その頃のSクラス。
「皆さん、Sクラスにようこそ。私は、Sクラス副担のエリス・クマイムです。」
新入生の中でも、ずば抜けた天才児が集まるクラス。それが、Sクラスだ。
ほとんどが貴族や王族出身で、幼少期の頃から鍛えられている。
私、アイリス・セリアーヌもそのうちの1人だ。アリステル王国から遥か北の方角にある極寒の大陸ホーツクにある。フリーズン王国の王女だ。
ホーツク大陸は真夏でも平均気温−25度と極寒であり、つねに猛吹雪が降り注いでいる。
ホーツク大陸は大陸とはいうが、実際は海の上に、氷が張っているだけなのである。氷の厚さは高いところでは2500メートルにもなる。
ホーツク大陸がどうやってできたのかは未だにわからない。どうやってら海を一瞬で凍らす事ができるのか。それも、何千年にもわたって。
神話によると、あの辺りの海は伝説の魔獣クラーケンが住んでおり、度々、通りかかる船を沈没させたり、嵐を巻き起こし、洪水や高潮などの被害を出したそうだ。
見かねた水の精霊王が、海ごとその魔獣を氷漬けにし、封印さしたも言われている。
水の精霊王は魔獣の監視をするために、その地に8人の魔術師を派遣させたと聞く。
それが、時を重ねるにつれ発展していき、今のフリーズン王国が誕生日したと言われている。
今の国王。私の父オルデラント・セリアーヌ国王で18代目となる。アリステル王国よりも古い歴史を持つ。
アリステル王国とは同盟を結んでいて、友好な関係が続いている。
アイリスは将来、女王として、フリーズン王国の統一者となる。
それが、叶えば人類市場で4人目の女国王となる。その為にも、私は聖騎士にならなくてはならない。
目的はそれだけではない。私のなかに眠る強力な精霊を使役する為にも力が必要だからだ。
「みんなが私に期待してるんだから……期待に添えないと。」
父上も私に期待して、大金を払い、わざわざニュークリアー学園に留学させてくれたのだ。
ほとんど知られてないが、ここ最近、ホーツク大陸の温度が急激に上がってきているのだ。氷が溶け出し、海面がどんどん上がってきている。
封印が解けかかっているのでは無いか。そういう噂が流れ始めたのだ。
約2年前に、教会がホーツク大陸を訪れた際に、フリーズン王国から数キロ離れた土地に協会支部を立てたそうだ。
それ以来、ホーツク大陸は変化し始めている。
ホーツク大陸に住む、獣精霊。フリゾントナカイの数が減少したのだ。教会が来る前は街を歩くだけでも見かけたのが、今は1匹も見ていない。生息地だったフロールの森にも現れなくなった。
スノーウルフ、またはホライトベアーの仕業では無いかと専門学者は言ったが、スノーウルフもホワイトベアーもフロールの森から消えていたのだ。
最大50匹の群れを作るスノーウルフや体調が4メートルもある、ホライトベアーが消えた。新たな捕食者が誕生した。もしくは、上陸したのではないかと考えられた。
だが、最低気温−50度にもなるホーツク大陸に生物が上陸する可能性はゼロに近い。一番近い島からでも、200キロは離れているのだ。
この辺りの海には強力な魔物がいる。そのため、結界を貼らないと航海が出来ない。普通なら、食われてしまう。
だが、それもとある出来事で一変してしまった。
フリーズン王国から25キロ離れたフリーザー岳。そこに、狩りをしに行っていた猟師があるものを見つけた。
忘れもしない。フリーズン王国と教会が対立する事になったきかっけなのだから。
詳しくは知らないが、その猟師はフロールバイソンを狩るために、2日かけて、目的地まで移動していたようだ。
途中で吹雪が悪くなり、一休みするために、火起こしをしていた時、ものすごい悪臭がしたようだ。
それは、まさに何かが腐敗した臭いと血なまぐさい臭いが混ざったような感じだったと。
臭いのする方向に行くと、そこで猟師はとんでもないものを見た。
いくつも重なり合った動物の角。フリゾントナカイのものだ。心臓をえぐり取られ、血を全部吸われたかのように干からびていた。それだけではない。同様に、スノーウルフやホワイトベアーも混ざっていたようだ。
それも、数万単位。
後日、猟師はその事を国王の前で報告した。
それを聞き、直ぐに軍隊を派遣した。
最初は耳を疑ったらしいが、それも直ぐに晴れた。
いくら、死体を見慣れていた兵士でもその光景は非常に生ま生ましいものだった。
後日、軍隊は遺体を数匹回収し、残った遺体は疫病を流行らす可能性があるため、燃やしたそうだ。
検査結果は驚くものだった。害獣の仕業ではなく、魔術によって殺されていたのだ。
国王は迷うことなく、教会を疑った。後日、抜きうちの立ち入り検査を決行。
そして、見つけたのだ。
礼拝堂で神父が演説する教団の下に隠し階段が見つかった。それを降りると軍事施設の様な機会と実験室がいくつか見つかった。
そして奥には………
痩せ細り、今にも息絶えそうな、ホワイトベアーが監禁されていた。ホライトベアーは固有種であるため、捕獲や殺害は厳禁。
それが一頭だけでなく、5頭も見つかったのだ。他にも、スノーウルフやフリゾントナカイが数十匹見つかった。
そこにいた、科学者や神父を逮捕した。何をしようとしたのかは未だにわからない。なんせ、科学者は全員自害。神父は脱獄し国外逃亡したのだ。
後日、教会から宗教弾圧と抗議を受けたが、ここで行われていた事を話したら何も言わなくなった。
教会とは絶縁状態になり、教会を信仰する国とは国交を断絶した。
食料の殆どを輸入に頼っていたフリーズン王国は餓鬼に苦しまれた。幸い、アリステル王国からの支援が功を奏し、まだ、輸入に頼ってはいるが、食糧自給率は45パーセントまでになった。
その後、私は精霊と契約し、聖騎士になる事を決めた。
そして、今にいたる。
「では、まずは自己紹介からですね。では、一番右の席の人から順番に行きましょう。」
アイリスの席は丁度真ん中だ。席は試験の成績順となっているそうだ。アイリス300点満点中、290点とかなり高い点数を取ったようだが、この学園は思ったりよりレベルが高かった。
「ヒラリム=パンデミック。由緒あるパンデミック家の長男だ。僕について来たいものは
僕の元で名乗りあげるがいい。」
ヒラリム=パンデミック。パンデミック財閥のご子息。世界有数の財閥で、この世界の有名会社の殆どはパンデミック家の資金を提供している。彼の祖父ドラギラ=パンデミックはマネーの帝王と呼ばれている。
「全宮寺茜。日ノ本出身だ。よろしく頼む。」
日ノ本と言えば世界で唯一、国王ではなく将軍が実権を握る大国だ。神秘の都と呼ばれており、貴重な木造建築や神殿が数多く存在する観光スポットとして有名だ。
全宮寺家は武家として世界中で有名だ。聖騎士多くが全宮寺家で修行を積んでいる。確か、Sクラスは1全宮寺家でヶ月間修行すると聞いている。
全宮寺の跡取り娘がニュークリアー学園に入学するとなると、学園の勢力図が一気に変わりそうだ。
順番に自己紹介を聞くが大物ばかりであった。
そして、私の番になる。
「アイリス・セリアーヌ。フリーズン王国出身。」
話すことなんてない。Sクラスは常に争いが絶えない。だから、仲良くする気などほとんどない。
自分の番が終わると、あとはどうだっていい。偉そうに挨拶する様なものもいれば、友好的なものもいる。それは、たぶん作り顔だ。
女子生徒に限っては、おっとり口調や、徹底的なお嬢様口調が目立つ。真面目に挨拶するのは武闘家出身のものが殆どだ。
そして最後になった。Sクラスで一番頭が悪いということになる。多分、一番に退学する可能性がある。
「アルラです!よりょ、 よろしくお願いします!」
美しい声が教室に響く。全員が彼女を見ていた。彼女を見たわたしは驚いた。多分、Sクラスの中ではトップクラスの美少女だ。だが、それだけじゃない。
「……妖精?」
彼女からは人間とは違う波動を感じる。人型ということはかなりの高位の精霊だろう。しかし、なぜ精霊がこの学園にいるのだろうか。
精霊は普通、誰かと契約しない限りはこの学園にはいられない。でも、彼女は誰かと契約しているわけでもなさそうだ。
女子達からは「お人形さんみたい〜。かわいい〜。」など、絶賛の嵐。男子に限っては密かに、「誰と契約してるんだ」などと彼女を横取りしたいかの様だ。
契約する際には、どこかに文様が浮かび上がる。精霊にも似た現象がある。よく、腕などに多く見られる。ごくまれに、変なとこにできて見せれないこともあるが……
ここにいる全員は精霊と契約した証がある。わたしもそうだ。だが、わたしの場合は……ちょっと恥ずかしいから見せれない。
「自己紹介は終わりましたね。今日はこれでおしまいです。皆さん指定された部屋に戻ってください。」
今日はほんの挨拶程度で終わる。明日から本格的に授業が始まる。
今日は明日に備えて、早く寝よう。
寮の部屋は基本、2人部屋となっている。無論女子は女子。男子は男子だ。
私にに渡された番号は25番。誰と一緒なのだろうか。できれば、静かな子がいいところだ。
教室を出た、アイリスは真っ先に寮へと向かう。
みんな年頃であって、放課後は城下町にショッピングをしに行く様だ。私も誘われたが、断った。今はそんな気分じゃない。
ただでさえ、父上に迷惑をかけているのだ。遊びなどしている暇なんてない。私は一刻も早く、聖騎士になってこの暴君を使役しなければならない。
その為にも、2ヶ月後の聖剣王祭にで優勝しなければならない。参加人数はわからないが、寄せ集めをすればいい。私1人だ十分だ。
上級生から嫌がらせを受けるかもしれない。だが、そんなのを気にしていては聖騎士になんてならない。
必ず、優勝してみせる。
そして、聖騎士となった暁には……
「必ずや見つけてみせる……」
もう1つの目標を達成してみせる。6年前にある人と誓った約束を守る為に。
アイリスは寮へと向かった。




