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八夏 異世界人は働き者?



 全力ラジオ体操で朝から体力を消耗した私だけど、半年近く使っていなかった自分の部屋を掃除し、午前中も精力的に過ごした。……お母さんに無理矢理させられた、とも言えるけど。

 涼しいうちに活動するのもまた夏を感じるよね。

 そして暑さの増す午後はのんびりするのだ。


 ということで、午前中の間に一仕事終えた私は、お昼ごはんの後には縁側でぐったりと横になっていた。

 傍らには蚊取り線香を置いて、時折庭の緑の隙間から青い葉の香りと一緒に涼しげな風が吹いてくるのに目を細める。ミンミンと一生懸命鳴く蝉と吊るした風鈴が奏でる心地のいい音色をBGMに、微睡む。

 まさに私の大好きな時間だ。

 ああ本当に。

 The 夏!

 って感じだなあ。

 もう少し気温が上がったら、扇風機でも回しながらアイスを齧ろう。

 そんな計画をぼんやりと頭の中で立てていると、不意に閉じた瞼に陰が差した。

 心地のいい時間を邪魔され渋々目を開け見上げると、随分背の高いシンデレラの姿が。

 うーん、本当にドレス着て女装しても似合いそうだよね、アシュールって。顔だけは綺麗だし。性格悪いけど。


「…………」


 私の枕元に立っているアシュールが、じっとこちらを見つめてくる。

 今度は何だ?

 俯いている所為で目元が陰になっていて、何を考えているのかわからない。

 とりあえず、そんなところに立っていられると落ち着かないんだが。嫌がらせでもしに来たんだろうか。

 じっとこちらを見つめてくるアシュールに、私も負けじと見つめ返す。にらめっこなら負けないんだからね。

 一向に立ち去らないアシュールを見ていて、突然頭に閃くものがあった。


 まさか、ヤツの目的は……!


 こ、この場所は譲らないぞっ。

 夏の縁側は私のものと決まっているの、我が家では!

 アシュールは大人しく屋根裏にでも行ってなさい! ウチに屋根裏なんてないけどね!


 シンデレラの姉らしく意地悪なことを考え、絶対退かないぞ、という気持ちを込めてこれ見よがしに目を瞑ると、暫くしてアシュールは静かに立ち去って行った。


 …………。


 何か一言くらい言って行けばいいのに。

 ……ああ、あの人日本語喋れないんだっけ。

 それでもさ、家の中で出会ったのに無言はないよねぇ?

 って、私も言葉は一言も発してなかったけど。


 何だか少しだけモヤッとしつつ、不貞寝するように目を閉じていると、直ぐにパサリと何かがお腹の上に降ってきた。

 目を開けると、お腹に水色のタオルケットが。


「ありがと、お母さ――」


 言いかけて止まる。

 側に立っていたのは、さっき何処かに行ったはずのアシュールだった。


「-----、----?」


 何を言っているのかさっぱりだ。

 でも今の状況を考えると、“そんなところで寝てると、風邪を引くんじゃないのか?”とかかな。心配してくれたんだろうか。やっぱり優しいとこも……。

 ……。

 いやいやいや!

 私はもう騙されないぞ!

 どうせ、お母さんに言われたか何かで嫌々ながらに持ってきたに違いない!

 きっと今の言葉も“お前の所為で、扱き使われてるんだけど?”とか言ったんだ!

 絶対にそうだ!


 真意を確かめてやろうと、寝転がったまま体勢を仰向けに変えてずっと高い位置にあるアシュールの顔を見る。

 起き上がらないのかって?

 だって私、まだまだ転寝するつもりだし。起きるのちょっと面倒だし。下から見上げたアングルからでもアイツの顔が整ってるのが癪だし。って、これは関係ないか。

 そういえば、金髪の人って、○毛も金色なのかな? 今度見せてもらおうかな。……いやいや、汚いからやめよう。どんなに綺麗な顔をしている人の毛でも、ソコの毛はね。

 ん? ○には何が入るのかって?

 もちろん、“鼻”に決まってるじゃない。 他に何があるの?

 あ。もしかして、みんな“カゲ”って漢字を想像した!? そんなわけないって! そんなの、今度見せてもらおうとか言うわけないでしょ! ハッハッハッ。

 …………。

 どっちにしろ下品でした、ごめんなさい。


 清純派な私らしからぬ思考をこっそり巡らせていたんだけど、ふとアシュールの足元にあるものに目がいった。洗濯カゴだ。

 もう朝に干した分はすっかり乾いて、今度は二回目の分みたい。夏は洗濯物も派手に出るもんね。

 …………。

 あー。

 アシュール=シンデレラ説がいよいよ濃厚になってきたな。

 買い物に食事、洗濯、って。

 チヤホヤされていると思ったら、意外と本気で扱き使われてない?

 まあ、アシュールをべた褒めなお母さんのことだし、無理にさせているとは思えないけど。でも何だか本当に可哀相になってきちゃったよ。

 居候とはいえ、私以外の家族はアシュールが異世界人だということを信じて疑っていないはずなのに、世界の違うところから突然トリップして来ちゃったような人をお手伝いさんのように使うなんて。

 何て言うか、もう少し気楽に過ごさせてあげればいいのに。

 それによく見れば着ている服だって昨日と同じようなお父さんのだし。買い置きのTシャツをおろしたっぽいとはいえ、ちょっとあんまりじゃない? そもそもサイズが合ってない。


 暫くそんなアシュールを同情の目で眺めていた私だけど、ヤツが洗濯カゴを持って立ち去ろうとしたから慌てて立ち上がった。


 うん、思い立ったが吉日!


 いくら嫌いでも、昨日の川遊びで気を遣ってくれたことを忘れたわけじゃないし、今だってお母さんに頼まれたのかもしれないけれどタオルケットを持ってきてくれたわけだし! それにほら、私って優しい子だし! 本当にシンデレラの姉みたいになるのは嫌だし!

 何かの言い訳のように心の中で叫びながら、急いでアシュールの腕を掴む。


「ちょっと待った」


 驚いたように振り返ったアシュールの腕から洗濯カゴを奪い取る。


「ここで待ってて!」


 それだけ言うとアシュールを置き去りにし、私は弟の部屋に足音荒く乗り込んだ。

 本気で嫌がる孝太に洗濯物を押し付け、待っててという言葉通りに縁側で突っ立っていたアシュールの腕を引っ張って、家を出た。







○毛に騙された人、正直に手を挙げて!


……性質悪くってすみません(謝


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