精神の世界での出来事。
主人公が多重人格なんですかという質問がきました。うーん、どうだろう。
この感じは、何年ぶりだろうか。俺はとっくの昔にこの世界とは縁を断ち切ったはずだ。
「ふふふ、久しぶりだね。もう、2度と会えないかと思ったよ。」
俺の目の前には、黒い巫女服を着た、1人の女が立っている。外見だけなら、美しいと思えるだろう。いや、美しいというより、可愛いと言った方が一番いだろうか。
だが、実際には違う。
彼女の耳は、俺たちと違って長く先が尖っている。赤色に輝く目は、全てを見通せるかのようだ。
「よく言うな。自分から強制したくせに。今すぐにでも、帰りたいところだ。」
そうは言うが、ここから逃げる事なんて出来ない。今の俺は、精神だけの存在。簡単に言うと、魂みたいな感じだ。肉体は、現実の方にある。
ここから出るには、あいつを倒すしか方法がない。
だが、それは絶対に無理だ。
「まさか、僕の事を忘れてたわけじゃないよね?」
いつの間にか俺の背中へ移動し、耳元で囁く。
シュン!
俺は、神風を抜刀する。しかし、それも簡単に避けられてしまう。
「ひどいじゃないか。女の子を斬りつけるなんて。そういう、気の短い男はモテないよ。」
俺は本気だが、こいつにとっては遊びでしかない。
俺は神風を鞘に戻す。これ以上、遊ばれるのは好きじゃないからだ。
「そんな事は、わかってるよ。で、今度は何の用だ、サクラ。」
「ふふ、覚えてるじゃないか。流石はぼくの相棒。」
「元が抜けてるぞ。俺の今の相棒はこれだ。」
神風を差し出す。
「ふーん。これが、今の相棒ね。」
そう言って、俺から神風を抜き取る。アルラから貰った大切な刀だ。過去を捨てた俺にぴったりだと思う。
サクラは神風を抜き、刃先に触れる。木刀だから、切れる事はないはずなだが……
「僕との相性は最悪みたいだね。」
サクラの手からは血が滲みでていた。
神風は人を切らない。だが、それ以外のものに関しては容赦ない切れ味を発する。
サクラは人間でも精霊でもない。俺が知る中でも、史上最悪の生き物だ。存在そのものが罪なのだから……
「これ、返すね。」
神風を投げ捨てる。俺は、それをつかみ、ベルトに帯刀する。
「流石は、風の精霊王だ。僕をここまでにしたことだけはあるね。」
この刀を触れただけで、風の精霊王の波動を読み取ったか。
「それにしても、不幸なのか幸福なのか。君は今、僕の仇だった精霊王の娘と一緒に暮らしている。今すぐにでも、殺してやりたいものだよ。」
「それ以上言うな。」
こいつなら、やりかねない。俺をたぶらかし、今でも乗っとろうとしているからだ。
あの時の俺は、力を求めた故に、サクラを受け入れた。
サクラは俺が望むたんびに力を与えた。それと同時に、俺は人としての何かを奪われていくことに気づいていなかった。それに気づいたのは最近だった。
今、思えば、馬鹿な話である。
「ま、僕にできるのは力を与えるだけだからね。君が望めば力を与え続けるよ。」
「もう、力なんていらない。俺は今のままでもやっていける。」
これ以上、力を求め続けたら何になるかわからない。もう、人ではいられなくなる。そうなると誰も止めることができない。
「でも、今の君があるのは僕のお陰じゃないか。そうでなければ君はボロ雑巾でしかない。」
それは、否定できない。今の俺があるのはサクラの言う通りだからだ。ボロ雑巾。確かにそうだ。サクラと出会わなければ俺はボロ雑巾でしかなかったかもしれない。
「君は、過去を捨てたと思ってるだろうね。でも、過去なんて捨てられないんだよ。現に君はこうして、僕に会いに来た。」
「それはお前が強制……」
「強制でも、完全に断ち切ったならこれないはずだよ。君には、まだ残っているんだよ。」
まだ残っている……それはいったい……
「知ってるかい?人間には裏表2つの顔がある。現に君にも2つの顔がある。」
「2つの顔……」
「自覚してないみだいだね。アルラが教会に知られた時、君はもう1人の自分を無意識に復活させようとした。違わないかい?」
あの時は、怒りに我を忘れ、力を出してしまった。確かに、あの時はアルラを守ろうとする心と教会を破壊するという心が出てきた。
「僕は今の君が嫌いだ。あの頃の君に戻るべきだ。純粋に力を求めてたあの頃の君にね。」
サクラが手を伸ばしてくる。もう一度、契約しろということなんだろうか。
過去を捨てたんなら、その手を振り払えるはずだ。
でも、今の俺にはそれができない。
取ることも触れることもできない。取るべきか取らないべきかを悩んでるわけではない。
本当の自分がわからない。
マサトーナは大丈夫ですと言っていた。今となっては何が大丈夫なのだろうか。泣いたから大丈夫。あの時は心に響いたが、今は響かない。
今は、サクラの言うことが心に響いている。
「さぁ、どうした。一緒に行こうよ。」
感情なんてなかった。俺の手はサクラの手を握り出そうとしていた。
数センチ。数ミリ。手がだんだんと近づいていく。
悪いアルラ。俺は人をやめるよ……君を守るには大きな力が必要なんだ。
心が、闇に侵されていく感覚は殆どない。自分自身が選ぶんだから……
やはり、俺はサクラと一緒にいるべきだったんだ。今となっては、過去を捨てた自分が恥ずかしい。
俺の手とサクラの手が触れようとしたその時……
ピカー!!!!
突然、神風が光り、そこから強風が起こり、俺とサクラを同時に吹っ飛ばした。
俺も、サクラも、尻餅をついてしまった。
「ち、邪魔されたか。」
どうやら、神風が俺を救ってくれたらしい。もし、神風がなかったら今頃俺は……想像したくない。
「今回は、無理みたいだね。でも、忘れないでね。君にはもう1人の自分がいることを。きっとそれはいつか、牙をむく。」
そんなことは百の承知だ。神風が俺を受け入れてくれたなら、今度は世界が俺を受け入れてくれるように頑張ればいい。何年かかったていい。そこに、希望があると信じているからだ。
「でも、君はいつか僕を受け入れるよ。確か近いうちに、聖剣王祭があったよね。」
「ああ、あと5ヶ月頃くらいだったかな。」
聖剣王祭。年に一度行われるビックイベントだ。世界各地の聖騎士育成学校から選ばれしチームが参加し、聖剣王の座をかけて、バトルが行われる。
人数は、毎年異なるが、例年は5人チームと聞いている。少なくとも、1人で参加することはありえない。聖騎士はどこかの団体に属することが義務となっているからだ。その時の為にチームワークを体験させようとしてるのか。
それに、副賞として卒業試験を免除、名誉貴族に昇格、税金免除など、高待遇な処置が施されるんだとか。
そりゃー、俺たちからしたら夢のまた夢だ。平民から一気に名誉貴族に昇格するんだから将来は絶対安定だ。
でも、優勝するのは殆どが、貴族や王族が殆どだ。
「でも、俺は出ないぞ。面倒なのはごめんだからな。てか、そもそも一年で出るやつなんて殆どいないはずだ。」
別に出てはいけないわけではないが、入学したてだし、上級生からの圧力が半端じゃないからだ。殆どは見学という形で下見をし、来年から参加する。中には、一年でも、上級生のチームに勧誘され参加する者がいる。
確か、エイリッヒもそうだったと聞く。
一年でも、上級生に認められればいいわけだ。
「確かに、そうだね。でも、君は出るよ。絶対ににね。」
「なぜそう言い切れる。」
「僕には、わかるんだよ。なんせ僕は………」
「元相棒だからか?」
「んもー、そこは相棒っていうべきだよ。ま、とにかく気をつけることだね。」
それはどういうことだと聞こうとしたら、サクラは消えた。それと同時に、この世界が崩れていく。
「もし、僕が必要だったら名前を呼んでね。
君が望む力を僕は与えるよ。そう、永遠に……」
俺とサクラの意識が完全に途絶えた。
崩壊とともに、俺は目を覚ました。太陽が出てないとなるとまだ夜中だろうか。せめて、時計を買っておくべきだった。
「あの野郎、言いたいことだけ言いやがって。」
桜の事は忘れるべきだ。あいつは危険だ。先ほどいったように。
今はとりあえず寝よう。
こうして、俺は2度目の睡眠をとった。
said サクラ。
「あーあ、暇だな〜」
ここは、精神の世界。神かあるいはその他の選ばれし者だけが来れる世界。
景色は綺麗だが、退屈だ。向こうの世界と違って、何もないのだから。
「ま、久しぶりにカズトに会えたし、いいか。」
サクラが歩き出すと、景色が変わる。歩くたんびに、ピキピキと地面に亀裂が入る。
僕は、この世界でも受け入れてくれない。あっちでも、邪な存在として人々に恐れられている。
唯一、受け止めてくれたのはカズト1人だけだった。
僕を必要としてくれたのは、全世界で彼1人だった。
でも、彼は変わってしまった。僕の受け入れを拒否し始めた。
最初は青春期だからと思い、あまり深く考えていなかった。
だけど、いつの間にか、彼は僕との縁を完全に切ってしまった。
僕には彼だけいればよかった。世界なんてどうでもいい。彼だけいればよかった。
カズトを変えたのは、世界だ。カズトもまた、僕と同じで世界に受け入れを拒まれた者だった。
でも、彼は受け入れようと努力している。
気に入らない。
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そんな世界は滅んでしまえばいい!
だから僕は、久しぶりに彼とあった。やはり、僕を完全に拒否しているようだった。
でも、よかった。彼にはまだ残っていたからだ。あの頃の心が。
「また、一緒になれるね。」
彼は必ず、私を求める。絶対。
今は、それまで力を貯めておこう。カズトの為に。
私は、数百年ぶりに眠りについた。
新キャラ登場! 今回はカズトの精神について触れてみました。1人はどこに向かうのか。果たして、サクラの目的とは……次回、お楽しみに!!




