マサトーナVSカズト
「はい、皆さん揃いましたね。」
言われた通り、五分でグラウンドに全員集合した。遅刻しそうものなら、マサトーナにどんなことされるかたまったものじゃないだろう。
途中グラウンドを走っていたAクラスの連中から
「おい、見ろよ。Fクラスの連中だ。」
「まだ、いたんだ。」
「あれ、マサトーナ様じゃないか? Fクラスの連中、可哀想に。マサトーナ様の授業って超厳しいって聞くぜ。」
などと俺たちを馬鹿にしたような発言ばっかだ。俺は特に気にしてないが、エドなんて、いつ飛びかかってもおかしくない状況だった。
でも、マサトーナの授業。特に、実技や体育系の授業は学園一厳しいとエイリッヒから聞いていた。俺は見たことがないが、Sクラス全員を相手に一騎当千をしたとか、穏やかで優しかったガリガリの男子生徒を僅か1ヶ月で筋肉ムキムキの戦闘狂にしたんだとか。
その生徒は今、Sクラスの担任をしてるんだとか。
でも、あまりの厳しさに、Sクラス生徒の6割が退学するという事態になり、見かねたエリスが変わりを引き継いだんだとか。
それ以来、マサトーナは生徒に授業をしたことがないらしい。
マサトーナにそのことを気にしてるかと聞いたら、「あの時の生徒は根性が足りません。
そんな事では立派な聖騎士にはなりません。」と全く気にしてないようだった。
マサトーナの言うことも一理ある。国の最終兵器である聖騎士が生半可な気持ちではいけない。戦場では、あらゆる常識が通用しない。訓練だけ受けた者は生きれない。
いくら、Sクラスでも根性がなければ戦場では生きられない。
今の学生は戦争を知らない。この中では、唯一知っているのはカズトだけである。
「では、各自好きな武器をお取りください。自前の武器を持ってる人はそれでいいです。」
カゴの中には、沢山の武器がある。剣や刀が多い、それ以外にも沢山の種類の武器がある。
カズトには神風があるが、Fクラスのメンバーは自前の武器がない。
持ってるとしても、安いものがほとんどだ。
貴族の連中はというと殆ど自前の武器を持っている。どれもが、高級品のオンパレードだ。特にSクラスに多く見せられる。
だから、よく下級クラスから武器狩りが行われていたんだとか。
今回、神風は部屋のベットの下に厳重に保管している。あれは世界に2つしかない貴重なものだからだ。
Fクラスのメンバーを疑ったりはしていない。彼らには、もう説明済みだからだ。
皆んな、カズトの考えていることに深く共感してくれた。特にエドは、泣きながら俺を励ましてくれていた。
しかし、良からぬ連中がいるかもしれない。この存在を嗅ぎつけ、俺から奪おうと奇襲をしてくる可能性がある。今でも、武器狩りの被害が極たまにあるからだ。
「皆さん、武器を持ちましたね。それでは2人一組になってください。」
カズトは刀をチョイスした。普段使っているのが刀だから使い慣れたものが一番しっくりくるからだ。
問題は誰と組むかである。相手によっては最新の注意を払わなくてはならない。
(最悪、マサトーナに頼のんでみるか……)
それだと、余計に目立ちそうだ。マサトーナは誰であろうと手加減は一切しない。Sクラスの生徒であっても5秒……いや、10秒立っていれれば優秀だろう。
わざと負けるべきだろうか。でも、痛いのはごめんだ。
そうしているうちに、ほぼ全員がペアを組み、俺だけが残ってしまった。
「ふふ、カズト君は私とやりましょう。ちゃんと手加減しますから。」
恐れていた事態が発生してしまった。
手加減しても、常人なら何回死んでいることだろうか。
「よかったな、カズト。あの、マサトーナ様が直々にお相手してくれるんだ。お前、強くなるぜ。」
俺を応援しているかのように、見えるエドもその表情は「ざまぁみろ。」と言わんばかりだ。余程、あの時のことを恨んでるみたいだ。
他の生徒も、「頑張れ!」や「死ぬなよ。」「お前のことは忘れない。」などと応援をくれた。
最後のセリフはどう見てもカズトが死ぬことになっているようだ。
「まず、準備体操を始めてください。それから、組手をしてもらいます。」
(完全に死亡フラグが見えてきたな。)
せめて、遺言を書かせてくれないかと心のかから思ってしまう。
「では、エド君。号令をお願いします。」
「はい!」
敬礼をしたエドが、駆け足で前に出て行く。別に、軍隊の訓練じゃないのだから。そこまでかしこまらなくてもいいと思う。
ま、どちみちそういう訓練も行われるだろうからいいか。
渋々しながらも、準備体操を行う。
準備体操は大事だが、皆んなでやるからいいものの、1人でやると恥ずかしいと思う。
あと、制服でやるもんだからやりにくいったらありゃしない。普通は体操服でやるものだろう。
「もし、敵が来た時に着替えてる暇なんてありますか?戦場ではいつ襲われるかわかりません。もしかしたら、裸で戦うことだってあるんですから。」
つまり、備えあれば憂いなしという事だろう。例えば、戦場で手や足を失ってでも、敵は手加減なんてしない。むしろ、絶好のチャンスと思うだろう。
その時の為の訓練をしておけば、生きるチャンスがあるという事だ。
逆に、それを生かす事だってできるかもしれない。重い装備していて、素早さや俊敏性に欠けていても防御力が高いし、その重量で相手を押しつぶすこともできる。
逆手に取るわけだ。
準備体操が終わると次は組手だ。ついにきてしまったか。
悩んでもしょうがない。男らしく戦おう。
マサトーナに「お願いします」と挨拶をし、
模造刀を構える。
「神風を使わないんですか?」
「ああ、出来ればあまり見られたくないからな。」
「そうですか。なら私も同じのを使いましょう。」
そう言って、マサトーナは愛用のレイピアを外し、カゴの中からレイピアタイプの模造刀を取り出した。
「学生相手に神剣を使っては後々面倒です。それに、武器が破損するのは危ないですから。」
模造刀に真剣で相手する馬鹿者なんていないだろう。マサトーナに関してはそれ以外の理由もなくあるのだが……
「さぁ、行きますよ。」
「はい!よろしくお願いします!」
互いに構えを取り、距離を縮めていく。
俺は、こっそり身体強化と物体強化を施す。多分、あちらもそれなりに強化するだろうからこのままだと、武器が破損する可能性がある。
辺りでは、金属音がなっている。どうやら、早速取り掛かっているようだ。
「ほら、よそ見していていいんですか?」
気づくと、目の前にはマサトーナのレイピアが俺の腹部へと刺さろうとしていた。
完全に油断した結果だ。普通なら、超激し、吹っ飛んで内臓が破裂するだろう。
だが……
ギィン!
「おいおい、下手したら死ぬぞ!」
カズトは模造刀でその衝撃を受け止めていた。
模造刀でもあるにもかかわらず、ぶつかったところから煙が出ている。物体強化を施していたが、どうやら足りなかったようで、先端にヒビがはいる。
受け止めたはいいが、手がジーンとして痛い。少し力の加減を間違えたら、手首をやられていた。
「流石にこの程度ではやられませんか。多少本気を出したんですか。」
手加減すると言っていたが、どうやら嘘みたいだ。
(俺も、少し本気を出さなきゃならないかな。こりゃー。)
ブン!!
俺が刀を振り上げると、マサトーナは後ろに下がる。
「今度はこちらから行く!」
カズトは完全に敬語を使うのをやめている。それ程余裕がないという事だ。
ブン!!
間合いをつめ、刀を振るうがマサトーナはそれを紙一重でかわす。
マサトーナも攻撃の後の隙を見て、反撃をする。
しかし、カズトは避けようとはしなく、全部受け止めていた。なるべく、手首に負担がかからないよう、刃先で衝撃を受け止めている。
衝撃を受け流す事も考えたが、その衝撃は恐らくグラウンドを真っ二つにするほどだ。もし、他人に当たったりでもしたら大変危険だ。
他の生徒も全員組手をやめ、俺たちの事を見物し始めた。
「へぇ、カズトって意外にやるもんなんだな。いくら、マサトーナ様が手加減してるとはいえ、もうかれこれ5分は戦ってるぞ。」
エドは気づいてないだろうが、マサトーナは本気を出してはいないが、手加減もしてはいない。
互いにるぶつかる金属音はやがて、グラウンド全体に響き渡る。
「ここです!」
マサトーナが瞬時に上空に移動し、レイピアを突き刺そうとする。それをカズトは刃先と柄の部分を持ち、受け止めた。
ドォゴーーーーーン!
爆発のような音とともに。それを受け止めた地面は押しつぶされ、カズトを中心に広がっていた。もう少しで、地面に突き刺さるところだった。
その音を聞きつけ、他のクラスの連中が駆けつけてきた。
「おい、見ろ!マサトーナ様が戦ってるぞ!
相手はFクラスの一員らしいぞ!」
徐々に生徒達が集まってくる。だが、気にしてる場合ではない。
今の2人には、誰も写ってない。互いに、息を切らんばかりの戦闘をしている。
「はぁ、はぁ、や、やりますね。」
「ぜぇ、ぜぇ、そ、そちもな。」
先程まで快晴だった空も今は雲に覆われ、雨が降り出しそうだ。
「決着をつけましょう。人が集まりすぎています。」
「ああ、そうだな。」
この時、カズトはわざと負けるつもりであった。今なら、集まったばかりの生徒は先程の激しい戦闘を見ていない。
Fクラスのメンバーには完全に見られてしまっているが問題はない。実際に俺の制服はボロボロだし、手首からは血が滲み出ている。
無論、わざとではあるが。
マサトーナは息は切らしているが、埃1つも付いていない。
その様子をみた、他のクラスの連中は……
二年生男子「すげえな。あの、一年やるな。」
二年生女子「確かにね。でも、ボロボロだわ。」
一年Sクラス男子「ふん、まぁ、この僕ならあそこまでにはならないと思うがな。」
三者三様な声がきこえてくる。
「敬意をもって、あなたにこれでトドメをさします!」
そう言って、レイピアを天高くへと突き上げる。すると、空全体が黒くなっていき、雷が発生する。
「我は汝の雷を纏い、敵を滅せん!」
ピカッ!ゴロゴロ!
雷がマサトーナのレイピアに直撃し、雷を纏う。それを、俺の元に向け……
「雷ノ大地!」
光輝く雷の光線がカズトめがけ飛んでゆく。
カズトは最大現に身体能力を上げ、構えを取る。
ここで、技をもろに食らってやられるつもりだった。相当痛い思いをするだろうが、気絶ぐらいで済むだろう。最悪、骨折か。
残り、数メートル。手に力を込めた瞬間……
事件は起こった
「きゃ!」
1人の女子生徒が突然俺の目の前に倒れこんできたのだ。目の前の女子生徒は足をくじいてしまったらしく、すぐには立てないようだ。
「危ない!!」
誰かが叫んだ声がこだまする。
女子生徒は迫り来る雷に動けずにいた。
マサトーナも事態をつかんだのか、技の軌道を変えようとした。
だか、それも間に合わない。
誰もが、もう助からないとおもっただろう。観戦していた全員が目を瞑っていた。
その女子生徒も目を瞑る。女子生徒も自分が死んだと確信したこどだろう。あの、雷撃にはどれだけの電圧がかかるのだろうか。
たがそれは1人の少年によって、大きく変わる。
「鬼神ノ黒炎!」
突如として現れた黒き炎が雷を消し去っていく。いや、その雷を貪り食っていた。
その光景は異様とも言える。幸い、誰にも見られてないようだが、マサトーナにははっきりと見られてしまった。出来れば見てほしくはなかった。
それより、今は女子生徒だ。
俺は、女子生徒へと近づき……
「大丈夫か?立てるか?」
手を差し出す。
女子生徒は何が起こったかわからないような表情をしている。
無理もない、死にかけたのだから。
しばらくして、俺の手を握った。
「ありがとうございます。」
ただ、女子生徒はそう言った。




