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第四話 【“真”剣勝負】



 ピリピリと痺れる痛みが指先から手首に掛けて広がる中で、アルマーニは手斧を変形させた。



「珍しい武器を持っているようだ。貴様には勿体ない」



 剣身に手を添え、ボルネードは眉を上げた。



「勿体ないかどうかは、この後分かるだろうなぁ」



 大口を叩くアルマーニだが、相手は上級冒険者だ。簡単には倒せないだろう。



「さあ来い。楽しもうじゃないか!」



 腰を屈めボルネードが地を蹴った。


 風を切るが如く、接近戦に持ち込んだボルネードに対して、斧槍で防いだアルマーニは素早く距離を取る。



「逃げるのか。野良犬らしく噛みついて来ると思っていたがな」



 煽ってくるボルネードには乗らず、アルマーニは黙って動きを見続ける。


 ボルネードは舌を打つと、再びアルマーニに距離を詰めていく。


 隙のない突き攻撃を多用し、胸辺りから急に上へと切り上げ、そのまま振り下ろし横薙ぎする連携技。


 上級とだけあって、動きは完璧なものだ。だが、その連携技はアルマーニに掠ることもなかった。


 明らかに急所を狙ってくるボルネードの目が、次の攻撃する位置を教えてくれていたのだ。


 魔物の動きと人との戦闘は大きく違ってくるのは馬鹿でも分かること。

 ボルネードの剣捌きは確かに細かく、大振りの攻撃は全くない。


 それでも、魔物との戦闘で染み付いた次への一手が、アルマーニに伝わってしまうのだ。



「……何故、当たらない!」



 左右に細かくステップし、時に斧槍で弾く。反撃はしない。あくまで観察を徹底し、相手の癖を見極める。


 その動きは当然ながら、ボルネードの額に青筋を浮かばせた。



「貴様ぁ! 俺をコケにするつもりかぁっ!」



 怒りのあまり大振りに剣を奮ったボルネード。


 その一振りを斧槍で受け止めたアルマーニは、真剣な眼差しでボルネードを睨んだ。



「コケにしてねぇよ。逆だ」


「なに……っ!?」



 意外過ぎるアルマーニの返答に、ボルネードは鍔競り合いを終わらせ大きく退いた。



「俺はテメェみてぇに強くねぇ。んなもん分かりきったことだ。オーガを簡単に倒した奴を軽く見るなんざ自殺行為だぁ」



 左足を引き斧槍を相手に向けたアルマーニは、鼻を鳴らして口角の端を上げる。



「実力は認めてんだ。俺が気に食わねぇのは、テメェのやり方だよ」


「そうか、それは……屈辱だな」


「ああ゛……?」



 ボルネードは額にさらに青筋を浮かばせ、力強く剣柄を握り締めた。


 瞬間、凄まじい速さで刃が一閃され、アルマーニの頬に一筋の赤い線が走る。



「こんな野良犬如きに、俺が認められて喜ぶとでも思うのか……ああ、屈辱だ。恥だ。俺と並ぼうとするな野良犬が!!」


「うごっ……!?」



 狂ったような連撃を繰り出すボルネードは、連携の途中に足蹴りを加えてきた。


 突然の蹴りに対応出来ず、まともに鳩尾に食らったアルマーニは、大きく体制を崩してしまう。


 すぐさま右足を引き倒れることを防いだが、ボルネードの追撃は止まらない。



「ふんっ!」



 剣と共に自らも回転し、外套で目眩ましをしてくるボルネードに、アルマーニは必死に振り払う。


 だが、振り払った先に見えたものは、突きを繰り出したボルネードの鋭い剣先だ。


 それを間一髪顔を横に避けたアルマーニは、斧槍で弾き大きく身を屈めた。



「やるではないか!」



 愉しげな声音が降り掛かると同時に、ボルネードの剣が振り下ろされる。


 膝を地面に付き、斧槍で剣を防いだアルマーニは、押し返すと共に横薙ぎに奮った。


 自然と身を翻したボルネードは距離を開けたが、逃がすつもりはないらしい。



「さあ! さあ!! 反撃してみろ!!」



 地を蹴り上げ、隙を与えぬ突き攻撃を何度も繰り返すボルネードの表情は、狂気じみているが真剣そのものであった。


 背中を付かせれば勝ちというのに、殺意が嫌でも伝わってくる。



「舐めんなっ!」



 素早く手斧に戻したアルマーニは突き攻撃を弾くと、太股のナイフホルダーに手を掛けた。



「ぬっ……!」



 小型ナイフを引き抜くと同時に切り上げたアルマーニ。


 咄嗟に顔を上げたが、ナイフの切っ先はボルネードの鼻先を掠り、小さな粒の血が宙を舞う。



「くそ……っ!」



 身体を反らし剣を横薙ぎに振るおうと動くボルネードより先に、アルマーニは手斧で剣を弾き鳩尾目掛けて足蹴りを繰り出した。



「がっ、ぐぅ……!!」



 突然の反撃に怯んだボルネードを、アルマーニは続けて手斧の柄で追撃しようと足を踏み出す。



「そのまま倒れちまえ!」



 額に向けて柄がぶつけられ、ボルネードは後ろへ倒れていく。


 背中が地面に付いた者が負け。

 この状況ではどう足掻いても背中から地面に倒れる。


 だが、ボルネードは額から血を流しながら満面の笑みを浮かべていた。


 それに気が付いた時、アルマーニの右腕が弾かれたように大きく跳ねたのだ。



「うっ、ぐ……あぁ……っ!?」



 手斧を持つ右腕があらぬ方向に跳ね、アルマーニは自らの右手を押さえつける。


 同時に、背中を付くはずだったボルネードは剣先を地面に突き立て、身体を旋回させ体制を立て直したのだ。



「確かに、貴様は野良犬にしては強い。野良犬にしておくのは惜しい。今ならまだ間に合う。俺に黙って従い続けろ。殺しはしない。優しく、割れ物のように扱ってやる」



 化け物じみた笑みを見せ、右腕を震わせるアルマーニに迫め寄るボルネードは、引き笑いをして血を拭った。



「アル!?」



 アルマーニの異変に驚くソルシェ。

 だが、周りの叫びや怒号により掻き消され、ソルシェの声は届かない。



「俺は……テメェなんかに、屈すると思うか」


「残念だ」



 少し離れたボルネードは容赦なく剣を振り下ろした。


 逃げることも避けることも間に合わない。


 手斧を持ち替えることも間に合わないならば、左腕で顔を庇うことしか出来なかった。



「うあぁぁぁあっ!!」



 雄叫びと共に左腕を切り裂かれたアルマーニは、血飛沫を浴びながらゆっくりと後ろへ下がった。


 綺麗に裂けた左腕の肉から大量に血が溢れ出、あっという間に膝や足元を赤く染め上げていく。


 右腕は痺れでまともに動かない。

 左腕は激痛と急激な寒さ、痺れに眩暈と言いようのない気持ち悪さ。


 それらがアルマーニの身体に襲い掛かり、形成は一気に逆転する。



「おかしいとは、思ってたんだがよぉ。マジで、古風な手ぇ使うじゃねぇか」


「まだお喋り出来る力が残ってるとはな。貴様こそ、そのまま倒れてもいいんだぞ?」



 顔が青ざめていくアルマーニの身体を、ボルネードは鼻で笑いながら手で突き飛ばす。


 それでも、アルマーニは倒れない。



「反則技を使わねぇと俺に勝てねぇ。そういうことだろうが」


「俺が何をした? 俺は何もしていない。貴様が勝手に思い込んでいるだけだろう」


「本当に、屑野郎だな」


「溜め息しか出てこない。負けそうになったから俺が悪いと。所詮、貴様はその程度か」



 意地でも無実を言い続けるボルネードに、アルマーニは笑みを浮かべて諦めた。


 何を言っても無駄だ。

 結局、立っている者が勝者なのだ。

 勝ってから明かせば良い。


 アルマーニは負傷した左手に手斧を持ち替え、血溜まりを踏み鳴らした。



「死にたいらしいな」



 武器を構えるアルマーニに対し、ボルネードは鼻を鳴らす。



「いんや、生きてぇよ。こっからが、本番だぁ」



 ニヤリと、アルマーニは笑った。


 それが気持ち悪かったのか、ボルネードは眉間に深いしわを寄せ剣に付着した血を振り払う。



「……ままごとは終わりだ。付き合い切れんよ」



 剣身に手を触れ、ボルネードは真っ直ぐアルマーニを見据えた。


 重苦しい空気と野次馬の声援や怒声がエスカレートしていく中で、二人は同時に地を蹴った──。






 

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