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女王の華咲く日~新しい女王は六人の王配に愛されて華開く~  作者: リラックス夢土


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第92話 海羽からの仕事の依頼

 氷室は使用人から海羽が呼んでいると聞いて海羽の部屋へやって来た。

 扉をノックして自分の名前を名乗ると海羽の声で入室許可が聞こえる。


 部屋に入ると海羽は執務机に座って仕事中だったようだ。

 氷室の姿を見て書類にサインする作業を中断する。


「急に呼び出してすまないがお前にひとつ仕事をしてもらいたい」


(またですか。今度は何を押し付けられることやら。私は美雨様に近付く方法を考えるのに忙しいというのに)


 いつも海羽からの呼び出しは突然で依頼される仕事も基本的に拒否することはできない。

 族長の身内は水族の民のために働くのが当たり前だと考えている海羽には自分の息子たちの都合などおかまいなしだ。

 海羽に逆らっても時間の無駄であることをよく知っている氷室は小さく溜め息を吐きながらも仕事の内容を確認することにした。


「それで仕事の内容は何ですか?」


「美雨様を連れて海芳丸に行って来い」


「は?」


 簡潔過ぎる海羽の言葉の意味が氷室は一瞬理解できなかった。

 美雨と海芳丸に何の関係があるのだろうか。


「父上。できればなぜ美雨様を連れて海芳丸に行かないといけないのか教えていただけませんか?」


 本当なら「きちんと理由を説明しろ」と怒鳴ってやってもいいくらいだが氷室は辛抱強く海羽に尋ねる。


「お前にしては察しが悪いな。美雨様が海賊討伐に興味を示されてな。一度、戦艦を視察したいそうだ。だから美雨様に海芳丸に乗船する許可を出したのだ。だが私は仕事で今日は忙しい。他に海芳丸のことを案内できる者は海人かお前しかいないだろう? 美雨様に案内人は海人と氷室とどちらがいいか聞いたらお前を指名してきたんだ。だから美雨様を連れて海芳丸に行って来いと言ったのに分からなかったのか?」


「分かるわけないでしょう」


 先程の海羽の言葉だけでこの内容を理解しろというのはさすがに頭の良い氷室でも無理だ。

 氷室から冷たく返答されても海羽は気にする様子はなく用事は済んだとばかりに書類にサインをする作業を再開してしまう。


(父上のこういう態度はいつものことですが相変わらず頭にきますね。ですが美雨様に近付く理由ができたので今回は文句を言うのはやめておきましょうか)


 一を言ったら十を理解しろという海羽の態度は身内に限定されて発揮される。

 民に対しては優しく相手が理解できるまで説明する手間を惜しまないクセに身内には必要最低限の言葉しか使わない。


 それで理解できないと「お前は無能か」と罵るのだ。

 特に水連などは海羽と会話する度に無能扱いされてしまう。

 そのため水連は陰で海羽の悪口を言う始末だ。


(水連が族長ではなく王配の地位を狙うのも父上の仕打ちに我慢ができないからでしょうね。だからといって水連の性格も性悪なので王配に推薦はできませんが)


 光主の謎の霊力の件がなければ氷室は当初考えていた通りに美雨に海道を推薦していただろう。

 だが現状ではそれもできない。


 あの霊力の正体が分からないまま海道を水の王配にしてしまったらあの光主という男は海道を事故に見せかけて殺すに違いない。  

 光主が持つ霊力はそれほどまでに強いものだ。


(そうだ。父上は本当に光主の中のアレの存在に気付かなかったのでしょうか? ちょうどいいから確認してみますか)


「父上。お尋ねしたいことがあるのですが」


「なんだ?」


「美雨様の光の王配について父上はどう思われましたか?」


 氷室はあえて光主の中に霊力の塊があることを聞かないで遠回しに海羽に尋ねる。

 海羽があの霊力に気付いているかいないかで氷室も今後の対応を決めなければならない。


「性格にクセがある一筋縄ではいかない男だな。だが氷雨女王の王配も曲者揃いだからな。王配になるにはあれぐらいの性格じゃないとなれないのかもしれん。まるでお前と会話しているようだったぞ」


 光主と同列に扱われた氷室は内心ムッとする。


(あんな男と私が同じ性格なんて反吐がでますよ。でも父上は霊力について言及しませんでしたね)


「光の王配としての能力についてはどう思いますか?」


「ん? 霊力の強さのことか? 霊力を完璧に制御しているのか特に何も感じなかったが光族の族長の息子なんだからそれなりの霊力はあるんだろうな」


(…っ! やはり父上は気付いていない……今のところアレに気付いたのは私だけですか)


 族長の海羽が気付かないなら海人たちも気付いていないはずだ。

 ここでアレのことを海羽に話すこともできるがそれでは氷室が持つ霊力の強さのことも話さなくてはならなくなる。

 それはできない。


(仕方ないですね。この件は私だけで対処しましょう)


「確かにそれなりに霊力は強いでしょうね。では私は美雨様を連れて海芳丸まで行ってきます」


「ああ。ついでに水の王配として自分を売り込みたければ売り込めばいい」


(売り込むわけないでしょう! 私は神官になるつもりなんですから!)


 水族にとって重要な案件である水の王配になるために自分を売り込めと軽い口調で言ってくる海羽に氷室は心の中で毒づく。

 海羽も氷室の気持ちを知っているから真剣に氷室を水の王配にする気がないのかもしれないが。


 気を取り直して氷室は美雨のことを考える。

 女王候補者として戦艦の視察を申し出るとはさすが女王候補の有力者というべきか。


 水族のことを理解するには海と水族の関係を知ることが大切だ。

 そして海に出るには船が必要不可欠。

 それ故に水族の男は船を操縦できるようになって一人前とされる。


(美雨様は水族のことを知りたいようですね。お飾りの王女でないことは好ましいことです。馬鹿な女は最悪ですからね。では美雨様と二人になれる機会を有効に使わせていただきましょう)


 氷室は海羽の部屋を出て美雨と出かける準備をして美雨の部屋に向かう。

 扉の前には美雨の護衛と思われる男がいた。


(ずいぶんと厳重な警備ですね。ここは水の族長の屋敷内だというのに……)


「すみませんが美雨様にお会いしたいのですが通していただけますでしょうか」


「失礼ですがどちら様でしょうか?」


「私は水の王配候補者のひとりである氷室と申します。美雨様を連れて海芳丸に行くように族長に言われたので美雨様を迎えに来ました」


「そうでしたか。失礼しました。少しお待ちください」


 護衛の男は部屋の中に声をかけて美雨に入室許可を取ってくれる。

 扉が開かれたので氷室が中に入るとソファに美雨と光主が座っていた。


 光主の視線と氷室の視線がぶつかる。

 お互いがお互いを警戒しているのが見る者が見れば分かるような鋭い視線だ。


(堂々と美雨様の部屋で昼間からイチャつくとは腹立たしい男ですね……)


 不快感に襲われる氷室の耳に澄んだ美しい声が響く。


「氷室様!」


 声の主はもちろん美雨だ。

 美雨の顔に視線を移動させると氷室の不快感が幻のように消えてしまう。


(おかしいですね。美雨様を見たら不快感が消えました……なぜでしょうか……?)

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