制服を買いに行こう!
「着きましたよ〜。」
森を出て、約4時間ぐらいだろうか。俺たちは初めて王都の大地に足を踏み入れた。ここは、学園の入場門の真ん前だ。
「全員、集合!」
「「「「は!!」」」」
馬車が地面に着いた瞬間、入場門から兵隊かわ波のようにズラ〜と出てきた。ほんの数秒で1ミリのズレもなく並んでいる。赤い絨毯が敷かれ、演奏隊による演奏が始まる。驚くほど訓練されていることがわかる。
まるで、俺たちはどこかの国の王様の気分だった。
だが、彼らが出迎えに来たのは俺たちじゃない。俺たちを運んできた……
「マサトーナ団長殿!ご無沙汰しております!」
「む、ご苦労。大儀である。」
「お褒めの言葉、ありがとうございます!」
互いに敬礼を交わす。
マサトーナがどれだけの重鎮かがいかにわかるであろう。この場にいる俺たちが空気みたいな存在になってしまう。
「ところで、団長殿。あちらが……」
「ええ、そうです。」
部下であろう、女性はマサトーナに「失礼します!」といい、俺たちの方へ歩いてくる。
「お初をお目にかかります。私は、神々の光刃団副団長エリスと申します。」
と、手を差し伸べる。俺も「ああ、よろしく。」といい、互いに握手を交わす。
まさか、副団長とはこれまた驚きだ。
「貴方の噂はかねがねお耳に挟んでいました。私や団長殿を前にしても、その佇まい。流石は伝説です。」
「やめてくれ、伝説は死んだんだ。それに……」
「はい?」
「公衆の面前で言うのはやめてくれないか?誰が聞いてるかわからない。」
「し、失礼しました!」
と、頭を深々下げる。なんだろうなこいつは。真面目なのは伝わってくるが、すこし落ち着きがないな。
でも、油断はならない。エリスといったけ?彼女と握手した時に伝わってきた威圧感はマサトーナ程には至らないがかなり強力なものだ。伊達に、副団長をやってるわけではないのか。
神々の光刃団は化け物揃いの軍団だろうな。
噂だとマサトーナを初め、9人はいるらしい。そのうちの6人は確認されているが、残りの3人は不明だ。ま、妥当なところだろう。
それに比べて、俺らは4人と随分と舐められた話だ。しかも、全員が狂人。名前もバレバレ。
もし、相見えたらどんな結果が出るだろうか。多分俺たちはぜんめつ。向こうは2人……いや、3人は殺られるだろう。
俺が、そんなとこ考えているとエリスはアルラの方へと移動していた。
「団長から話は聞いております。私はエリスと申します。精霊王の娘たる、アルラ殿にお目にかかれるとは嬉しい限りです!」
「え、あ、よ、よろしくお願いします?」
当の本人は困惑しているようだ。しかも、最後が疑問系になっている。
「なんか、すごいね王都の人って……」
いや、それは彼女が特別なだけあって、王都の人が全員あんなってわけじゃない。まぁー、アルラが精霊王の娘という立場からしたら敬意を払うのは当たり前かもしれない。
「そういえば、エリス。」
「はい! なんでしょうか?」
「ここから、出る時に、彼らの制服と宿を取っておくように命令しておいたはずですが……」
「はい! ご希望通り、王都の最上級スイートルームをご用意しました。制服の方は寸法がわからないので、計らせてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?仕立屋には必ず明日までには完成させるよう、言い聞かせます。」
「ええ、よろしい。では、2人を仕立屋まで案内を頼みます。私は用事がありますので。」
「はい!了解しました! ご苦労様です!」
「それでは。」手を上げてマサトーナ鞭を鳴らし、は馬車を出発させる。
「それでは、カズト様、アルラ様、馬車の用意が出来ております。こちらへどうぞ!」
指指す方向にはこれまた、豪華絢爛な馬車が用意されていた。
また、馬車に乗るのかよと思ったがここは素直に従おう。ここまで、用意されていて断るなんて、バチが当たりそうだ。
先ほどはペガサスで空を飛んでいたが、今度は地面を走るみたいだ。王都は道が整備されているからお尻が痛くなったり、酔うことはないだろう。
俺は、難なく馬車に乗る。中身もこれまた豪華だった。椅子はまるで雲の上のような感触だ。
「すごい、もふもふだ〜。」
アルラも堪能している。行儀が悪いが、可愛いから許そう。
「では、出発します。」
バシッ!
ヒヒーン!!
鞭の音とともに、馬車が動き始める。でも、そこまで感動はしない。普通はこれが正しいのだが、どうやら俺は、激しい方が好きみたいだ。
五分後……
「着きました。」
王都の街並みを静かに眺めていたら、どうやら仕立屋についたようだ。
馬車から降りると、目の前には……
「でか!?」
これまた、貴族のお屋敷ぐらいの建物が建っていた。クール・ル・テラシー。という名前の店らしい。
すると、ドアが開き……
「「「「いらっしゃいませ!!」」」」
総勢、30人もの従業員がお出迎えだ。
「な、エリス。」
「なんでしょうか?」
「俺らは制服を作るために来たんだよな?」
「ええ、だからここに来たんですが……何かお気に召さないことがありましたか?」
「いや……俺の金じゃ、全然足りない気が……」
ここはどう見ても、富裕層相手の仕立屋じゃないか。1着で、多分一年は食料に困らないだろう。
「その点は大丈夫です。我々が持ちますので。」
「そ、そうか。」
「貴方方の生活面は我々が全力でサポートするように団長殿に言われておりますので。」
そういえば、マサトーナに月に一度、裏ルートで手に入れた名酒を渡す約束をしていた。酔っ払いながらも覚えていたとは。しかも、生活面まで負担してくれるとは。
「今度、投扇興を4箱分あげるか。」
「なにか、言いましたか?」
「いや、独り言だ。気にするな。」
「……? そうですか。」
とはいえ、中に入るか。さて、仲はどんな風になってるやら。
予想どおり……いや、それ以上の空間が広がっていた。
仲は、黄金色に輝いており、屋上のシャンデリアがとても美しい。恐らく、一つ一つがダイヤモンドじゃないか? それが、数百個もついているから驚きだ。
すると、奥からタキシードを着た男性が現れた。
「ようこそ、おいでなさいました。カズト様とアルラ様ですね?ささ、こちらへ。」
案内されたのは、試着室だ。
ちなみに、アルラは女性専用の試着室に向かったようだ。
ちなみにあの男性は、この店の店長だったようだ。
「では、寸法を、計りますので。」
俺の寸法を測るために、従業員(なぜか、全員女性。しかも、美形揃い。)が、数人がかりでとりかかる。すこし、恥ずかしい……
30分後……
「ご苦労様でした。制服の方は明日、ホテルの方に送りしておきますので、ご安心してください。」
細部まで、図られたので多少時間がかかってしまった。寸法を測るときに顔が近くなるので、すこしドキドキしてしまった。
貴族や王族って毎日こんな暮らしをしてるのだろか? 羨ましいとおもうけど、俺にはすこし苦手かな。
おれは、終わったのでアルラが出てくるまでまつ。その間に店長直々にドリンクを運んできてくれた。何から何までありがたい。
ちなみにもらったドリンクはめちゃめちゃ美味しかった。香りだけで、高級感が半端ない。アルラにも飲ませてあげたい。
しばらくすると……
「お、来た来た。」
アルラが出てきた。どうやら向こうも無事終わったようだ。
「あ、待たせちゃった?」
「いや、俺もさっき終わったところだ。」
「ふ〜ん。」
アルラと軽い会話をし、俺たちは店を出る。大きな買い物をしたわけでもないが、帰るときでさえ、従業員がきちんと挨拶をする。
店を出ると、エリスが馬車の目の前にいた。まさか、俺たちが出てくるまでずっと待っていたのか?
「では、ホテルに向かいましょう。」
本人は何事もなかったこのように、俺たちをホテルまで馬車で送っていく。
移動の途中で、「どうでしたか?」と聞いてきたので、「最高だったよ。」と返しておいた。
話によると、あの店のオーナー。実はエリスだったのだ。店の従業員がちゃんと接客しているか俺たちを利用して、監視していたようだ。
しばらくすると……
「ホテルに着きました!」
馬車から降りると、これまたどでかい屋敷が建っていた。
ホテル、ロイヤルガーデン。
王都に暮らす人間なら誰でも知っている高級ホテル。
王室御用達のホテルで、有名な貴族や大商人が泊まるホテルだ。
普通の部屋で一泊150万レンソ。えげつない額だ。
そして、今回はスイートルームを用意しているといった。いったいどんな部屋が待ってるんだろうか。
「では、カズト様。これをお受け取りください。」
エリスは懐から封筒のような物を渡してきた。手紙のようだが……
「それを受付嬢に渡してください。私は用があるのでこれで。」
俺に敬礼をして、馬車で去っていた。
エリスに渡された、紹介状を受付嬢に見せると、空気が一変した。
すぐに、スイートルームへ案内され、荷物まで運んでくれた。
アルラは部屋に着いた瞬間、ベット一直線。ベット上でポンポン跳ねている。
ホテルマンから「ごゆっくりどうぞ。」と言われ、扉が閉まる。俺も、疲れていたのでベットに一直線だ。
ベットで横になっている度、アルラが話しかけてきた。
「ねぇ、カズト。」
「なんだ?」
「お腹すいた……ご飯まだかな?」
時間は4時。もうそろそろ夕飯の時間か。そういえば、昼飯を食べてなかったな。無理もない。
「どうやら、夕食は7時からみたいだ。」
「え〜、あと、3時間も待つの!?」
「ま〜、気ままに待とう。」
「ぶー!!」
「夕食はバイキングみたいだぞ?」
「……バイキングってなに?」
あ、バイキング知らないのか。いつも、ガイアが作った料理しか食べてなかったからか。社会勉強を込めて、教えるか。
食べてるときに食事マナーを教えれば一石二鳥だ。
「バイキングは簡単にいうと、食べ放題だ。」
「食べ放題!?」
ベットからバッ!と起き、目がキラキラしている。
「食べ放題はお腹が空くほど美味いんだ。それにこのホテルならそれなりに豪華だろうしな。」
「ほんと!!なら私、走ってくる!」
勢いよく、扉の方向へ向かうのを俺が阻止する。
知らない街で迷子になられるのは困るからだ。
だから……
「真剣衰弱やるか?」
「やる!!」
こうして、俺とアルラの神経衰弱大会が始まった。
こらは余談だが、本当に神経衰弱になるまで勝負になり、夕食では、アルラが全メニューが空になるまで食べ尽くした。
多分、このホテルからバイキングが消えるんじゃないかな。




