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第十話 【活気】


 裏通りを抜けて戻ったアルマーニは、干し肉を齧りながら夕暮れを迎える町並みを眺めていた。


 まだ活気が残る商店を一瞥し、呑気に噴水広場のベンチに腰掛ける。


 この活気の中に、冒険者たちはいない。本来ならば、洞窟や遺跡から帰還した冒険者の一党が、武具の修繕や薬草類の調達、拾った物を売買しているはずだ。


 その姿や賑わいがないのは、依頼がそもそも斡旋されていないからか。その原因を作ったのは、アルマーニのせいだと言わんばかりの光景だった。



「あいつが、俺を……」



 アルマーニはボソりと呟く。


 ボルネードはとことん追い詰めてくる気だ。殺す前に、同業者の輪から外させることが目的か。


 つまりこうして呑気にしている姿も、どこかで誰かに監視されているかも知れない。



「……っあー! 俺らしくねぇ!」



 頭を掻きむしり、アルマーニは苛立ちを干し肉にかじりつくことで発散させる。


 いつもならどうしていた?

 売られた喧嘩は買っていた気がするが、その記憶すらも遠く感じてしまう。


 齧った干し肉に視線を落とし、アルマーニは生唾を飲み込んだ。



「やあ相棒。お疲れのようだね」



 不意に声を掛けられたアルマーニは、安堵しながらも顔を上げることもせず鼻で笑った。



「おう、そっちこそ遅ぇじゃねぇか」


「あいにく僕は君のような体力バカじゃないんでね」



 嫌味を皮肉で返してくるのは、勿論グレッダだ。見ずともアルマーニには分かる。



「流石に堪えたね」



 隣に腰掛けるグレッダは、一呼吸置いて足を組んだ。



「本当にハエのようなしつこさだよ」



 襟元のボタンを外し心地よい風を汗ばんだ身体に与えるグレッダ。


 アルマーニは暫く無言で干し肉を齧っていたが、沈黙に耐えられなかったのか、ためらいがちに口を開いた。



「お前は……俺の味方か?」


「……アルマーニ?」



 無理して笑って問うたアルマーニは、震えていた。顔を向けることも出来ず、目を合わせることが怖かった。


 グレッダは少し驚いたようだったが、複雑な表情を浮かべ小さく頷く。



「僕は君のパートナーだ。君のおかげで今ここに僕がいる。今さら裏切れと言われても無理な話さ」



 呆れつつもいつもの調子で答えたグレッダは、アルマーニの頬を持って無理矢理顔を持ち上げた。


 そのまま彼の額に向けて、左手で力強いデコピンをお見舞いする。



「いってぇぇ!? 何しやがるっ!」



 不意打ちに思わず立ち上がった怒り心頭のアルマーニに、グレッダは満足げに笑って見せた。



「君はそっちが良い。落ち込むより、怒っている方が合ってる。でも、怒りをぶつける相手は違うんじゃないかい?」


「……」



 グレッダは視線を、町の中央にそびえる城に移動させた。その言葉は、アルマーニにとって最高の助言でもあった。



「格好つけすぎなんだよ」


「君が格好悪いんだから、仕方ない」


「言うじゃねぇか喧嘩なら買うぜぇ?」


「残念だけど喧嘩の売り買いは僕の商売外だ」



 五年の付き合いは伊達ではないということだろうか。アルマーニは相棒の拳を合わせ、ニッと笑って見せた。



「で? 早速乗り込むかい?」


「おうよ、本気で行くぜぇ」


「なら準備しよう」



 乗り気なグレッダは立ち上がると、迷わず商店の方へと歩みを進めた。



「ってもなぁ、堂々と表からは流石に入れねぇぞ」


「ああ、それなら紫髪の男が教えてくれてね」



 煙幕玉や眩虫などを見ながら、グレッダは城の方へ視線を向ける。



「この町の供給は全て城が管理している。つまり、水は何処からでも繋がっているわけさ」


「まさか……」


「そう。そのまさかさ」



 苦味潰した顔をしてみせるアルマーニに対して、グレッダは重曹を手に取り得意気な顔をした。




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