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『人のいない戦争』  作者: 電子
第3章『非日常な日常』
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第二十一話『人選』

「班長。アフリカに出張に行きたい奴なんてこの班にいると思いますかー?」


神崎が回転椅子にもたれかかりながら、回転している。


「一応聞いて見ただけだ。今回は別に俺一人でも事足りる。特に問題はない」


天野はデスクでキーボードを打ち続けながら言った。

 すると森口が、コーヒーを二つ手にして天野の元へ向かう。


「そういうわけにもいかんでしょう班長。バルトアドバンスがもしヤバイ奴らだったらどうすんですか。今回は生身なんですよ」


森口はそういいながらコーヒーを天野の机に置く。


「ありがとう」


天野はコーヒーを一口すすると、話を続けた。


「ホームページを見た感じはなんの変哲も無い企業のようだが」


天野はマウスをスクロールしながら答える。森口は天野のパソコンを覗き込む。


「乗り気はしませんね。ZEROで訪問……なんてできるわけないか。ハハッ」


森口は笑う。天野は「はぁー」と大きくため息をついた。


「今回は調査も兼ねているが手がかりがここくらいしかないのがなぁ。バルトアドバンスがあのテロリスト共とつながりがあるのかどうか……それから大見の言うベンジャミンという存在も気になる」


天野は机に肘をつきながら言った。


「あの……班長」


栗尾がやや不安そうな顔で天野に語りかける。


「なんだ」


天野が答える。


「ベンジャミンがもしブーゼルか何かでバルトアドバンス社の中で待ち伏せしているとしたら……やばいんじゃ」


栗尾が言った。もちろん、バルトアドバンスにベンジャミンが在籍し、なおかつ、あのベトナムのテロリストグループとなんらかのつながりがあるのだとしたら、その可能性は低くはないだろう。


「十分あり得る。だからバルトアドバンス社にはノーアポイントで突撃する。社名も偽る。大見含むZEROで護衛についてもらうし、近くにクローンデジタライズの支部がある。最悪そこに逃げ込めばいい。こちらについてはすでにクローンデジタライズの了承を得ている」


天野は淡々と説明した。栗尾は不安な表情を強める。


「……危険すぎますよ。それ」


栗尾が静かにそういうと、皆が何秒か沈黙した。皆危険なのは承知していた。

 天野がしばらくして、話し始めた。


「……ZEROの情報流出を許してしまった以上、せめてその埋め合わせはしなければならないんだ。これは我々の……いや俺の責任なんだ。ZEROがもし外部で解析されてしまったら……麻生電機だけじゃなく世界中で苦戦を強いられる」


天野は懸念を示すように顔をしかめる。


「だったら……私も行きます」


栗尾が唐突に言った。


「は?! バカいうな。俺だけで十分だよ」


天野は驚き声を荒げた。


「あ、あたし、ZEROはイマイチですけど……生身の格闘能力なら私がこの班の中では一番ありますよ! 拳銃の使い方も心得ています。私がこの中では一番お役に立てます」


栗尾は天野の机に身を乗り出して訴え出た。


「わかってんのか……これは襲われたら怪我をするし、死ぬかもしれない。撃たれました、じゃ済まされないんだぞ。南アフリカはもう先進国になって久しいが、銃刀法は現在はない。所持は簡単だ。いきなり銃弾が飛んで来るかもしれない」


天野は栗尾に強い口調で言った。


「任務は任務なんです。私は今までZEROの画面越しで自分は安全なところにいましたけど、なんかこう……このままじゃいつか任務がゲーム感覚に陥っちゃいそうで怖いんです。いやもうなってるのかも……だから今回行くんです」


「バカかお前は……わかったよ。好きにしろ。どうなっても責任はとれないぞ」


天野はそういうと、何かのキーを渡した。そこには小さく『重火器類保存金庫:六班』と書かれていた。栗尾はそれを受け取ると、大きくしっかりとうなづいた。

 すると、森口が言った。


「栗尾が行くっていうのに、俺が残るってのは考えもんだ」


森口のその言葉に頭を抱える天野。


「おいおい森口のおやっさんは残ってくれよ。ZEROで援護が大見の他に神崎と睦合、佐伯じゃ心もとない」


天野が言った。すると後ろの方で身を小さくしながら睦合が情けなさそうに言った。


「……ごめんなさい。どっちの役にも立たなくて」


睦合はうつむきながら小さく呟いた。


「お、おいおい睦合。そういう意味で言ったんじゃない。お前はまだ二年目だ。俺だってそこの栗尾や神崎だってそんなもんだった。お前はこれから主力になっていくメンバーなんだ。これからゆっくり練度を上げていけばいい。今回は休め」


天野はポンポンと睦合の肩を叩いた。


「……はい」


睦合は情けなさそうな声で答えた。

 隣にいた佐伯は、睦合と違って特に意気消沈はしてなさそうだった。感情の起伏が乏しい佐伯は、鼻までまで覆い隠す長い茶色いおかっぱ髪のおかげで、表情すら読み取れない。


「佐伯もお前はすっかりバックアップ要員になっちまってるが今回もZEROじゃなくてバックアップを頼む。先ずはバルトアドバンスの見取り図がないんだ。俺と栗尾が社内に入ったら映像を送るから、そこから社内の構造のイメージングを作ってほしい」


天野は佐伯に指示する。佐伯は確かにZEROの操縦はからっきしだった。その代わり、佐伯は独自の補助システムを開発したり、情報システム的サポートを行ったりと、班では特に欠かせない人材であるのは明らかだった。


「了解です。僕はこっちの方が向いていますから……」


佐伯はボソッと答えるとまた自分の机に戻っていった。

 天野は隣に座る大見にも声をかける。


「それから大見。お前は小規模戦闘ならあのゲームで指揮は手慣れているだろう。ただ実戦ではなにが起こるかはわからん。こちらからできるだけ指示は送るが、臨機応変に対応してくれ」


天野は特に力強い口調で大見に言った。戦闘に関しては天野は大見を一番信頼しているだろうし、そのことは大見自身もわかっていた。


「……わかりました。命に代えてもお守りします」


大見は期待に応えるつもりで、力強く返事を返す。すると、一転して天野はふふっと笑顔を見せた。


「お前の命はどうやっても捧げられないだろ。お前のZEROの命に代えてもお守りしてくれ」


天野は森口にも指示を伝える。


「いまさらなにもいうことはないが、とにかく森口は大見のサポートを頼む。もし必要ならお前が独断で動いても構わん」


天野は言った。結局、総合的に一番信頼しているのは森口なのだろう。

 森口は小さくうなづく。


「了解」


森口がそう答えると、天野は席から立ち上がった。


「以上! それじゃぁ……」


天野がそう言いかけた時、神崎が驚いた顔で机に上半身を乗り上げた。


「え! おれは!? おれは?!」


神崎が尋ねる。


「は?」


意味がわからない天野。


「いや、なんか途中から出陣前の部下への声掛け、みたいな感じの流れになってたじゃないすか」


「お前の役割は護衛以外特にないからなぁ。大見と森口の指示に従って、としか」


天野は適当な口調で言った。


「ひ、ひでえええ」


「冗談だよ。戦力としては認めてるから。……しっかり頼むな」


天野はそういうとパソコンを閉じて書類をまとめ始めた。


「……了解!」


神崎は天野に向かって軍隊式の敬礼をすると、席に戻っていった。


 天野は書類をまとめ終えると、帰り支度をする。


「栗尾。出発は明日の朝6:00だからな。麻生電機の輸送機でZEROとともに出発だ」


天野は栗尾に言った。


「え……明日?!!」


席でコーヒーを飲んでいたところでいきなりの事だったので、栗尾は少しコーヒーを太ももにこぼしてしまった。


「あたりまえだ。今こうしてる間にもZEROは解析されてるぞ。いま頭のカメラ部分くらいは解析されちゃったかなぁ」


天野は冗談交じりにおどけてみせる。


「せわしないですね。全部終わったら一ヶ月くらい休みが欲しいですよ」


栗尾はティッシュで太ももを拭きながら言った。


「なんとかしてやろう。お前らも早く上がれよ」


天野はそういうと部屋を後にした。


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