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恍惚な狂喜



「そうか、失敗したか」



 王城にて与えられた一室で、俺は資料に目を通していた。


 書類と言えど、目の前にいるビクついた下劣な兵士が持ってきた残念な報告書だが。



「で? 失敗した奴は?」



 俺の問い掛けに、兵士は分かりやすく目を逸らした。


 全く役に立たない。

 どいつもこいつも、たった一人の男を殺すためにどれだけ浪費させれば気が済むのか。



「今は尋問室にて事情聴取をしている頃だと、思います……」



 こいつは驚くほど素直に答えやがった。


 俺は溜め息を漏らしてしまい、思わず席から立ち上がりそうになってしまう。



「そうじゃないだろう? なあ? 俺が言いたいこと、分かるよな?」


「ひっ、は、はい……申し訳ございませんボルネード様!」



 顔まで青くさせて、兵士が頭を下げる。


 面白くない。

 俺は苛立ち書類を叩き付けるように投げ、ひとまず椅子に深く腰を下ろす。


 いかん、これ以上やると余計に話が進まない。短気なのは良くも悪くも弁えなければ。



「あ、あの男は、今日の夜には始末致します。あと、例の狼ですが……その……」


「口籠るな」


「そ、それが、コボルトを引き連れてどこかに消えてしまい、確保は不可能に近いかと……」



 兵士の報告はどれもこれも俺にとっては最悪だった。


 折角舞台を整えてやったというのに、やはり駆け出し程度では満足出来なかったか。


 反吐が出るほど鬱陶しいが、白銀の人狼を手放したのは惜しい。

 せめて首だけでも帰ってくれば、あとはどうとでも出来るというのに。



「あの人狼についての依頼書を発行する。捕らえた者には金貨五十……いや、状態によっては百を出そう」


「は、はい。かしこまりました」



 俺の行動は凡人には異様に見えるか。


 だが、脳が無事なら新しい奴を作り出せばいい。欲しいものは手に入れ、作れるものなら作る。


 しかし、手に入らないものもある。



「あとはあの男か」



 俺は舌を打って顔を歪める。


 あの女──ソルシェだけは、必ず手に入れたい。


 生まれはあれだが、顔は良い。

 体つきも十分だ。少し臆病だが、勝ち気な女よりはいい。

 

 完璧な男の横には完璧な女こそ相応しい。俺の物にしてやれば泣いて喜ぶだろう。


 それを、あの男が邪魔をした。



 俺が買い与えた武器まで売って、あの男の傍にいやがる。俺が見ていないところで、あの女が汚されでもしたら最悪だ。俺の物に手を出すあの男を早々に殺さなければいけない。



「思い出すだけで殺したくなる。ああ、もしかするとこれは恋かも知れない。腸を引き摺り出し、一滴も残さず血を搾り取って肉塊にして、首だけのあいつを潰れるまで殴りたいほどに、俺は好いているのかも知れない」



 ああ、想像するだけで痺れるほどの快感に揺さぶられる。


 そうだ。あいつを殺す前に目の前で見せ付けてやるのも悪くない。好いた女の喘ぎくらいは聞かせてやろう。


 なんて優しいのか。

 俺は本当に完璧な男だ。


 こんな完璧な男だからこそ、あの女も素直になれずにいるのかも知れないな。

 構わない。気付かせてやるのも俺の役目としよう。


 だがその前に──あの男をどう殺すかが問題だ。



「あ、あの……失礼しても、よろしいでしょうか?」


「あ? ああ、まだ居たのか。さっさと失せろ」



 俺の邪魔をする兵士はそそくさと部屋から出ていった。


 一人になった俺は考える。

 一度手に入れてしまえばあとは好きに出来る。どう陥れるか、どう奪うか。



「最高の舞台は必要だ。それにはカモフラージュが必要だな。くっ! ふふ、笑いが止まらない。待っていろ。俺を敵に回したことを一生後悔させてやる」



 俺はテーブルに羽ペンでプランを書き殴る。


 舞台を完成させるには、少々時間が必要になるかも知れないな。

 まあ、時間稼ぎくらいなら俺が直々に出ても良さそうだ。


 そうなると観衆がいた方がやりやすい。



「さて、楽しもうか。アルマーニ」



 息をついて窓から見える城下の景色を眺める。俺は笑いが堪えきれず顔を押さえた。


 我ながら気持ち悪い。

 だが、なんて心地良い気持ち悪さだろうか──。







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