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女王の華咲く日~新しい女王は六人の王配に愛されて華開く~  作者: リラックス夢土


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第97話 氷室への美雨からの赦し


「これが闇のお父様が亡くなった事件の真実と私が女王を目指す理由です」



 美雨は闇のお父様の事件のことと女王を目指すきっかけになった闇のお父様との約束の話を終えるとそっと小さく息を吐き出す。

 この事件のことを語る時は自分の「罪」を告白しているようでいつも緊張してしまう。



(氷室様はどう思ったかしら。私のことを子供ながら浅はかな行動をした人間だと思ったかも……)



 闇のお父様の事件の時に美雨は幼い子供だったのは事実。

 それでも自分がよく物事を考えず我儘を言ったせいであの事件は起こってしまった。


 周囲の誰もが美雨に「責任はない」と慰めてくれたが美雨自身はたとえ子供であったとしてもあの時の自分には「王女」としての責任があったのだと思っている。

 だから成長した現在は王女としても女王候補者のひとりとしてもその責任から美雨は逃げるつもりはない。


 自分は女王を目指す。そのためには六人の王配が必要。

 光主を愛していても光主だけを王配とするわけにはいかないのが美雨の立場。


 義務で王配を選ぶこともできるが美雨はそこに自分との「愛」を求めてしまう。

 そして今、自分の心に氷室に対して愛情が芽生えつつあるのを美雨は感じている。


 できれば氷室を水の王配に選びたい。

 しかし氷室に水の王配としての適性と力、なにより美雨を想ってくれる愛情がなければ氷室を水の王配には選べない。

 だからこそ氷室が美雨の犯した「罪」についてどう思ったかが気になってしまう。



「美雨の女王を目指す理由は分かりました。貴女はずっと苦しんでこられたのですね。それでもいつまでも悲しみに暮れることなく前を向き女王になることを目指す貴女は立派です……私の「罪」に比べれば当時幼かった美雨に責任も罪もありませんよ」



 氷室は静かな声で美雨に責任と罪はないと言ってくれたが氷室が口にした「私の罪」という言葉に美雨は戸惑いを覚えた。



(氷室様は何か「罪」を犯したことがあるの……? もしかしてそれが氷室様の中にある闇の正体かしら……?)



 美雨を見つめる氷室の瞳の奥の闇が濃くなっているように感じる。

 その瞳の闇を見て美雨は確信した。間違いなく氷室の心を蝕む闇は氷室が犯したという「罪」が関係しているのだ。



「氷室。氷室も何か「罪」を犯したことがあるのですか?」



 人の過去の傷を刺激するのにためらいはあったが今を逃せば氷室がその「罪」について語ってくれることはないだろうと美雨の直感が告げた。

 だからあえて美雨は氷室の心の中に踏み込むことを決めて勇気を出して尋ねてみる。


 どんな「罪」を氷室が犯していても氷室のことを自分が嫌うことはないと断言できる。

 しかしそれよりも美雨は氷室が抱える闇を消してあげたかった。たとえ完全に消すことは無理だったとしても少しでも氷室の闇が薄まることを心から願う。

 そのためにも氷室の「罪」を知らなければならない。



「私の罪は赦されない罪なのです。なぜなら私にはその「罪」を回避することのできる力が当時あったのにも関わらずその「罪」を犯してしまったからです。……でもそうですね。美雨が辛い経験を話してくれたのなら私の「罪」のお話もするべきでしょう。そうすれば私が水の王配になれない理由も理解していただけるでしょうから……」



(水の王配になれない理由だなんて……とりあえず氷室様の話を聞くのが先決ね)



 そして氷室が静かに過去に起こした「罪」について語り出したので美雨はそれに耳を傾けた。






 美雨に妹の美波の事件の話をすることは氷室も当時のことを思い出すので苦しいことだ。

 だが美雨は己の辛く苦しい経験を氷室に話して女王を目指す理由を教えてくれた。

 それならば自分は水の王配候補者のひとりとして美雨に正直に自分の「罪」を告白して自分がいかに水の王配に相応しくないかを知ってもらうべきだと氷室は判断した。


 自分が美波のことを語っていると美雨の美しく綺麗な瞳が驚きと悲しみに染まっていく。

 彼女は優しいからきっと氷室が体験した美波を喪った時の心に同調しているのだろう。



(ああ……美雨に悲しい想いをさせたいわけではないのに……)



 口では淡々と己の犯した罪を語りながらも頭の中では目の前にいる美雨のことが気にかかって仕方がない。

 罪を犯したのは自分であり美雨がそのことに対して悲しむことはないのだと伝えたくなるがとりあえず今は最後まで美波の事件のことを話すことが大切だ。


 それに氷室の罪を知れば美雨が氷室を水の王配に選ぶことはなくなる。

 妹ひとり護れなかった自分が女王になる美雨をそしてこの国の民を護る王配になることなどできないのだから。


 だがそれよりも危惧することがある。

 たとえ自分のことを美雨が愛してくれなくても美雨に嫌われるのは嫌だ。


 なぜか氷室には分かるのだ。

 美雨に嫌われたら自分は完全に壊れてしまうことが。


 なぜそう思うのかは分からない。

 もしかしたら自分は最後の望みを美雨に抱いているのかもしれない。

 同じような経験をした彼女なら自分をこの生き地獄から救ってくれるのではないかと。


 美波を亡くしても氷室は自分の命を絶つことができなかった。

 別に死ぬのが怖かったわけではない。

 命を絶つことで己が犯した責任と罪から逃げたくなかったからだ。いや、逃げるべきではないと強く思ったのだ。


 それでも「罪」を背負って生きるのは辛いことだった。

 だから絶対にありえないと思っていても心が救いを赦しを求め、いつの日か自分を救い赦してくれる存在が現れることを渇望してしまう。



「これが私の犯した「罪」の全てです。私には船長として乗務員の、美波の命を救う責任がありました。船では船長が全ての判断をして責任を負います。そして私は判断を誤り美波の命を奪ってしまいました。私の責任と罪が消えることはないのです。このように妹ひとり護れない者にこの国の民をそして次代の女王を護る資格はありません」



 氷室が語り終えると美雨はジッと氷室を見つめていた。

 その深い海の色の瞳には様々な感情が浮かんでいるように思える。



(彼女も……私に責任や罪はないと言うだろうか。美波の死は防ぎようのない事故だったと……たとえそう言われても私は自分に責任も罪もないとは思いませんが……)



「そんな悲しいことがあったのですね。確かに氷室には船長としての責任と罪があると思います」


「……っ!」



 氷室に責任と罪があると言う美雨の言葉に氷室は息を呑んだ。



「美雨は……私に責任と罪があると……?」


「はい。船の中で船長が全ての判断と責任を負うというなら氷室には事故を防ぐことのできなかった判断の誤りがあったのだと私は思います。でも私は氷室のことを赦します」


「私を赦すというのですか……?」


「ええ。氷室が自分の責任と罪から逃げることなくそれを償おうとする気持ちがあるだけで貴方は赦される者だと思います。本当に赦されない者というのは自分の罪を認めない者たちです。自分の罪を認めている氷室は赦される者だと私は思います」


「私が…赦される者……ですか……?」


「はい。自分の罪を忘れろとは言いません。ですがその上で私は言わせてもらいます。私は氷室の責任と罪を認めた上で貴方を赦します」



 その言葉を聞いた瞬間、氷室の空色の瞳から涙が流れ落ちた。



(我知らず気付きました……私は自分の責任と罪を認めてもらいたかったんですね……その上で「赦し」を得たかった……やはり彼女は、美雨は私に「救い」を与えてくれた……)



 己が望んでいたのは己の罪を認めた上での赦し。

 周囲が「氷室の責任ではない」「氷室に罪はない」と言う度に自分だけは罪を忘れてはいけないと思っていた。


 罪を忘れたら美波のことも忘れてしまう気がしたから。

 罪がないと認めてしまったら美波が最初から存在しなかったように感じてしまうから。


 けれど美雨は罪を忘れなくていいと言ってくれた。美波のことを忘れなくていいと。

 罪があると認めながら氷室を赦すと言う言葉が凍り付いた氷室の心を溶かしていく。


 自分はこの言葉こそ望んでいたのだ。


 流れ落ちる涙を抑えられない氷室は手で顔を隠しその場に崩れ落ちるように身を屈めてしまった。

 すると美雨がそっと近付き氷室の頭を優しく抱き締める。



(彼女に抱かれるととても温かい…もし彼女の水の王配になればこの温もりをずっと味わえるのでしょうか……)



 氷室はこの温もりをいつまでも失いたくなくてそんな想いを抱いた。

 美雨の与えてくれる温もりは氷室が求めていた「癒し」そのものだ。

 そして温かい美雨の胸の中で氷室は震える声で美雨に問う。



「私に……水の王配になる資格は…ありますか……?」


「氷室の努力しだいで水の王配にも水の族長にもなれると思います。氷室の心の願う通りに生きることが美波様への弔いにもなるのではないでしょうか」



(私の心が願うこと……それが美波への弔いにもなるというのなら……私は……美雨が欲しいです……私に赦しを与えてくれた貴女だけが……貴女だけが欲しい……他のモノなど必要ありません……)



 美雨を手に入れるためなら新たな「罪」を犯してもかまわない。

 きっと彼女はその新たな「罪」も受け入れて赦してくれるだろうから。


 美雨の胸に抱かれながら氷室は僅かに口元に冷たい笑みを浮かべるが美雨がそれに気付くことはない。

 慰めるように優しい美雨の手が氷室の頭を撫で続ける。



(貴女のためなら私は何でもしましょう……私の……女王陛下……)



 氷室はジャラリと己の身も心も縛る「女王の愛の鎖」の音が聞こえたような気がした。

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