地獄の始まり
「成る程、ついムカついて殴ってしまったと?」
「「……はい。」」
ここは風紀委員専用の教室。辺りには風紀を保つためなのか堂々と恋愛禁止と大きな字で書かれている。この学園自体恋愛禁止なんと校則は無いのだが、風紀委員だけは禁止みたいだ。
そして、その真ん中で大勢の風紀委員に囲まれながら尋問を受けているカズトとエド。
運が悪いことに全員が女子と話しがわかり会えるような男子がいない。女子全員が典型的な男嫌いを感じさせる風貌だ。
いや、ポジティブに考えればハーレムじゃないだろうか。しかし、全員から殺意を(特にエド)向けられ、今すぐにでも処刑されそうだ。
「……どうしますか委員長。この変態どもは。」
風紀委員長となると、それなりの創造がつく。恐らく堅物で怒らせたら鉄拳制裁が待ち構えているだろう。
はて、どんな人物なのだろうか。
「うふふ、話は聞きましたわ。中々、面白い方達じゃありませこと。」
「「………」」
二人は黙るしかなかった。自分たちが創造していたのと全く違う風貌の持ち主だったからだ。
長く伸びたブラックダイヤモンドの様な髪は少しでも頭を傾けたら床につきそうだ。彼女が髪に触ると辺りにいい匂いが香ってくる。足も細くて、スパッツを着ているがため、美しく見える。
それより目立つのは、2つの大きな大砲を持っていることだ。先程、カズトを拘束したルナといい、風紀委員って全員が巨乳なのだろうか。
典型的なおねい様口調は多くの男子を虜にしそうだ。既に、エドは我を忘れて「踏んでください!」などわけわからんことを行って女子達にリンチにあっていた。安心しろ、骨は確保しといてやる。
「死ぬのは確実なのか!?」
「「「「うるさい!!黙って死ね〜!」」」」
「ぎゃー!?」
まぁ、ああ見えてかなり頑丈な奴だから死ぬことは無いだろう。むしろ、女子達に殴られ心の中では喜んでるのかもしれない。
それはさておき
「貴方、名前は?」
「俺は鬼神カズト。あっちのボロボロにされたのが……」
既にリンチされ死に……気絶している人物を指す。
「エドです!!エド=ファンクソン。好きな物は卵焼き! 恋人はいません! むしろ募集中です!もし、よろしかったら……」
「「「2、3回死ねー!!」」」
「ぎゃー!?」
ゾンビの如く蘇ったものの、風紀委員室での爆弾発言でまたリンチを食らっている。今度こそ死んだかな。
「うふふ、楽しい方達ですね〜。」
「……ソウデスネ。」
「ふふふ、ちなみに私は、3年クラニー・ミッドウェール。クラニーと呼んでくださいね?ちなみに所属クラスはSです。」
「クラニー・ミッドウェール!?」
驚くのも無理は無い。ミッドウェールは武器商人として有名だ。
ミッドウェール社の武器はどれもが一流を超えた一流と呼ばれていて、なのある聖騎士達の武器を作ったことで有名だ。たしか、マサトーナの愛用しているレイピアもミッドウェールで作られたと聞いている。
世界で1番稼いでいる貴族とも呼ばれている。ミッドウェール家が所持している地域には毎年移民が絶えない。武器で大量に稼いでいるため、殆ど税金がなく、医療費も生まれてから死ぬまでずっと無料。
まさか、その娘がこの学園にいるとは思わなかった。
「うふふ、父は商売鉄則ですから。聖騎士になるついでに、武器の宣伝をしてきてくれと頼まれましたわ。」
成る程、確かに此処には貴族が多い。全員が自分にあった武器を探すのなら金を惜しまない。その点では、いい狙い目だと思う。
でも、ミッドウェール社の武器は平民から見たら度肝抜くぐらいの値段がするのだ。安いやでも、1000万レンソはする。
オーダーメイドもやっているらしいが、物によっては、馬鹿に高くなるらしい。
「……って委員長! なに和んでる場合ですか!? この者たちに裁きをお願いします!」
「あらあら、いいじゃありませんか。ルナちゃんもあまり硬くなりすぎると恋人ができませんよ?」
「ーーーっ!? わ、わたしは男は嫌いです!。」
つい和んだ話してしまい肝心の事を忘れていた。あの、マムシ隊を殴った事だ。カズトとしては食事をしていただけなのだが、突然、机を蹴られたせいで楽しみに取っておいた、トンカツを食べ損ねてしまった。
今思うと、もう少しボコボコにしておきたかった。記憶がなくなるまでやれば後々面倒な事は避けられたはずだ。
「そうね……あの3人が誰だかわかってやったの?」
「ああ、マムシ隊て事なら。」
「マムシ隊?」
「あの三兄弟の頭文字を合わせるとマムシってなるんです。性格も、マムシ同様に好戦的でしたしね。後は、ナルシストのムーンて奴がヘビ柄の靴を履いていたので。」
思い出すと笑いたくなってくる。此処で笑ってはなにをされるのかわからないので、ぐっと唇をかんで我慢する。
「………ぷぷぷ//////マムシ隊ですか。確かにそれは面白いですね。……ぷぷぷぷ/////」
どうやら、クラニーはマムシ隊という言葉にツボってしまったようだ。多分これで風紀委員ではマムシ隊として有名になる事だろうあの3人は。
「面白い、面白いですわ。鬼神カズト。」
突然、扇子を持ち出して開いたかと思ったら俺の方向に向けて来た。ちなみに扇子には可愛い子猫のイラストが貼られていた。子猫が好きなのだろうか。
「貴方、よかったら風紀委員に入らない?」
「「「「……な!?」」」」
俺を含め、エドをリンチしていた全員がクラニーの言葉に驚こを隠せなかった。
「なにを考えてるのですか委員長! 」
最初に食ってかかったのはルナだ。机を思いっきりばん!!と叩いて、それがいかにも反対しているかがわかる。
「神聖な風紀委員に男を招き入れるなど断固反対です!」
その他の女子もそれに賛成している。
「でもね、ルナちゃん。女だけじゃなやりにくい仕事だってあるの。寮の抜き打ち調査でルナちゃんは男子の部屋に一歩も入れなかったじゃない?」
「そ、それはそうですが……」
「それに、力仕事も任せられるから楽になるのよ?男子には男子にしかない特権みたいな者があるの。もちろん、それは私やルナちゃんにもある。だけど、人には得意と不得意があるのは知ってるでしょ?」
「………私達では不満という事なのですか?」
「もう、そういう事を言ってるんじゃありません!」
ペシ!
ルナの額をクラニーが優しくデコピンをした。しかし、本人は少し痛そうだ。
「勘違いしてると思うけど、これはあくまで勧誘。強制じゃない。決めるのはカズトくん自身なのよ。」
まぁ、確かにクラニーいう事が1番正しい。決めるのカズト自身だ。風紀委員に入る事はとても名誉な事でもある。聖騎士になるのに大きく一歩近づくわけだ。
しかし、カズトとしてはあまり目立ちたくない。それより問題なのが……
「うふふ、カズトくんが入ればある意味ハーレムかもしれないわね。」
「委員長!!」
女子が沢山いる中に男子一人だけとなると何をしでかすかわからない。カズトは健全な男子だ。女性に対して反応する事は反応する年頃なのだ。
俺の答えはただ1つ……
「残念ですが、断わらさせてもらいます。」
俺には風紀委員になる資格なんて無い。寧ろ、こんな事件を起こした奴が風紀委員にでもなったら風紀委員の名が汚れてしまう。それだけはどうしても避けたい。
「ーーーっ!? 断るというのか!? 委員長直々の勧誘を!?」
先程まで反対していたルナを含め、ほかの女子たちもカズトが勧誘を断った事が意外にも驚きだったようだ。
「率直にいうと、ふさわしく無いからです。」
「あらあら、これまたどうしてですこと?」
「クラニーさんも言ってましたよね。人には必ず得意不得意があると。正に、不得意がそれなんです。」
かつて人を止めようとした人間が人間を取り締まって厚生するなど笑える話だ。
「それに、これ以上恨まれるのは勘弁ですらかね。」
今までどれ程の憎しみを受けてきた事か。サクラと契約していた頃はサクラがそれを利用して力となっていたが、過去を捨てた瞬間に頭が破裂しそうな悪夢を見たのだ。
訳ありのセリフを吐いたつもりだが、ほとんどは言い訳に過ぎない。
「そうですか。残念です……」
クラニーはとても残念そうな顔をしているがこればかりは譲れない。
「きっと、ふさわしい生徒があわられますよ。いつか絶対。」
「貴方じゃなきゃ嫌なんです………」
「何か言いましたか?」
「いいえ。気のせいです。」
果て? 最後に何か小さな声で喋っていたような感じがしたのだが……気のせいだろうか。
カズトは既に制服が足跡だらけになり、鼻血を出して倒れているエドを保健室まで運んで帰ろうとした時……
「あ、そういえば、2人の処分を決めてなかったですよね? 委員長。」
折角忘れかけていたのにルナのせいで台無しになってしまった。……と言ってる自分も忘れてたりもした。
いや、こんだけ殴られたんだからもういいんじゃ無いだろうか。(殴られたのはエドだけ。)
「そこの変態はもういいとして、お前は何も罰を受けていないじゃ無いか?」
どうすればいいのだろうか、ルナは完全に死神鎌を取り出して今すぐにでも俺の首を狩りそうだ。正直、リンチの方がまだマシな方かもしれない。
エドを置いて逃げるべきだろうか。いや、後々仕返しが半端なさそうからやめよう。
何かいい手は無いかと考えていたら、クラニーがカズトとルナの間に移動した。
「まぁまぁ、ルナの ちゃん。そんな物騒なものはしまって話し合いましょう。あ、そうだこうしましょうか。」
何やら、ペンを取り出して書き始めるクラニー。一体何をしてるのだろうか。
「ルナさん。これを大至急印刷してください。先生には許可は取ってあります。」
ものの数分で書かきおわった紙をルナに見せ、それを印刷するように命令した。ついでに、その印刷した紙を校内ばら撒いてきなさいとのこと。
「うふふ、はいこれ説明書。」
と言って渡された紙には小さな文字が1ミリのズレもなくズラート綺麗な字で書かれていた。
「どれどれ……」
緊急イベント!!
今から、2時間までに指定された生徒を捕まえたものにはクラニー様が直々にはいた脱ぎたてスパッツをプレゼント!さらに副賞として頬にキスをプレゼント。随時 捕まえる生徒は全校放送で名をあげますのでご注意。
怪我ないように互いに協力しあって捕まえよう!
by クラニー・ミッドウェール。&子猫のイラスト付き。
「……ななな!?」
これ完全に俺をつかまえろってことだよな!?何この人!?見かけによらず鬼だ!!笑ってるけど鬼がいる!!
「これは賭けです。貴方が捕まれば風紀委員に強制入会。もし、貴方が逃げ切れば……貴方は自由です。」
「そんな無茶苦茶な!!」
「要するに、逃げて逃げまくればいいんです。そろそろ、配り終えたことでしょう。ほら、全校生徒(特に男子)が血なまこになってこちらに向かってきていますわ。」
グラウンドからは地震かと思わせるほどの振動が伝わってくる。
あ、これ完全に死亡フラグバッキバッキに立ってるわ。
「ちくしょー!!」
扉を思い切り強く開けて、部屋から出て行く。とりあえず隠れなくてはならない。
カズトはまるで弾丸のような速さで廊下をかけていくのであった。
一方その頃、クラニーはというと……
「さて、こっからが面白くな流ところですよ。」
クラニーはどこからか取り出した鈴を手に持ちそれを鳴らした。
「お呼びでござろうか? クラニー殿。」
チャリンと鈴がなると同時に天井から素早く降りてきた人物。
「彼をここにおびき寄せてください。勿論人払の結界を張るように。」
地図を広げ、指定した場所を指に指す。
「了解でござる!」
「頼みましすね。闇影」
「は!」
闇影と呼ばれた人物はすぐさまその場から何もなかったかのように毛や服の繊維を1つも残さずにここから去った。
「さて、じっくり見させてもらうわ。貴方の力を……」.
生徒に追われながら必死に逃げているカズトを眺めながら紅茶を飲むのであった。




