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◆ 少年のプライベート

「おやすみ、ザン」

「グッドナイト、レディ……いい夢を」

「うんっ」



 ロナは手を振りながら、自分の部屋に入っていった。

 俺も自分の部屋へ入る。


 今日は急の来客があったため、買い物する時間はだいぶ減ってしまったが、なんとかこの家で寝泊まりできる準備は整った。

 これで本格的に、ここが俺達の本拠点となったと言っていいだろう。


 俺の寝泊まりする部屋は二階にある一室で、その隣がロナの部屋だ。


 すぐ横ではあるものの、今まで……っていうか出会ってすぐからずーっと彼女とは一緒の部屋で寝ていたからな。こうして物理的に分断されるのは少し寂しく感じる。


 ……が、それ以上に。

 やっと一人の時間ができたんだ、それを満喫しなければ。

 ロナと一緒に過ごすこともマジで本望ではあるんだが、一人の時にしかできないことだって沢山あるからな。


 まずは日記だ。

 今まではロナが居ない少しの間に急いで書いていたが、今日からはゆっくりと執筆できる。まあ、まだこの部屋には机と椅子が無いから書きにくいが。


 次にお香。

 俺は匂いにも拘るジェントルマンだ。だから香水を使うだけでなく、時折、お香も()く。

 今までは宿屋に滞在していたため、我慢していたからな。今日は一番好きなローズの香りにしよう。


 そして……さいごに。

 俺は、紳士だ。まぎれもなく紳士だが……十七歳の男の子でもあるわけだ。


 ロナと居る間は、正直、カッコつけていた。

 ジェントルマンとして、クールじゃない姿を見せぬよう気張ってきた。だが、この空間なら……それを解いてもいい。



「あぁ~~~~」



 俺は新しいベッドにダイブする。

 全身の力が抜けていく……あ、やべ。よだれが……。

 ちなみに、ある程度なら声を出しても大丈夫だ。音を吸収するアイテムを買い(かなり高かったが)、部屋の扉の外側に設置してある。

 

 隣の部屋にいる完全にタイプ超ド真ん中の麗しいレディの耳に、俺の生活音が聞こえてしまうことはないだろう。


 さて。

 紳士として立ち振る舞っている俺は、レディ達をこよなく愛す人間だ。


 だからこそ俺は大の女性好きではあるが、セクハラにつながるような行動は絶対にしないし、ありえない。軟派な輩とは根本的に女好きの意味が違う。

 これは俺流のジェントルマンとしてのポリシーだ。


 だから常日頃、まるで性欲はないように振る舞っているわけだ。

 そう、周りからもそう見えてる……ハズだ。たぶん。ちょっと自信ないけど。


 だがしかし。

 ああいう不埒な欲求の存在自体は生物としてはむしろ自然。

 というか、歴史上の紳士的な先人達にも奥さんや子供が居たりするわけで……。


 ゆえに、男の子らしくそれなりの性欲は俺にも存在する。そしてそれは、隙を見て解放してやる必要がある。

 ははは、我ながら、よくもまあ半月以上も悶々としたモノから耐えたもんだ。

 

 ただでさえ……ねぇ?

 おっぱい大き……あんなスタイル抜群で顔も性格もめっちゃ可愛い存在が、今まで友達がいなかった分の反動なのか、やたら近い距離で接してくるんだぜ……? 俺はよくやったよ。


 さらに人が寝てる間に膝枕するってさ……ほんとよ。無垢で無知で純粋だからって何してもいいわけじゃないって。

 ま、ベタつかれるのが嬉しいからと、ほとんど注意しない俺も悪いが。


 いや。どれより、それより、なによりも。俺、あの子のすっぽんぽん、二回も見てるんだよな。

 ああ、二回も……見てるん、だよな……。


 一回目は下着姿だったけど、もう一方はもう丸出しだからな。

 裸を見てしまった瞬間から嫌な予感はしていたんだぜ、俺は普通の人間よりちょっとだけ記憶力がいいんだ。

 だからより深く、不本意ながらも、彼女のあの姿が目に焼き付いてしまうだろうと……そう思っていた。


 で、実際そうなってしまっている。ふとした瞬間に蘇るんだ。


 ……ああ、服を着てても大きさがわかるほどだからな。

 本体はマジですごかった。体は綺麗なくびれがあって細っこいくせに、デカくてハリがあるが柔らかそうでもあるアレは色も形も非常に美しく、正直、めっちゃくちゃもんでみ──── 。


 はぁ。ダメだ。

 マジで男という生き物として限界みたいだ。思考が完全に荒ぶってる。さっさと落ち着かせなければ……。


 俺は仰向けになり、ロナに絶対見つからないようこっそり保管していた春画集(えっちなほん)を取り出そうとした。


 その時だ。

 この部屋に、コンコンコンと三度のノックが響いた。消音しているとはいえ、流石に戸を直接叩かれたらわかる。


 ……え、今? 今なの?

 嘘でしょ……なんで、なんでよりによって今なの?

 なん……え、嘘だろほんと。すっかりその気だったのに。プライベート……お、俺のプライベートな時間はどこ……?


 と、とはいえ。ロナの前では俺はカッコいいスーパーウルトラジェントルマンなんだ。ご用事のある迷えるレディを、(ないがし)ろにするわけにはいかないさ。うん。


 おやすみの言葉を交わしてから、なんやかんや三十分は経ってるし、もう眠ったもんだと思っていたが仕方あるまい。


 少年から紳士の心持ちに切り替えつつ、少し前屈みになりながらゆっくり戸を開けると、案の定、そこには申し訳なさそうな表情を浮かべたロナが立っていた。



「あ、ザン……! ご、ごめんなさい。そ、その……」

「みなまで言わなくてもいいさ、当てて見せようレディ。そうだな、環境が変わったから眠れない。ならば、今まで隣で共に眠っていた俺と少し話をすれば良くなるかもしれない……そう考えてやってきたってところか?」

「す、すごい! 完璧に当たってる……!」

「はは。ま、俺が完璧だからな。そういうことなら眠気が来るまで付き合うさ。とりあえず、中へ。ベッドの上にでも腰掛けてくれよ」

「ありがとう」



 あーあ、ナチュラルに部屋の中へ入れてしまった。

 ……やはりロナは警戒心が無さすぎるな。まあ、その、寝ている俺の側で着替えてたあの頃よりはまだマシだが。


 俺のベッドの淵に座る彼女の隣に、俺も腰をかける。

 ロナはその純粋でつぶらな瞳をこちらにむけ、小首を傾げた。



「灯りがついてたから、その、ノックしてみたんだけど……ザンもやっぱり眠れなかったの?」

「いや、ちょっと違う。趣味に(ふけ)ってたんだ。ほら、香を焚いてるだろ? 宿じゃそんなことできなかったからな」

「あ、ほんとだ。たしかにすごくお花の匂いがする」

「花の匂いに囲まれながら、のんびり読書をするってのもオツなもんだぜ」



 香りと読書をたしなむ魅惑の時間……いつもの俺なら、その趣味は嘘じゃない。だが今日は嘘だ。

 読もうとしていたものは本は本でも、いかがわしい類いの本だもの。正直に言えるわけがない。



「ほ、ほんとにごめんね。趣味の時間の邪魔しちゃって」

「いいさ。俺にとって一番の、なによりの楽しみは、こうして麗しのレディとお話しをすること。ロナとこうして話せていることの方が幸せさ」

「そ、そっかぁ!」



 うわぁ……そ、そんな嬉しそうな顔をしないでくれ!

 さっきまでロナのおっ……胸のこととか考えていたのが、マジで心底申し訳なくなる。自分で自分をぶん殴ってやりたいぜ。



「そうだ。ハーブティーでもいかがかな? 温かいハーブティーは心を落ち着かせ、眠りの質を良くするんだぜ」

「いいの? じゃあ、もらおうかな」

「ああ、しばし待ってくれ」



 俺はサッとハーブティーを淹れ、ロナに渡した。

 彼女はそれを両手で丁寧に受け取ると、にっこりと微笑む。



「ありがとぉ」

「どういたしまして」

「……温かい。あ、そうだ」



 何かを思いついた様子のロナは、自分の太ももをポンポンと叩いた。そして、頬を赤らめながらモジモジとこう提案してくる。



「お、お礼にまた膝枕しよっか……?」

「あー。はは、今はやめておくよ。そのまま寝てしまいそうだ」

「えっと……その、それでもいいよ?」

「いいや、ロナの性格を考えたら俺を起こさないよう、そのまま起きて膝枕を頑張り続けるだろう。きっとな。それじゃ、眠れるようになるためにここまで来た意味がないぜ?」

「う。たしかにそうなるかも……」



 いや、俺の本音はそうじゃない。

 ……ぶっちゃけ俺はロナが目の前にいるのに、今も内心は悶々としてしまっている。


 こんな状態で彼女に膝枕なんてされたら、それこそ俺は獣になり……この少女の肉体を求めて押し倒す可能性がほんの僅かだが存在する。


 まあ、単純な腕力だけで考えたら俺を振り解くなんて、彼女にとってあまりにも容易(たやす)いだろう。


 しかし、ロナは俺に恩を感じ過ぎている。

 その負い目から下手をすれば、その身を持って、俺の獣心を全て受けいれてしまう恐れすらある。いや……きっとそうなる。


 俺は紳士である以上に純愛主義者だ。

 成り行きで、一時の感情で、付き合ってもいないのに身を交わしたくはない。イタズラにレディの身体を傷つけられない。

 特にロナは……その、出会いからして暴行をされる寸前だったから尚更だ。


 いくら俺達がおそらく、たぶん、きっと、お互いに気があるとしても。きちんと告白して、きちんと付き合うことになって、二人揃ってその気分になる、そんな時が来るまでお預けだ。



「ふぁあ……ん」

「お、眠たくなってきたようだな」

「そう、だね。ザンのおかげだよ」

「ま、眠気が来たならチャンスだ。お礼とかそんなもん今は考えなくていいからさ、明日に備えて、ゆっくり身体を休めようぜ」

「……そうする。ほんとに、ありがとね」

「気にするなよ。親友同士の仲なんだから」

「えへ……へ……! おやすみぃ」

「ああ、おやすみ」



 ロナは何度か軽く頭を下げながら、ふらつく足でこの部屋を出て行った。ふぅ、これで一件落着か。


 ……。


 はぉあああああああああああ………マジ焦ったぜ。いやー、ほんと。まだ鬱憤を晴らしている最中に来られなかっただけマジだったぜ。画集を取り出す直前だったのも救いだな。


 さて、と。今度こそ、やることやるか。

 このまま寝たら、明日は彼女と顔が合わせづらくなりそうだしな。




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