地獄の鬼ごっこpart 2
「ぜぇ、ぜぇ、危なかった……」
ルナが放った技はあと少しでカズトの人体を真っ二つに切り裂くところだった。素早い判断と回避行動により、紙一重であったが避けることができた。
それにしても、あの技は正に死神そのものだった。ルナは確かSクラス在籍でアルラと同じクラスだ。
一年生であれ程の大技を繰り出せるとは驚きだ。これは、今年の聖剣王祭がかなり荒れるに違い無い。きっとルナ争奪戦が始まるだろう。
ま、参加するかしないかはあくまでルナ自身が決めることだから深追いはしない。
何故だかわからないがルナは俺が死んだと思ったのか、他の生徒を鎮圧しに向かっているようだ。
しかし、それでは捕まえたことにはならないから意味が無いと思うが、ルナは下心なんて持っていなく、クラニーを守る為に参加したのだ。
逆に、助かってしまった。
タイムリミットはまだ、1時間以上もある。下手に動くよりここで隠れていた方が安全かもしれない。
「休むか……と言いたいところだが……」
ヒュン!
道端に落ちている石を拾って、すぐ近くにある木の方向へと投げつけた。
「かくれんぼは終わりだ。とっとと出てこい。」
先ほどから、何者かに追跡あるいは視線を感じたのだ。他の生徒は騙せたとしてもカズトには通じない。
「む、ばれていたでござるか。」
木が激しく揺れ、素早いスピードで地面に着地した人物。
全身を黒い布のような服装で覆っていて、背中には刀を差し、まるで暗殺者の格好だ。
しかし、肩にはSクラスのみつけることが許されたステーカーが貼られている。どうやらここの生徒のようだ。
「お前もコレが目当てなのか?」
ポケットからクラニー直筆のパンフレットを見せる。
「とんでも無いでござる。拙者はクラニー殿に命令され、カズト殿を体育館まで導くつもりでござった。」
「成る程な。意外にも腹黒いなあんたのご主人は。」
「失敬、何故それを承知でござるのでしょうか?」
理由は簡単だ。
「俺が風紀委員室にいた時に何者かの視線を感じた。それも、天井からな。クラニーの護衛と気づいたのは俺がクラニーに近づいた時だ。あの時、少しだけ警戒心を強めただろ。」
人間は警戒心とともにごく少数ではあるが殺意が芽生える。カズトがクラニーと話している時に天井からな奇妙な感じがしたのだ。
「むむ、気づかれてしまったのは拙者の修行不足でござる。まだ、闇影の名は語れないでござる。」
闇影という名前なのだろうか。しかし、あの格好は暑く無いだろうか。まだ、春とはいえ段々夏に近づいている。
「忍者は我慢強いでござる。主人の為なら火の中水の中。どんな苦痛にも耐える覚悟でござる。」
忍者って確か、日ノ本では影の護衛として有名だ。魔術とは違った術を使うのが特徴で、変わった道具を使うことでも有名だ。
「なるほど、忍者となるとお前はクノイチってところか?」
声は女の声だが、口調がござるのがすこし気に触る。全身を布で覆ってるから女かどうかは確認できないが。先ほどの身のこなし方は女性特有の癖が出ていた。
「どうやら、カズト殿は忍者の事をかなり詳しいでござる。日ノ本出身でござるか?」
「いや、ちょっと違うかな。」
実際には産まれたとこなど分からない。両親の顔だって知らない。わかるのは、名前だけだ。
忍者の存在は覇道の四刀にいた頃から知っていた。昔、日ノ本にアサルディー帝王の護衛としてついていった事がある。
その時に、忍者と出会った。ヨボヨボの仙人みたいな爺さんであったが、催しで御前試合をした時はとてつもなく強かった。無論、勝ったのはカズト。
あの後、爺さんにとても気に入られて孫と結婚して道場を継いでくれなど無茶な要求をされた。
孫の写真を見た時はかなり可愛くていいかもと思ったが、サクラが嫉妬した為に断った。
今となっては、いい思い出だ。あの爺さん生きてるだろうか、ちょうど孫も俺と同い年だったし、きっとすごく可愛くなっているだろうな。
それはさておき
「結局、お前はクラニーの使いというわけだ。どうしてそこまで俺にこだわる? 出来れば放っておいて欲しいんだが……」
いったい、何を考えているのか見当がつかない。カズトを利用しようとしているのか、ただ単に面白いからなのか。ただの生徒にここまでするなんてありえない。
「それは拙者の口から言えないでござる。ただ、クラニー殿はカズト殿の事をかなり気にしているでござる。」
もしかして、クラニーは俺の事を前々から知っているのでは無いのだろうか。もしかしたら、自分が気づいてないだけで何処かであった事があるのかもしれない。
「クラニー殿は第3決闘場で待っているでござる。カズト殿を誘導するようにと頼まれたのでござる。」
「決闘場?」
生徒同士の喧嘩や領有権をめぐって作られたのが決闘場だ。この学園には異様とまで言えるほど決闘場が多い。別に治安が悪いわけではないが、誰もが自分の強さをアピールする為に決闘を繰り返し行うのだ。
クラニーが呼び出したとなると、俺と決闘する気なのだろうか。今の俺は丸腰状態だ。神風は風紀委員室に没収されたまんまだ。
「まぁ、行ってみてのお楽しみというわけでござる。」
「行くって……丸腰でか?」
ここから決闘場までかなりの距離がある。普通ならのんきに歩いていけるが、今はそうはいかない。俺のを狩ろうとしている生徒がそこら中にウロウロしているからだ。下手には動けない。
「そこは拙者に任せるだござる。忍法、土竜の術!」
何処からか取り出した、土竜の手のような形をした手袋を両手に装着し、地面を掘り始めた。
「地面の中なら敵はいないでござる。」
なるほど、確かに地面の下なら敵に見つかる恐れなんてない。すごい勢いで掘っても音が漏れる事はないから安心だ。
「酸素ボンベを忘れないよう注意するでござる。地面の中は酸素がないどころかものすごく暑いでござるから。」
そう言って穴の中から酸素ボンベがポンと飛んできた。背中に背負うやうをイメージしたが、どうやら、携帯式の酸素ボンベのようだ。時間は短いが十分にもつだろう。
「ありがとな忍者。」
「できれば、闇影と呼んで欲しいでござる。」
「わかった忍者。」
「……もういいでござる。」
闇影はそのまま黙ってもくもくと地面を掘っていく。肝心のカズトも穴の中を滑らないように丁寧に降りるのであった。
30分後………
「着いたでござる。」
無事敵に見つかる事なく決闘場へと着く事ができた。
しかし、今思えば、よくこの距離まで地面の中を進んだものだ。闇影の地面を掘る速さは土竜そのものだった。
しかし、泥がめちゃくちゃ飛んできてぴったりにくっつかないと目に入ったり口に入ったりして大変だった。
後は異常なまでの酸素の薄さと湿度も気温だ。ちょっとしたサウナ状態になり、流石の闇影もちょっとずつスピードが落ちていた。
その他にも、硬い岩にぶつかったり、なんかの骨にぶつかったり、ミミズや何かの幼虫がうようよいた事が災難だった。
無事について本当に何よりだ。
「ついてくるでござるカズト殿。」
闇影の案内のもと、決闘場へと静かに入っていった。
「へぇ、意外と広いもんだ。」
決闘場には初めて入ったが、思ってたよりは広くて、戦いやすそうだ。観客席も数百人規模もあって上級生の戦いを見たり観察するにはいいかもしれない。選手の控え室もあって、設備はバッチリだ。
「お待ちしていました。」
決闘場のど真ん中に立つ女性。クラニーだ。
彼女は俺を見るなり、くすくすと笑い始めた。どうやら、あの一部を見ていたようだ。こっちは綾行く死にかけたところだというのに呑気なものだ。
「うふふ、貴方を読んだのは他でもありません。ここがどういう場所がご存知なはずです。」
どうやら、カズトの考えが的中したように思える。
「ゲームはまだ、終わってませんわ。いざ、私た勝負……」
カズトはため息をしながらも戦闘状態にはいる。神風を持ってないので素手での勝負となる。女を殴るのはあまり心地いい気がしないが贅沢は言ってられない。
「……と言いたいところだけど、私と貴方じゃ相手にならないわね。」
「え!?」
なんの冗談だろうか。ここまで呼び出した挙句宣戦布告してきたかと思ったら相手にならない?何が言いたいんだ。
「貴方は私の護衛と戦ってもらうわ。」
その護衛とはもちろん、闇影の事だ。
「はい、これ貴方の武器。」
投げ出された武器を見事にキャッチし、確認する。それは間違いなく、ルナによって没収された神風だった。
「不思議な刀ですね。私はその様な刀を見た事がありません。」
クラニーもこの刀の魅力に気づいた様だ。なんせ、これは隠された伝説と言っていいほどの品物なのだ。聞いたら驚く事だろう。
「人を斬らない刀、活人剣。今の俺にぴったりなんですよ。」
「人を斬らない剣?」
「見ればわかりますよ。」
神風を抜刀し、刃先を自分の手首に当てる。普通なら動脈が切れて、出血多量で死ぬ。しかし、いくら刃先でこすっても皮膚が切れる事はない。
その様子をみて、クラニーは驚いていたが、直ぐにも「成る程、刃がないんですね。」と納得した。
神風を鞘に戻したカズトはクラニーに決闘の許可を貰っているのか尋ねた。決闘は許可ぎ必要で無断使用したら停学処分又は退学となる。
「うふは、心配ありません。ある程度の権限を持っていますから。」
完全に権力の乱用だ。
決闘には審判がつかなければならないが、それはクラニー人身がやるとの事。
カズトはいつ開始しても問題はないが、闇影の方はというと……
「拙者はむやみに戦いたくないでござる……」
「お願い闇影!」
「拙者は、クラニー殿の父上からくれぐれも甘やかさない様にと言われているでござる。」
「そこをなんとか! 今度、新しいぬいぐるみ買ってあげるから!」
「わかったでござる。」
「ありがとう!」
何やら、交渉の様な話をしているが、カズトには全く聞こえない。それどこらこ、はやくしてほしくて、少しイラついていた。
「ごめんなさいカズトくん。それでは、両者指定のいちに立ってください。」
闇影とカズト。2人の視線が互いにぶつかり合う。2人とも道の強敵に警官している様だ。
「両者はこの決闘にいぞんはありませんか?」
「ない。」
「ないでござる。」
互いに決闘受ける事を承諾しあった。
「それでは……開始!」
ピィー!
観客が1人もいない中、カズトと闇影の戦いが始まった。




