第59話 雷神降ろしの儀式の立ち合い
「光主、雷神と言ったら貴方の背中に傷をつけた神ですよね? その神の加護を受けるなんて危険過ぎるのではないですか?」
昔、月天が行った「雷神降ろしの儀式」に巻き込まれて光主は背中に傷を負ったと話してくれた。
その話を聞けば雷神というのが荒ぶる神だということが容易く想像できてしまう。
もう一度「雷神降ろしの儀式」で雷神に襲われることがあったら今度こそ光主は死んでしまうかもしれない。
その恐怖に美雨は自分の胸がギュッと苦しくなる。
(光主様を失うなんて耐えられない)
ようやく光主を光の王配として選ぶ決意を固めたばかりなのにもし光主を失うことがあれば自分はどうすればいいのか。
初めて心から好きな人ができたというのにその人を失うなど美雨は受け入れられない。
そんな不安が顔に現れていたのか光主は美雨の髪を撫でながら安心させるように説明する。
「心配するな、美雨。月天が雷神降ろしの儀式に失敗したのは十分な霊力を持たない上に時期を選ばず強引に術を行ったせいだ。ちゃんと手順を踏めば雷神降ろしの儀式を成功させることは可能だ」
「儀式を行うのに最適な時期があるのですか?」
「ああ。雷神降ろしの儀式は嵐の日でなければ成功しない。雷神は嵐の日にもっとも力が強くなるらしい。その時の雷神に勝ってこそ雷神の加護を受けられると言われている」
「雷神の力が強まるというならもし失敗したら前回よりも酷いケガを負うことになりませんか? いえ、ケガだけでは済まないかも……」
美雨がそう問い詰めると光主は僅かに困った表情をした。
その表情を見て美雨は自分の考えが正しいことを理解する。
(やはり雷神降ろしの儀式は命懸けの儀式なのだわ。そんな危険なことして欲しくない。でも……)
美雨はなぜ光主が月神ではなくさらに危険な雷神の加護を受けると決意したのかを考えた。
光主は誰よりも光の王配に相応しい力を手に入れたいと言っていたはずだ。
もし光主が雷神の力を手に入れたら光の王配として光主以上に相応しい人物はいないと言ってもいい。
そしてそれはこの華天国にとっても利益になることだ。
強い力を持つ王配は国の為に必要不可欠な存在。
おそらく守護結界を張る時にもその力が必要になるだろう。
美雨が女王を目指すなら婚約する王配候補者たちが強い力を持っていた方が良いに決まっている。
光主が雷神の加護を得たいと願うのは美雨を女王にするためだと考えるのが自然だ。
「光主は私のために雷神の力を得たいのですか?」
「……そうだ。俺は美雨を女王にする。そのために光族で最強の力を持つ人間になりたいんだ。そうすれば美雨を他の光族の男に奪われることもなくなるしな」
独占欲を隠そうともしない光主の金の瞳には揺るがない想いが浮かんでいる。
もし美雨が雷神降ろしの儀式をしなくてもいいと頼んでもきっと光主は受け入れないだろう。
それに美雨にもこの国の女王になるという目標がある。
女王になる以上この国に相応しい王配を選ぶ義務が生じる。
そして力ある王配を選ぶのも重要だがもうひとつ王配として選ぶためには重要な要件があったのを思い出す。
「私が女王になるためには各部族から王配を選ばなくてはなりません。私に他の部族の王配がいても光主は私の光の王配でいてくれますか?」
これは美雨がもっとも懸念していることの一つだった。
他の王配の存在を受け入れてくれない人物では王配に選ぶことはできない。
光主の時々見せる独占欲のようなものを美雨は感じていたからこそここはきちんと確認しておかなければならないところだ。
「もちろんだ。美雨が他の部族から王配を選ぶのは女王として当たり前のことだしその王配たちのことを美雨が俺を想うくらい愛したとしても俺が美雨を愛することは変わらないと誓う」
「光主……」
自分が他の部族の王配候補者を光主と同じくらい愛せるかは未知数だ。
もしかしたら他の部族の王配候補者とも美雨は恋をするかもしれない。
けれどそれを受け入れてくれるという光主の懐の深さに感謝したい気分になる。
「だが美雨の光の王配の座は誰にも譲るつもりはない。だから俺は雷神の力を手に入れる」
「……それなら私もその雷神降ろしの儀式に立ち会わせてください」
「なんだと?」
「光主が光の王配になるために行う儀式なら私は女王を目指す者としてその儀式を見届ける義務があります」
(それに私が近くにいれば光主様がケガをした時に治療できるはず)
たとえ「雷神降ろしの儀式」が失敗しても美雨は光主の命が助かればいい。
雷神に襲われれば酷い傷を負うことは分かっているからその時に美雨が側にいればすぐに癒しの力を使うことができる。
美雨がそう決意して光主の顔を真剣な表情で見つめると光主は小さく溜め息を吐く。
「ダメだと言ったところで美雨は強引にでも儀式に割り込んで来そうだな。それなら最初から保護の魔法陣で美雨を守っていた方が良さそうだ。分かった。美雨の立ち合いを認めてやる。その代わり保護の魔法陣からは絶対出ないと約束してくれ」
「はい。分かりました」
(これで光主様を一人で危険に晒さずに済むわ。でもこのことは野乃たちには黙っておいた方が良さそうね)
野乃たちにバレたら絶対に美雨を危険から遠ざけようとするに違いない。
保護の魔法陣があっても雷神と対峙することになるのだから。
「この儀式のことは野乃たちには黙っておきますね」
「その方がいい。それに他の光族の者にも言わないでくれ。邪魔が入ると困る」
「分かりました。でも絶対に一人で儀式を行わないと約束してください」
「ああ。約束する。美雨との約束は破らない。これはその証だ」
光主の顔が美雨に近付き美雨の額に光主が軽くチュッと口づけをした。
突然のことで美雨は固まってしまったが額に口づけされた事実に気付くと羞恥心で顔が真っ赤になってしまう。
「な、なにを……?」
「約束の証さ。雷神の力を手に入れて正式に美雨の光の王配になったら今度はここに口づけをさせてもらうからな」
美雨の唇に光主の指が触れる。
その時のことを想像して美雨は自分の鼓動が速まるのを感じた。




