心配かけたな。
「………ここはどこだ?」
目がさめると、私はベットの上にいた。辺りを見回すと薬品や救急箱といったものが置いてある。恐らく、保健室だろうか。
私が起き上がると、それと同時に白衣きた女性が入ってきた。
「気づいたのね。もう大丈夫よ。」
そう言われ、立ち上がろうとしたら、右足に激痛がはしった。強烈な電気ショックを食らった感じだ。
「痛ッ!」
耐えきれずに声を漏らしてしまう。包帯でぐるぐる巻きにしてあっても安心はできないようだ。
「傷口は塗っておいたから安心して。でも、しばらくは安静にするように。」
見た目はかすり傷たが、どうやら深かったらしい。あのまま、ほっておいたら、感染症を巻き起こす可能性があったのだ。最悪、足を切断した可能性もある。
「ついでに捻挫もしているようだから、松葉杖が必要かもね。」
恐らく、あの時だろう。押し出された時に、運悪く足を捻ったまま倒れてしまった。
あの時は逃げたくても逃げらないから死を確信した。しかし、それは思わぬ形で回避されたのだ。
光線が当たる直前に奇妙な声が聞こえたと思ったら、背中あたりに熱いものを通る感じがして、目を開けたら黒い炎が光を貪り食っていたのだ。
あれは、マサトーナ団長とは真逆な力だ。典型的な闇の力を感じた。それも大きくて強大な何かだ。まるで、憎しみや怨念が炎の形となってとって現れた感じだ。
それを放ったのは間違いなくあの男子生徒だ。倒れていた私を優しく手を差し伸べ起こしてくれた。お礼を言ったことまでは覚えているが、その後の記憶が思い出せない。
ぼんやりしていたので、その男子生徒の顔もわからない。名前すら分からない。
その事を、保険医であるコーラン先生に聞いてみたところ……
「ああ、あの男の子ね。気絶した貴方をここまで運んできたのよ。」
じつはコーランもあの試合を見ていたのだ。爆風により割れた窓ガラスの破片で怪我をした生徒が何十人もきたため、理由を聞いたところ、グラウンドが爆発したと聞き、慌てて駆けつけたのだ。
「貴方より、あの子の方が重症に見えたけど……貴方をベットに寝かせた後、薬だけもらって帰ちゃったのよ。」
カズトが保健室に来た時は制服がボロボロで血だらけになっていたのだ。(実際は破れていたわけではなく、グラウンドの土をわざと制服につけ、ボロボロ風に見せていた。)
ここで、気になっていた質問をぶつけた。
「その生徒は何て名前ですか?」
話を聞く限り、私は立ち上がった直後に気絶してしまったようだ。丁度、名前を訪ねようと思っていたのだ。
彼は命の恩人だ。是非ともお礼を言いたい。あの時は少し戸惑っていたので、私らしからぬ口調で言ってしまった。私としてはもっと心からお礼を言いたい。
「えっと確か……鬼神カズトって言ってたような……」
「鬼神カズト……」
鬼神とはこれまたすごい苗字だ。ネーミングからして日ノ本系だろう。あとは、黒い髪なことか。
確か、Fクラス所属と聞いている。今、怪我をしているため、あまり動けないが、完治したらお礼を言いに行こう。
コーランいわく、今日の授業は中止とのこと。あんなことがあったのだ無理もない。グラウンドを改めてみると、あの戦闘がいかに凄かったかがわかる。
穴だらけになったグラウンドを専属業者が重機械を使って必死に直しているのが見える。
ここからでもドタドタとドリルの様な音が聞こえてくる。その音はだんだん大きく………
ばん!!
突然扉が開い大きな音を出して開いた。あれは足音だった様だ。それにしても、あれ程の音を一体どうやって出したのやら。
そこには私がよーく知っている人物が立っていた。
「ここにアイリはいますか!?」
私はその人物と目が合い、笑顔で手を振る。
「アイリ!!怪我は大丈夫!?」
わたしの大切な友人アルラだ。どうやら、わたしのことが心配で見舞いに来た様だ。
わたしを見た瞬間、安心したのか、涙目になって飛びついてきた。その時に、ちょうどアルラの手がアイリスの右足に触れてしまい、大声を出してしまった。
「心配をかけてすまない。」
「私の方こそ、ごめんなさい……」
アイリはアルラに心配をかけてしまった事を深く反省している。わたしの身勝手な行動でアルラにも迷惑をかけてしまった。
今のアイリスは歩くことができない。しばらくはここで安静だ。授業に遅れてしまうが、アルラがノートを見せてくれるとのこと。オーバーヒートしない事を願いたい。
アルラには悪いが、しばらくは1人で寝てくれと言った。よほど私のことが心配らしく、「なら、私もここで寝泊まりするわ。」などと無茶な発言をする。
当然そんな事は出来ない。ここは病室なのだ。寝泊まりするところではない。その事をコーランと一緒に必死に説得したおかげで「わかった……」と納得してくれた。
しかし、アルラが1人で生きていけるのだろうか……じつに心配だ。
こういう時は、知り合いに頼んでみるのがいいのだが、私にはアルラ以外の友人や知り合いはいない。アルラも同じ状況だ。
それに、アルラが1人だと襲われる可能性がある。彼女は高位の精霊。それに美人だ。男が放っておくわけがない。
もしかしたら、夜這い、または強制契約が行われる可能性がある。それは、絶対にあってはならないことだ。
最悪、エリス先生に頼み込んで教師専用の寮で休ませてもらう手もある。
たが、私はある事を思い出した。
「確か、契約者がいるって行ってなかったか?」
「ええ、いるわよ。お兄……カズトの事?」
「そうそのカズト……ん? まてよ……」
カズト。私を助けてくれた人と同じ名前だ。まさか、同一人物なのだろうか。ここには日ノ本からの留学者はたくさんいる。同じ名前だってありえる。
一応、アルラに特徴を聞いてみた。
「えっと、苗字が鬼神で名前がカズト。黒髪が特徴の……」
ばん!!
アイリスは驚きのあまり、痛みを忘れて立ち上がっる。
当然、そのあと、痛みが全身を襲い、倒れそうになった所をアルラが優しく、受け止めベットへ寝かせてくれた。
アドレナリンが出すぎたようだ。落ち着いて話を聞こう。
「実はあの時間、マサトーナさんを探しに行ったんだけど……理事長室に行ってもいなくて……カズトの事で話をつけたくて……」
アルラは授業をサボるつもりだったのだ。カズトがマサトーナに話をつけてくると入っていたが、2日経ってもカズトからの連絡はなかった。
たかが、2日と思うだかろうが、ずっと一緒にいると約束したアルラには到底長く感じたのだ。
「なるほど、なら今日はカズトの部屋で泊まるといい。」
「で、でも……」
「わたしの事は気にするな。思いっきり楽しんでくるといい。あ、それとお願いがあるんだがいいか?」
「なに? わたしができることならなんでもするけど……」
「簡単なことだ。もし、暇があったら貴殿と直接話がしたい……と伝えといて欲しい。」
「………それなら問題ないけど……」
アイリスは普通にカズトと話し合いたいだけなのだが、アルラは少し勘違いしてしまう。
(2人で直接話し合う……まさか、逢いびき!?)
このまま、カズトとアイリスを合わせたら逢してしまう可能性がある。その為に、アルラは2人っきりにさせないよう自分もついていくことを心の中でこっそり決意した。
「では、よろしく頼むぞ。」
「うん。アイリもあまり無茶しないように。」
そう言って、アルラは保健室から出て行く。いつの間にか、コーランも何処かへ行ったらしく、アイリスただ1人になってしまった。
気分そらしにグラウンドを見るが、あれ程の荒れていた地面は嘘のように真っ平らになっていた。
そこまでは良かった。しかし、次に思ってしまったことをアイリスは後悔した。
「あ、お手洗いどうすればいいのだろうか。」
この状態では、トイレまで歩けない。保健室は校舎から一番東にある。滅多に生徒が来ることはない。
コーランが車で我慢しなければならない。
アイリスの第一試練が今まさに発動しようとしていた。
あれれ、本編まだじゃないか。




