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第八話 【依頼人】



「で、結局あれから会ってないと」



 珍しく協会で待ち合わせたアルマーニは、グレッダに呆れられていた。



「仕方ねぇだろ。家も知らねぇし」



 言い訳をするアルマーニ自身も、不服そう頭を掻いた。


 帰還してから一週間が経過しているが、アルマーニがソルシェと出会うことはなかった。


 受付横に壁掛けの掲示板を適当に流し見て、アルマーニは深い溜め息をつく。



「まあ、彼女も子供じゃない。時間が経てば落ち着くさ」



 一応気休めの言葉を掛けるグレッダだが、どうやら上の空であるアルマーニには届かないようで。


 グレッダは肩を竦めて酒場の方へ視線を移した時、「おい」とアルマーニに声を掛けられ視線を戻した。



「これ」



 掲示板の片隅に貼られた一枚の依頼書を剥がし、アルマーニは眉をひそめた。


 それを覗き込んだグレッダも、目を細めて内容を読み上げていく。



「これは、協会絡みの依頼書だね。ああ、コボルトの……」



 グレッダは妙に納得して顎に手を当てた。


 内容はまさしく試験用の地下洞窟に住み着いたであろうコボルトの討伐であった。



「まさか協会が依頼をするたぁな。相当厄介なんじゃねぇか」


「君たちが入った洞窟だよね。銀貨は百枚だし、まあ報酬を見れば厄介そうだけど」



 二人は顔を見合わせ唸った。


 ゴブリンよりは良い報酬だが、アルマーニは奴らの動きや賢さを知っている。


 銀貨百枚では安いように思えるが、それでもアルマーニは無視出来なかった。


 グレッダの答えは決まっているようで、難しい顔をするアルマーニの背中を押して受付へと促す。



「いいのかよ」


「どうせウダウダ言うくらいなら構わないさ」


「……悪ぃな」



 軽く手を上げてアルマーニは協会の受付カウンターへと歩き出した。

 グレッダは近場の柱にもたれ、腕を組んで様子を見守る態勢へと入る。


 週替わりする受付嬢たちの中で、今日は丸眼鏡ののんびりとした女性であった。


 昼も過ぎ暇なのか、欠伸をしようとした瞬間アルマーニが前へ立ったことで、丸眼鏡の受付嬢はすぐに頭を振って欠伸を噛み殺す。



「二人での登録で頼むぜ」


「あ、はい。かしこまりまし……た」



 アルマーニの差し出した依頼書を手に取った丸眼鏡の受付嬢は、内容を目にして眉をひそめた。



「ああ、この依頼書ですね。少々厄介でして」


「わぁーってる。コボルトだろ?」


「いえ、そうではなくて」



 困り顔をして丸眼鏡を持ち上げた受付嬢に、アルマーニも困り顔で返す。



「こちら、依頼人も同行する特殊な依頼でして、所謂、参加待ちというものなんです」


「つまり、依頼人も冒険者だと?」



 割って入ってきたグレッダの疑問に、丸眼鏡の受付嬢は「はい」と、頷いた。



「なんだぁ? じゃあ俺らはそいつと合流して戦えばいいのか」


「そうなります」



 アルマーニの問いに、丸眼鏡の受付嬢は短く頷き羽ペンを持つ。


 再びアルマーニとグレッダは顔を見合わせたが、それも一瞬のこと。


 すぐにカウンターへ視線を戻したアルマーニは、腰に手を当てて白い歯を見せた。



「まぁ、細かいことは無視だ。改めて登録頼むぜ」


「かしこまりました」



 アルマーニの言葉により、丸眼鏡の受付嬢は依頼書に二人の名前と階級を記していく。


 一通り記入し終えたところで、丸眼鏡の受付嬢が顔を上げた。



「では、依頼主に一報を入れますので、先に裏庭の方でお待ちください」


「おうよ」



 柔らかい動作で指し示された裏庭へ、二人はゆっくりと向かっていく。


 といっても、向かうのは裏庭近くのテーブル席だ。


 今から一報を入れ、準備やら色々と整えてこちらに向かうと考えれば、立って待ちぼうけを食らうなど御免という訳で。


 

「景気付けに割けでも飲むかぁ?」


「止めておきなよ。酔って死んだらシャレにならない」



 軽く引っ掛けたいアルマーニを止めるグレッダは、席に座るや腕を組んで舟を漕ぐ準備に入る。


 仕方なくアルマーニもテーブルに頬杖をついて待とうとした時、二階から騒がしい声が下りてきていた。



「ようやく依頼を受けてくれる人が現れたのね。待ちくたびれたわ」


「あ?」



 聞き覚えのある女性の声に、アルマーニは片眉を上げて視線を向ける。


 丸眼鏡の受付嬢に指を差され、金髪の女性がアルマーニと目を合わせた瞬間、お互いに「うわ」と、声を漏らす。



「まさかとは思うけど、貴方が、この依頼受けたの?」


「まさかとは思うが、依頼主ってのはお前か……?」



 互いに嫌そうな表情で問うたところで、グレッダも顔を上げて女性を確認する。


 金の長髪を揺らし、弓弦を肩に掛けた女性──リーナに、グレッダは少し驚いて微笑んだ。



「あ~これも運命ってやつかしら。だとしたら神様に弄ばれてるわね」


「見放されてるの間違いじゃねぇか」



 額に手を当てるリーナに、鼻で笑いながらアルマーニは肩を竦める。



「君がこんな美人と知り合いなのかい?」


「お前の趣味悪ぃな。試験にいた別パーティーの同伴者だった女だ。知り合いでも何でもねぇよ」



 グレッダの問いに、アルマーニは分かりやすく顔を歪めて悪態をつく。


 リーナも残念そうな表情で呆れて見せるが、後ろから来た女性に対してすぐに笑顔を見せた。



「まあ、見知った連中で良かったじゃない。ね?」


「あはは、はい」



 連れに話し掛けるリーナに対して答えた女性を見て、アルマーニは驚愕した。



「なっ、ソルシェ、何でお前が……!?」



 思わず立ち上がったアルマーニに、いつもと変わらない様子のソルシェが、困った表情で小首を傾げて見せた。



「その、リーナさんに誘われて……」


「脅しの間違いじゃねぇか?」


「ちょっと? 酷いじゃない?」



 心配するアルマーニに、リーナが眉間にしわを寄せて怒りを露わにするが、綺麗に無視を決める。



「オレも、いる」



 遅れて合流してきたのは、頭に包帯を巻いた大盾持ちのゼスであった。



「思ってたより楽に攻略出来るんじゃないか。良かったねアルマーニ」


「他人事みてぇに言うなよ」



 ようやく立ち上がり外套を直したグレッダは、ゼスやリーナに軽く挨拶を交わしていく。


 対して呆れるアルマーニは、口元を歪ませて溜め息をついた。



「皆さん、お待たせしました」



 受付の奥からやって来たのは、試験官を務めた受付男だ。鍵の束を持ち、早々と裏庭の方へ出ると、一度振り返って顔を強ばらせた。



「鍵を開けます。準備は宜しいですか」




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