいか。」


そもそも、カズトは王都で散歩をしていたのだ。そこからはるか上空にあると言われている天空都市まで繋がっていたなんてありえない。


ここで考えているのも無駄なので取り敢えず歩こうかと思っていたら……


「……ん、何だこの臭いは?」


突然、辺りに何かが焼ける匂いがしたのだ。

よく見ると、霧の中に黒色に染まった煙がたっている。


「あそこか!」


もしかしたら、人がいるかもしれない。カズトは地面を思いっきり蹴って煙が出ている位に向かった。


走っていると色が段々と濃くなっていき匂いも強烈になってきた。ここだけ異常に温度が高い。先程までは涼しかったがここはまるでサウナなのようだ。


しばらく経つと、目の前の景色が一変した。白く濁っていた世界だ突然炎のような赤色に変わったのだ。


空気を吸うとその熱さで肺が焼け焦げてしまいそうだ。あまり長くはいられそうにない。


そして見つけてしまった……


「こ、これは……」


皮膚がドロドロにとけ、もはや男性なのか女性なのかもわからないくらい焼けている死体。それが、あちら此方に散らばっているのだ。


いくらなんでも悲惨すぎる。人体が焼けるのは人間では最も苦痛とされるのだ。


慣れていたはずだが、長く見ていると気持ち悪くなってくる。


匂いも強烈すぎて息をしづらい。


コンクリートはドロドロにとけていて溶岩とかしていた。


ある壁には黒い影の様な物が写っていた。その影は剣を構え、何かに立ち向かっているかの様だ。


恐らく、一瞬にして骨も残らない様な熱さでやられたのだろう。そこだけ、溶岩にはならず、黒い影として残っていた。


人間を一瞬にして消してしまうほどの熱量。到底人間には出来ないしなものだ。一体どれだけの魔力を使ったら出せるのだろうか。


「うわぁぁああ!!」


突然奥から悲鳴声が聞こえた。カズトは神風を抜刀し待ち構えた。


「熱い!熱い!誰か消してくれーー!!」


体全体が炎に包まれている男性がこちらに向かってきた。しかし、カズトの目の前で倒れ、そのまま動かなくなった。


背中の火傷が特に酷く、後ろから襲われた様だ。


「ダメか……」


既に息絶えていた。どうやら肺をやられている様だ。しかし、カズトは死んだ男性のある部分を見て疑問に思った。


「出血がひどいな。内臓をやられてるみたいだ……」


男性の背中には数センチほどの穴が空いていたのだ。内臓ごと人体を貫通し、その挙句内臓も焦げている。


炎が上がり周りが明るくなっているのになぜか、奥の方は暗い。それも闇の世界の様な漆黒の世界だ。


この男性はあそこから飛び出してきた。ということは中に何かある。


その闇を見つめていると、今度は足音らしき音が聞こえてきた。


カズトは神風を構え、戦闘態勢に。


コンコンコンコン。


音が段々近づいてきた。


その瞬間、ものすごい殺意と熱力がカズトを襲った。まるで人体を焼き尽くされそうな殺意だ。こいつに違いない。


そして、闇の中から薄っすらと人影見え始めた。


「………」


闇の中から現れた赤いマントを被った人物。

カズトはその格好に驚いたが相手は全く動揺していない。


先程まで殺し合いをしていたのだ。驚くのも無理はないはずだが……


しかし、カズトの考えは一瞬にして消された。


力の次元が明らかに違う。最初にあったやつの方が可愛いくらいだ。


背丈も大きく、マントをしていても金髪色の髪がとても目立っていた。その瞳は真っ赤の炎の色をしていた。


両手に包帯をしていて、右手には短い宝剣を持っている。


カズトの側にいた男性が突然燃え出し、灰となって消えた。


「これをやったのはお前か。」

「………だったらどうすんだよ?」


赤マントを被った人物は意外にも喋り返してきた。声からして男だろうか。口調もヤンキーみたいでちょっとしたことできれそうだ。


「何故殺した。何か恨みでもあるのか。」


ここまでひどい殺し方となると相当恨みがない限り出来ないはずだ。


「恨み? はは、そんなもんねーよ。ただ、邪魔だったから殺した。それだけだ。」


男から帰ってきた言葉にカズトは驚きを隠せなかった。


「俺様が歩いてるのに、こいつらどきもしないんだ。それどころか、注意してきやがったんだ。ああー、思い出すだけでも腹立たしい!」


カズトは身勝手すぎる理由に我を忘れて襲いかかる寸前まで来ていた。必死で我慢していたがてからは血が滲み、下にポタポタと血が落ちていた。


「奴らは運がいいぜ、俺様の最高の(わざ)を見れたんだからな。ああ、悲鳴は最高だ!」


この男は完全に人をやめている。一度狂った歯車は自ら止めることは出来ない。そういう人間をたくさん見てきたが、ここまで暴走している奴は初めてだ。炎に包まれた悪魔と言ったところだろうか。


「……というわけだ。俺の存在を知っちゃたからには生かしておくわけにはいかないよなぁ?」


男がニヤリと笑うと、突然体から炎が沸き起こった。自信を焼き尽くさんばかりの炎を苦しそうな身振りもせずに発動している。


「というわけで死ね!」


男が手をカズトの方に向けるとカズト目掛けて灼熱の炎が発射され、カズトを包み込んだ。


「ハッハハハ!!燃えろ!燃えろ! 悲鳴をあげろ!!ヒャーハハハハ!!」


男の目にはカズトが炎に苦しんでいる様子が浮かんでいた。灼熱の炎になすすべがなく、皮膚が焼きただれ、肺まで燃やし尽くす。その苦しみと言ったらたまったものではない。燃えれば燃えるほど悲鳴は小さくなっていき次第には息絶える。


男にとってはこれが1番の楽しみなのだ。しかし、その悲鳴声がいくらたっても聞こえない。


「おいおい、もう死んだのか。ダッセー。」


男は炎をかき消し、カズトの遺体を確認する。しかし、そこにはカズトの姿はなく、燃え残ったであろう、服の切れ端が残っていた。


「つまんねー。帰ろっと。」


男が帰ろうとした矢先……


「勝手に死んだことにするな。」


男の後ろから聞き覚えのある人物の声が聞こえた。それは紛れもなく、焼き尽くされた人物の声だ。


男は咄嗟に振り返る。


そこには、建物にもたれかかりながら、こちらをじっくりと見つめるカズトの姿があった。


「へへ、そうこなくちゃな!」


男は再びニヤリと笑い、炎をまとった。カズトも同様に神風を構えた。


久しぶりの手応えのある獲物に男はウキウキしていた。何年ぶりかに本気を出せるかもしれない相手を見つけたのだ。


「へへ、じっくりと楽しもうぜ!」


カズトとしても、本気を出さなければ勝てない可能性がある。奴の焔は異常だ。まるで何かの怨念が炎とかしたような感じがした。


今宵、炎の悪魔vs伝説の戦いが始まろうとしていた。





























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