決着!
カズトの運命をかけた戦いがいま始まった。互いの武器を抜刀し、そのまま動かない。
両者ともに、相手の力量を図ろうとしている。
闇影は恐らく相当な手慣れのはずだ。下手に攻め込んで回避行動を取られたらこっちの身が危なくなる。
「こちらから先に行くでござる!」
先に動いたの闇影だ。カズトは咄嗟に身体強化の術をかけ、防御の構えを取る。
シュン!
刹那、闇影がカズトの前から消え……
キィン!
互いの武器が交差し、火花が散る。10メートル以上も離れていたのにもかかわらず一瞬の内でカズトの目の前へと現れた。回避する事が出来ず、神風で防御した。
「早いな。」
身体強化を使っていなかったら一撃くらっていたかも知れない。普通の武器であったら真っ二つになるほどの衝撃が手首から伝わってくる。
「まだまだでござる。」
またとして、闇影が消えた。今度は先程とは比べ物にならないくらいのスピードだ。
「拙者のスピードば音速を超えるでござる。」
あたりからは空気を切り裂く様な音が聞こえる。更には、壁がズコッと凹んでいるのも見える。壁を思いっきり蹴りながら加速している様だ。
「手裏剣の術!」
突如として、手裏剣がカズトめがけて飛んでくる。真後ろから音速で飛んでくる手裏剣を避ける事は普通なら無理だ。
「甘い!」
キィン!キィン!キィン!
神風を鞘に戻し、ふたたび抜刀して手裏剣を打ち落とす。いわゆる居合斬りである。居合斬りによって放たれた神風は風を生み出し、手裏剣の速度を下げたと同時に、手裏剣を打ち落とした。
「空きありでござる!」
手裏剣を落としたと同時に、闇影がカズトめがけて一直線に突っ込んでくる。向かってくる際に足を交差し、回転をかけたために、風がランスのごとく鋭く尖った凶器と化す。
ドゴォーーン!
カズトと闇影がぶつかり合い、爆風が決闘場内に巻き起こり、その衝撃でガラスが割れ、地面がえぐれていた。
砂埃が舞い、辺りが静寂に包まれる。
「勝ったのかしら?」
それを見た、クラニーは闇影の勝ちかと思った。あの速さの攻撃を回避する事は不可能。先程は真後ろからでも手裏剣を防いでいたが、今のは完全に脇腹に直撃していた。まともに喰らえば内臓が破裂するだろう。
闇影も手加減していたから肋骨が折れた程度で済むだろう。
近くに言って安否を確認しようとしたら……
「ななな………」
砂埃が晴れ、目の前には驚くべき光景が広がっていた。
クラニーの予想通りなら、カズトが倒れていて、闇影が戦闘状態を解除して、すぐさまカズトを看病しているはずだ。
しかし、目の前には……
「くぅ………無念でござる……」
くの字に曲がって気絶している闇影。その下には右腕天高くまで突きあがっているカズトの手があった。
カズトの拳が闇影を持ち上げていたのだ。手製の楔帷子は粉々に砕かれていて、刀も落ちていた。
肝心のカズトは何も語らずただ単に立っているだけであった。
しかし、クラニーの時とは明らかに違う姿であった。
黒かった目が紫色に変わり、妖しく輝いていた。手首には、謎の紋様らしきものが浮かび上がっていた。
しかし、それも直ぐにもとどおりになり、カズトは優しく闇影を下ろした。
「直ぐに保健室へ連れて行ってください。先ほどの爆発で何人かここへきてます。」
カズトは闇影をの事をクラニーに頼みこの場から出て行くことにした。
「約束通り、俺は自由でいいんですよね?」
「はい。約束ですから……」
もうこれで勧誘は無くなることだろう。丁度、イベントも終わった頃だ。堂々とグラウンドを歩いて帰れるだろう。
2人を残して、カズトは決闘場から出て行った。
said クラニー。
闇影が負けた時はとても驚いた。クラニーが知る中では1番強いし、誰もが闇影のスピードについて行くことなんてできなかった。
しかし、カズトは攻撃を防ぐだけでなく、闇影のスピード以上の反応速度で倒してしまったのだ。
「くぅ………」
どうやら、目覚めた様だ。クラニーは闇影に肩を貸し、保健室まで急いだ。
「すまないでござるクラニー殿。拙者が油断した上に……」
「そんな事はないありません。貴方は私の為に一生懸命戦ったのだから。」
「む、手製とはいえ、オルガン合金で出来た鎖帷子を素手で砕くとは……恐れ入ったでござる。」
オルガン合金はこの世で1番硬い金属とも言われている。熱にも強くて、とても軽いのが取り柄だ。
しかし、それを素手で粉砕したとなると、相当な打撃だったことが言える。これを着ていなかったら、体が二つに割れていたかもしれない。
ここでクラニーは気になった事を聞いてた。
「あの時何があったの?」
あの一瞬、1秒にも満たないあの瞬間。クラニーの目は完全に脇腹に闇影の刀が入っていく姿が見えたのだ。
「あの時の事はよくわからないでござる……しかし、拙者の刀はカズト殿の脇腹を刺したはずでござる。」
闇影の話を聞いて余計ありえないと思ってしまった。しかし、実際にはカズトはなんのダメージを受けておらず、それどころか素手で闇影を倒していた。
「拙者も勝ちを確信したでござる。しかし、カズト殿が一瞬で消えて、その瞬間に腹の辺りに強い衝撃が走ったでござる……」
「その時のカズト君はどうだったの?」
あの時のカズトは何かがおかしかった。最初は見間違いかと思ったが、明らかに本物であった。精霊の力を使ったのだろうか。精霊と心身を一体にすることでパワーを上げる術は存在する。しかし、あれはなにか違うものだった。
「どうだったと言われても……あの時は一瞬だったが故に覚えてないでござる……」
「そう。それもそうよね。」
闇影は気絶したのだ。聞いてもわかるわけがない。
「ありがとう。貴方は休むといいわ。」
「む、そうするでござる。」
突如と闇影の下には魔法陣の様なものが浮かび上がり、闇影は光の粒子となり消えた。
「ありがとう。ゆっくり休んでください。私の契約精霊」
しばらくは1人で身を守らなければならない。いつも、彼女に守ってもらうばかりだからたまには自分に喝を入れるのもいいだろう。
先程騒がしたかった、グラウンドは嘘の様に静かだ。気づけばもう夕方になっていた。
雲ひとつもない夕焼けは幻想的で何もかも忘れさせてくれる。こんな綺麗な夕日はもう2度と見れないかもしれない。
「絶対に諦めません。」
この光景をしっかりと目に焼き付け、誓いを立てる。
今日は夕日を見れた。しかし、明日は見れるかわからない。
いつまでもこの光景が見れる事を信じて……




