再会という名の悲劇
チュンチュン。
深い森の中を朝日がてらし、鳥達の鳴き声が聞こえる。鳥達の声が連続して重なり、まるで1つの音楽を奏でるようだ。
風は樹々の匂いを運ぶと同時に、優しく包み込んでくれる。風はまるで誰かを起こすかのように一定の方向へと向かっていく。
向かう先は木の上に立つ一軒家だ。風は窓から部屋の中に入り、住人を探し出す。
住人を見つけると驚かさないように、首筋を優しく通り抜け、優しく包み込む。それと同時に日の光が住人の顔に差し込む。とても眩しそうだ。
目覚めると同時に風はどこかえて消えてゆく。
「ふぁ〜、もう朝か。」
男の名は鬼神カズト。元ユークラシテル帝国の覇道の四刀の元団長。年齢は16歳になる。幼い頃から暗殺の類の訓練をされ、飛び抜けて強かったため、11歳で覇道の四刀の団長に選ばれた。
極秘部隊だったためその存在を知るものはいなかったが、戦争に負けたために、公にはなった。
だが、それが誰なのかは誰も知らない。使えていた主君にでもさえ見せてないからだ。
そんな訳でこうして森の中で隠れ住んでいられるわけだ。
運がいいことに都市伝説ではないか説が出てきたので警察も調べていない。
ちなみに、戦争集結直後に覇道の四刀は解散した。カズトの判断によって。
誰も反対するものなんていなかった。むしろ全員喜んでいた。
なんでもあの帝王は人使いが荒くて、カズト達ににやたらと命令をしてきたからだ。金を貰ってたから仕えてた中にが、「戦争を仕掛ける」と言った時は全員呆れていた。状況が悪くなると、国を捨てて亡命しようとしていたので、俺たちは裏切っ……いや、見捨てた。
聖騎士達にもわざと捕まえさせやすくもしたし。期待通り帝王も死んだ。
その後も色々あったが、今に至るわけだ。
昨日組んできた水を桶に入れ、眠気を覚ますために顔を洗う。髪の毛も寝癖がひどいため、洗うことにした。
「くぅ〜冷たい!」
水はとても冷たい。出来れば熱いシャワーを浴びたいところだが、そんな設備はない。どうしてもの時は、袋にお湯を入れて、下から少しずつ穴を開ければ簡単なシャワーが出来るが、お湯を沸かすのが面倒くさい。
頭と顔を洗い終わると次は乾かさなくてはならない。普通なら、熱 ドライヤーをかけないといけないが、カズトの場合は……
「お、いつも悪いな。」
突如と風が吹き、カズトの頭らへんをぐるぐると回り出す。竜巻のような現象がおこり、髪の毛についていた水滴が飛んでいく。乾かすわけではないので若干まだ冷たい。
カズトが礼を言うと風は嬉しそうに抱きついてきた。少しくすぐったいが悪くはない。満足しただろう風は何処かへと消えていく。
ついでに、洗濯物も乾かしてくれたようだ。目に見えないホコリやダニまで払ってくれるからずっと同じ服を着ても臭くないし、かゆくもない。
着替えが終わると次は掃除だ。家の掃除はもちろんのこと、身の回りのことはすべてやる。その前にまずは……
「あー、昨日は少し騒ぎすぎたな。」
散らかり放題の庭を見つめる。
昨日、森の妖精達と相撲大会をやったのだ。結構盛り上がってその後、皆んなで妖精酒(アルコールは入ってないが、何故か酔ってしまう。)を飲みあったわけだ。もちろん優勝は俺だった。
「とりあえず、片付けるかな。」
食べ残しや瓶の蓋など、まー、汚い。今度集まった時は片付けを義務付ける必要があると心から思った。今、人間によるゴミの不法投棄で悪臭の発生や樹々が病気になり枯れ果てた森もある。自然と一緒に暮らしてるのは人間も精霊も一緒なのだから、人間のせいだけにするのは間違っている。現にこうしてカズトが片付けているのだ。
割れた瓶や蓋は直接触ると怪我をする恐れがあるため、軍手をはめる。ついでにトングがあればいい。
生野菜系のゴミなら埋めて肥料にはなるが、ガラスや金属系は錆びるだけだ。便利な素材ほど処理が面倒くさい。さらに、瓶の中には飲み残した物もあり、そこから、虫やGが大量に出てくる。
まだ、3分の1も片付いていない。これは時間がかかりそうだ。
数時間後……
「やっと終わったな。」
散らかり放題だった庭が嘘のように綺麗になっていた。我ながら見事である。ゴミはきちんと分別し、ゴミ袋へと入れる事が大事だ。
後日、街のゴミ回収の日に持っていくことにした。カラスや虫が来ないようにネットをはり、袋は二重にしてある。
「さて、そろそろ朝食にするかな。」
片付けたはいいものの、朝食をとってなかったので腹が減ってしまった。
「確か……まだ、アレが残ってたな。」
急いで台所へ向かう。まだ、家の片付けが終わってないが後からやればいいだろう。腹が減っては戦はできないといいし。
冷蔵庫の中身を確認し、何を作ろうか検討中だ。食材はこの森で自生しているのを取ればいいし、調味料は街まで行けば手に入る。そろそろ塩がなくなりそうだ。
「えっと、確かこの辺に……あ、あった。これこれ。」
冷蔵庫をあさり、取り出したのはハムのようなもの。
「ひひ、この間の商店街で貰ったチエス鳥のハム。これが、美味しんだよな〜。」
まだ、10センチほどあるが、中々手に入らないから5ミリで我慢しすることにした。
ジュルルル!!
フライパンに火をつけて、ハムを焼く。チエス鳥は油がすごいため、油をひかなくても卵がくっつく事もない。ただ、その分肉が縮んでしまうのが難点だ。
ハムに焦げ目がついたらそれを裏返し、卵を落とし、火を消し、蓋をして蒸し焼きにする。しばらくすれば完成だ。
「よし、できたな。」
今日の朝食は目玉焼、ハム、パンだ。
「いただきます!」
パク。
ん〜〜。このジューシーさがたまらないな。朝なのにスラスラと食べれる。パンに挟んで食べるとこれまた最強なわけだ。これにチーズを見れたら美味しいだろうな。あ、夕食はピザにしようか?
そんな事を考えていると……
「クィー、クィーン 。」
相棒のラッキーの鳴き声が聞こえた。多分郵便かな?
カズトは隠れているため、郵便物の受け取りは相棒であるラッキーに任せてある。ラッキーは見た目と違い相当な力持ちだ。小太りな人間も30人は運べる。
「いつもありがとうな。ラッキー。」
「クィー、クィーン。」
ラッキーから荷物を受け取とり、ラッキーは空へと帰っていった。(基本的に放し飼い。寝るときに戻ってくる。)
「さてと、なにが入ってるのかな〜。」
籠の中を開けると中には……
「えっと、ここ一週間分の新聞と……手紙?」
大量の新聞の下に、なにやら手紙らしきものがあった。
ふと疑問に思った。
「おかしいな。俺の住所を知ってるのはあいつらぐらいしか知らないはずなのに。」
あいつらなら、特殊なサインを何処かに書いてあるんだが……どこにもかいてないな。
「ま、誰かが間違えて入れたのかな?後で返しに行かせるか。」
きっと、誰かが間違えて入れちゃったんだろう。俺の隠れ家は一般人……いや、聖騎士であっても無理なはずだ。住所を知ったとしても、この森が拒んでくれるからな。ま、可能性があるなら神々の光刃団。団長のマサトーナぐらいか。
とりあえず外の世界の情報を知ることにした。新聞は、色々なことを知るのに適している。果たして、今回は何が話題だろうか。
「えっと……今年のニュークリアー学園の入学希望者は……2278人!?すげー倍率になるなこりゃ〜。」
入学できるのは250人。入学試験は筆記と実技。実技が重要なポイントだ。ま、合格するのはどこかの貴族か、有名道場の息子などだ。平民が入れる確率は3パーセントしかない。ま、貴族のほとんどは金の力で入る。ごく稀にまじめな奴もいる。
「やはり、あの戦争の影響力は世界を変えてしまったのか……」
アトムレインの開発はこれまでの戦争概念を覆ってしまった。聖騎士はもう、どの国にとっても、必要不可欠になってしまった。問題は、聖騎士の資格が取れる学校が世界では四つしかなく。多くの国が留学させたりするが、スパイ疑惑で追い返されたりや自国よりも手厚い歓迎を受けて寝返ったりすることが多い。
「今年の聖騎士に合格したのは230人中……179人か。約8割ってとこだな、」
ニュークリアー学園は聖騎士試験の合格率が他の三校にくらべかなり低い。
その分、レベルは高いらしい。
「たく、こんなに聖騎士を誕生させて……侵略戦争でも始めるつもりか?」
そんな中、あるページを見つけた。
「お、今年の合格者の発表欄か。どれどれ……」
多くの名前を読んでいく。
「どいつもこいつも、知ってるやつしかいないな……」
予想どおり、貴族の名前ばかりだ。でも、下の方に行けば行くほど知らない者の名前も出てきた。恐らく自分の実力で勝ち抜けたものたちだろう。
そして、俺は目が疑う光景を見てしまった。
「えっと最後の合格者は……鬼神カズト……ん?」
何かの間違えかな?もう一度見てみる。
番号2278 鬼神カズト 筆記300点中220点、実技B- 合格。
「俺じゃねーか!!」
え!?俺、入学試験なんか受けてないよ?まさか同姓同名?あ、でも鬼神なんて苗字は俺ぐらいしかいないしな。
そこで疑問に思うことがあった。
「そうだ!!あの手紙。」
俺は急いで手紙の中を見た。どれどれ……
拝啓 鬼神カズト様
貴殿はこの度、王立ニュークリアー学園に合格しました。来週までに学園に入学金を振り込みをお願いいたします。振り込みが確認されない場合は不合格となりますのでご注意を。
王立ニュークリアー学園。
「じょ、冗談じゃねーよ!?」
いきなり合格しましたときたら、入学金をはらえだって?行きたくもないのに払うわけないじゃん。
と、思ってたら手紙にはさらに続きが……
あ、団長元気〜?
俺今、牢獄の中にいんだけどよ〜、うっかり自白剤飲んじゃって団長の住処吐いちゃった〜(^ω^)。そしたら、それを聞きつけたマサトーナって奴がお前を欲しいんだとさ。
ちなみにこの手紙が届く頃に国の使いが来ると思うからなんとかして逃げてね〜。愛してるぜ。団長〜。
元覇道の四刀 グランセ・ロイガル。
「あ、あの野郎!?」
ぐしゃり!!
俺は手紙を潰してしまった。それより驚いたのは……
「あいつ……また、捕まったのか。」
グランセ・ロイガルは狂人だ。奴は人間の感情を操ることができる。七つの大罪がテーマとなっている。
奴ほど恐ろしい相手はいないと俺は思っている。恐らく捕まったのも囚人達の拷問されてる時の声を聞くためだろう。もしくは、自分自身がその痛みを味わいたいのだろうか。奴にとっては、痛み=快楽だ。常に快楽を求め続けた結果俺と出会ったのだ。その時のことは良く覚えている。できれば、思い出したくもない。それが縁で覇道の四刀に入ったのだ。
手紙によると、ロイガルは遥か北の海の孤島にある監獄要塞マンゴステラに収容されたようだ。いくら、ロイガルでも脱獄は無理だろう。あのあたりにの海には伝説級の魔物がうようよいる。だから、特殊な防御結界を張った船か飛行船でないといけない。
ほとんど死刑人が行くところだ。今ごろ奴の死刑が決行されているだろう……ま、誰もあいつを殺すことができないからいいか。
てか、それよりも……
「……って、逃げなきゃやばいじゃん!!」
手紙が届いてから10分は経っている。いつ来てもおかしくな……
「誰だ!!」
突然家の中から、人の気配がした。この気配は……
「ふふ、さすがは覇道の四刀元団長、鬼神のカズト。」
「今は鬼神で名乗ってる。その名はとっくに捨てた。」
「ふふ、久しぶり……いや、やっと会えましたね。」
神々の光刃団長マサトーナがいた。




