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第十一話 【戦狂の人狼】



 目の前の敵を忘れ息を飲んだアルマーニは、飛び掛かってくるコボルトに反応が遅れてしまった。



「ぐおっ……!?」



 爪を振り上げるコボルトの攻撃を、アルマーニは寸でのところで手斧を前に突き出し防ぎ切る。



「アルマーニ! ここはどうあっても引くべきだ!」


「んなこたぁ分かってる! けどなぁ……!」



 互いに一匹ずつ相手をするが、何故かコボルトを殺すことが出来ない。


 手斧や槍の攻撃範囲を理解しているのか、見事に躱され翻弄されてしまう。



「くそ、なんで当たらねぇんだ」



 下段からの切り上げ、細かい横振り、上からの叩き付け、どの攻撃に対しても避けられる。


 一向に逃げられそうにない状況に、アルマーニは苛立ちを見せていた。



「標的が動きすぎて、合わせられないわ」



 頼みのリーナも、激しく動くコボルトに矢を放つことが出来ないでいた。


 背面のはずなのに、常にアルマーニと被るように戦うため、外れてしまった時のデメリットが大きすぎるのだ。



「……奴らは、動かない、のか?」



 大盾越しに見守っていたゼスは、整列しているコボルトに違和感を覚えていた。


 まとめて掛かれば容易に皆殺しに出来る数を揃えておきながら、コボルト共は全く動きを見せない。


 玉座を模した骸に腰掛ける白銀の人狼は、退屈そうに高みの見物を決め込んでいる。


 どうやら加勢をするつもりなど微塵も無いらしい。



「動きを止められればいいんだな?」



 眉間に皺を寄せ、アルマーニはニヤリと口角を上げると、グレッダを一瞥した。


 手斧を一振りしてコボルトの攻撃を誘発させると、アルマーニは微動だにせず笑みを見せる。


 大口を開けて爪を奮おうとしたコボルトの間に割って入ったのは、グレッダの槍だ。


 驚く二匹のコボルト。


 一方はグレッダを殺そうと攻めに動いたが、一方は驚きすぐさま後退しようと動き始める。


 その焦りを見せたコボルトの背中を、これ見よがしにリーナが弓を放つ。



「ガッ……!」



 背後から受けた矢は少なからずコボルトの動きを止め、目の前に奮われる手斧を避けられず頭から食らった。


 同時に、グレッダも槍を横へ旋回させ、元気なコボルトとの距離を開ける。


 邪魔者もいなくなり、形成逆転。

 素早いコボルトでも、三人掛かりならば容易く狩れるだろう。



「さあ、どうする」



 三対一となった状況で、グレッダは唸るコボルトに微笑んでみせた。



「……! 避けて下さい!」



 突如、ソルシェの叫びが響いたと思えば、アルマーニの首横を一陣の風が吹き抜けた。


 それは首を掠り、ゼスの大盾にぶつかると哀しい音を立てて地面に落ちる。

 落ちたのは、粗悪な一本の矢であった。



「なっ……!」



 驚く二人の隙を突き、器用にも壁を走って逃げたコボルトは、グレッダに一瞥もくれず仲間の元へと走り抜ける。


 そこには、弓を構えるコボルトの前衛が固まっており、アルマーニたちを迎撃しようとしていた。



「ウォフ……」



 だが、それを白銀の人狼が止めた。


 大柄な体格に似合わぬ小さなルビーの杖を片手に、低く呻きコボルト共を制止させる。


 二つの耳の間には、おぞましい骸の死体を繋ぎ合わせた冠を被り、その姿は外套こそ無いものの王そのものだ。


 

「グガッ!」


「グアッ! ギャア!」



 白銀の人狼が立ち上がると、周りのコボルトが騒ぎ始める。


 どうやらコボルト共は煽るだけで、王の指示が無い限り動くことはないようだった。



「ちょっと、待ってよ! 本気でやり合うつもりじゃないわよね!?」



 今なら逃げられるというのに、全く動く気配が無い二人に、リーナは今にも泣いてしまいそうな表情で首を左右に振る。


 

「こいつぁ無理だ。逃げりゃあもっと勢力が増える。それによぉ、ここまで遠いんだ、出直すってのは勘弁してくれ」



 頬に付着した汚れを手の甲で拭い、アルマーニは白銀の人狼を真っ直ぐ見据えた。


 

「それにこの数だ、下手に逃げれば追い付かれて食い殺されてしまう」



 槍を一振りしてから、グレッダは重く呟く。


 白銀の人狼は迷いなく二足歩行で近付いてくると、仁王立ちでこちらを見下ろした。


 体格の差もあるが、その威圧や圧力は凄まじいもので、綺麗な深紅の瞳がより一層強者に見せられる。


 アルマーニとグレッダは黙って武器を構えるが、白銀の人狼は人差し指を立てて前へ突き出した。


 指し示されたのは、アルマーニだ。


 お前が来いと、挑発するように逆に手招きする白銀の人狼は、ルビーの杖を後ろへ放り捨てる。



「……この!」


「……」



 重苦しい空気の中で、リーナが初手に矢を放った。


 しかし、矢は容易く払われてしまい、リーナは小さく悲鳴を上げる。



「──っ!?」



 次の瞬間、白銀の人狼の後ろから一本の矢が放たれ、それは吸い込まれるようにリーナの肩口に突き刺さった。



「ああぁぁっ!」


「リーナさん!」



 庇うことも出来ずまともに食らってしまったリーナは、ソルシェに支えられ再び大盾に隠れる。



「貴様ら……!」


「動くな!」



 怒りに身を任せ突き進もうとしたゼスを、グレッダが力強い言葉で制止を促す。


 ビクリと肩を震わせ足を止めたゼスは、射殺す眼差しを送る白銀の人狼と目が合い足を竦ませた。


 初心者如きが出る幕ではないと。

 安易にそう言われているようで、ゼスは唇を噛み締めながら一歩ずつ下がっていく。



「すぐに止血しますから!」



 布袋を漁り、包帯と止血剤を取り出したソルシェは、簡単な応急手当を始める。



「ウォフ」



 白銀の人狼はグレッダを払うように顎でしゃくり、奥へと視線を送った。



「どうやら君と一戦交えたいらしいね」


「マジかよ。なんで俺なんだよ」



 ゆっくりと後ろへ下がるグレッダは、空笑いしながらアルマーニへ手を振る。


 その表情はどこか安堵しており、残されたアルマーニは鼻を鳴らして溜め息をもらした。



「本気でやらねぇと、俺が死んじまうってか。冗談キツいぜ」



 手斧の柄を見つめるアルマーニに対して、白銀の人狼は腰を低く屈め拳を握り締めた。


 魔物らしくない戦闘狂を相手に、アルマーニは手斧の柄に付いたネジを外し肩の力を抜く。



「手加減なんてしねぇよ。テメェの娯楽に付き合うつもりは、ねぇからな」



 勢いよく手斧を横へ振ったアルマーニは、歪な音を立てて変形する愛用の武器を一瞥した。


 変形した手斧の柄は三連結が伸び、斧槍へと姿を変える。



「行くぜ」



 眉間の皺を深く刻み、アルマーニは斧槍と共に強く地を蹴り出した。




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