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女王の華咲く日~新しい女王は六人の王配に愛されて華開く~  作者: リラックス夢土


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第87話 水の王配候補者たち 2

「私は普段海龍神殿で神官見習いとして働いています。時々、族長の手伝いもしますが。美雨様とは仲良くさせていただきたく思います」


 笑顔を崩すことなく自己紹介を続ける氷室に美雨は自分が感じた想いに一度蓋をすることにした。

 なぜ悲しい瞳をしているのかとても気になるがこの場でそれを訊くのは憚られる。


(えっと、氷室様は海龍神殿の神官見習いの方なのね。そういえば水族の部族の神は海龍神だって習ったわ)


「海龍神殿は海龍神を祀っている場所ですか?」


「はい。海龍神は水族の神ですので」


「どのような神様なのですか?」


「海に住んでいて姿は龍で豊漁と船の航海の安全を護ってくれる神ですが、怒らせればその強大な力で船を沈めてしまうとも言われています。なので海龍神殿で海龍神を祀り海龍神の怒りに触れないように祈るのです」


 神というモノには二面性があることは美雨も学習している。

 富や繁栄をもたらしてくれる神であってもその怒りに触れれば強大な力で人間に災いを起こす存在にもなりえるモノが神であると。


(海龍神もその二面性を持っている神様なのね。水族の神だというなら機会があればもっと海龍神の話を聞きたいわ)


 水族が信仰している神を知ることは水族のことを知ることにもなる。

 氷室が海龍神殿の神官見習いだと言うなら他の者より詳しく海龍神の話が聞けるだろう。


「時間がある時に海龍神のことをもっと教えてくださると嬉しいのですがよろしいですか?」


「ええ、もちろんです。美雨様とお話できることを楽しみにしています。これからよろしくお願いいたします」


 笑みを湛えたまま氷室は美雨の願いを了承してくれる。

 しかしやはりその瞳には僅かな闇を感じた。


(できれば氷室様がなぜ悲しい瞳をしているのかも聞いてみたいけど、もしそれで氷室様が悲しい出来事を思い出すことになってしまってもいけないわよね)


 人には誰にでも聞かれたくないことがある。

 それが悲しい過去の話であればなおさらだ。


 美雨だって今でも闇のお父様のことが話題になると心にチクリと痛みが走る。

 昔よりは普通に闇のお父様のことを話せるようになってはいるがそれでも完全に何も感じずに話せるわけではない。


(氷室様は気難しい方だと言っていたし、お話する時には気をつけないといけないかもしれないわね。でも氷室様が何かに苦しんでいるならそれをお助けしたいわ)


 なぜそう思うのか美雨自身もよく分からないが美雨の直感が告げるのだ。

 この氷室という人物をこのままにしておいてはいけないと。


「美雨様、初めまして。私は族長の三男の水連すいれんと申します。現在19歳です。趣味はおいしい物を食べることなのでぜひ美雨様と一緒においしいお店に行きたいです」


 氷室に気を取られていた美雨は慌てて水連と名乗った人物に視線を移す。

 水連はクセの強い髪質のようで氷室のサラリとした銀髪ではなくツンと尖ったような髪型をしている。


 明るい口調で話す水連だがどこか軽すぎる印象を受けた。

 美雨に対して敬語を使ってはいるが使い慣れていないのが分かる話し方だ。


 礼儀正しさが身に付いてる氷室とは対照的な男だと言えるだろう。

 まだ若いからという理由もあるかもしれないが美雨はそれだけが理由ではないように感じた。


「水連様。私もおいしい物は好きです。水連様は料理のおいしいお店をたくさん知っておられるのですか?」


「うん。よく女の子たちと行くので女の子が好むお店は分かります。だから美雨様もきっと気に入ると思いますよ」


 悪気も無くそう話す水連に美雨は一瞬唖然となってしまう。

 未来の妻になるかもしれない女性の前で他の女性の存在を当たり前のように話すとは水連の普段の行動が見えるようだ。


 美雨だって王配候補者が過去に付き合った女性がいたとしても不思議ではないとは思うがだからといってその女性と女王候補者を同列に扱うのはどうなのだろうか。

 美雨にもその女性にも失礼ではないか。


(水連様はきっと女性にモテるから女性と食事することが多いのね。水連様は女性関係にだらしない方なのかしら)


 自分自身が複数の王配を持つ女王を目指していても自分の王配には自分だけを愛して欲しいと美雨は願ってしまう。


(そう思う私は傲慢なのかな。でも光主様が私以外の女性に愛を囁くのを見るのは嫌なのよね)


 女王は複数の男性を愛するのに王配には女王だけを愛することを望むのはいけないことなのか。

 美雨にはまだその答えが出ない。


 ただ言えることは美雨自身は自分の王配たちが他の女性に愛を囁く姿を見たくないと思っている。

 それが傲慢だと言われても嫌なものは嫌なのだ。


「では美雨様と一緒に行くお店を決めておきますので美雨様も楽しみにしていてください」


「え、ええ、よろしくお願いします」


 水連の勢いに負けて美雨はそう返事をしてしまった。

 するとその隣りに座っていた男性が口を開く。


「私は海道みどうと申します。族長の甥で現在24歳です。普段は主に海運地図を作製しています」


 海道は落ち着いた印象を受ける男性だ。

 見た目は人の目を引くようなところはないが誠実そうに見える。


「海運地図というのは何でしょうか?」


「一言でいえば航海に必要な地図です。どこに浅瀬があるとか海流の流れなどを記した地図です」


「それは大事なモノですね。私も一度見てみたいです」


「美雨様が望むのでしたらいつでも作業所にご案内します。ただ作業所は散らかっているのでそこはご容赦願いたいのですが」


「はい。私はそういうことは気にしませんのでよろしくお願いします」


 美雨がそう返事をすると海道は穏やかな笑みを浮かべる。


(海道様は穏やかな性格の方に思えるわね。海人様の言葉ではないけれど海道様も頼れるお兄様という感じだわ)


 海道に対して胸が高鳴ったりはしないがもし海道を王配に選んだらきっと穏やかな関係が築けるだろう。

 そういう理由で王配を選んだ場合に一緒に過ごしていれば海道に対して光主を愛するような感情が生まれるかは美雨には分からない。


(光主様と同じ胸の高鳴りを感じるのは氷室様なのよねえ……)


 チラリと氷室に視線を戻せば氷室は笑みを消し何かを考えているようだ。

 その顔が美しい氷の彫刻を思わせて美雨の身体にブルリと身震いが走る。


(氷室様の美しさは笑顔でなくても損なわれないのね。でも笑みがなくなると氷室様の闇が濃くなるみたい……)


 氷室が無表情であっても怖いとは思わないがむしろその分氷室が闇に呑み込まれてしまうのではないかと危機感を覚える。

 氷室の中にある闇とはいったい何なのだろうかと美雨は考えてしまう。


「最後は私ですね。美雨様。私は真海まさみと申します。族長の甥で海道の弟です。現在18歳です。普段は市場の管理の手伝いをしています」


 真海はこの中で一番若いらしい。

 だが水連のような軽い印象は受けない。真面目な性格が顔に出ているような男性だ。


「市場というのは魚の市場ですか?」


「はい。魚や貝などの海で採れた物を売買する市場です。水族の市場には毎日大量の魚が並びますよ」


(市場は民の生活に直結する場所よね。ぜひ一度見学したいわ)


「市場には私も興味があります。私も見学に行ってもいいですか?」


「もちろんです。その時はご案内いたします」


 真海は美雨の願いを承諾してくれる。


「ではこれで自己紹介も終わりましたし今日からは王配候補者たちと個別に接していただいてけっこうです。では昼食の時間もありますので美雨様は一度お部屋へお戻りください」


「はい」


 海羽に促されて美雨は部屋を出る。


(ふう、とりあえず水の王配候補者たちの方との顔合わせは終わったけど……この中のひとりを選べるかしら。でもあの方のことは気になるのよね……)


 美雨の脳裏にはにこやかな美しい笑顔に隠された闇を持つ氷室の姿が浮かんでいた。



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