第57話 蜂の部屋のガラスを割った犯人
棒型の武器はただ強い霊力が込められているだけでなくそのことをうまく隠すように作られている。
強い霊力を持つ光主だからこの武器に霊力が込められていることが分かるが目の前の作業長はそのことに気付いていないようだ。
「こんな武器でガラスが割れるとは思えませんが他に原因になる物が見当たらなくて……」
作業長は首を捻る。
確かに霊力さえ込められていなければガラスは割れなかっただろう。
「強度の強いガラスでも絶対に割れないというモノではないからな。たまたまこれを使用した奴の運が良かったんだろ」
この武器に霊力が込められていることを光主は作業長に黙っていることにした。
無駄に作業長を怖がらせることはない。
それにこの武器に込められた霊力を隠している方法はかなり高度な技術だ。
この武器を作った者は相当の霊力と知識を持っていると推測できる。
「しかしそれでは故意に誰かがガラスを割ったことになります。作業員にそんなことをする者はいないはずです。皆、この蜂の怖さは知っているし蜂を逃がしたら蜂蜜酒の製造ができなくなることは分かっているのですから」
作業長の言う通りここの作業員が犯人だという説は低いだろう。
だがこの作業所にはここで働く作業員以外に蜂蜜酒の製造のために必要な物資を運ぶ商人たちがいる。
その中の使用人にでも紛れてしまえば作業所に侵入することは簡単だ。
「物資を運ぶ商人たちがいるだろう。その中の使用人に不審者がいたかもしれない」
「あ! その可能性がありましたね! すぐに出入りの商人たちを調べてみます」
「ああ、頼む」
作業長は頭を下げるとその場から去る。
(だが今から捜索しても無駄だろうな。もし闇族が犯人なら奴らは暗殺業の本職だ。とっくに逃げた後だろう)
闇族は戦闘民族と言われるぐらい戦闘に長けた一族だ。
この国が他国と戦をする時は真っ先に戦場に赴くのが彼らだ。
しかし華天国は常に戦をしている訳ではない。
現に守護結界が弱まっている今もまだ他国との戦には発展していない。
このまま守護結界が弱まってしまえばこの先は分からないが。
だからといって国内には闇族の戦闘能力を必要とする者がいない訳ではない。
自分の商売敵を暗殺したり盗賊を撃退するのに闇族の者に仕事を依頼する者たちだ。
闇族のそういった仕事を女王が止めないのはそれも闇族という一族の生き方として認めているからだと聞いたことがある。
それにいざ他国との戦になったら闇族の力無くして戦に勝つのは難しい。
光主はもう一度自分の手にある棒型の武器を見つめる。
込められた霊力には禍々しいモノを感じた。
(闇族が犯人だと決めつけるのはまだ早い。この武器を使えばどの部族の民でもガラスを割ることができるはずだ)
そもそも光族の民が働く作業所に闇族の者が出入りすればそれだけで目立ってしまう。
闇族の特徴は黒髪に黒い瞳なのだから。
そう考えると実行犯は光族の民の者かもしれない。
だがそれではさらに犯人の特定は難しい。
(犯人の目的は何だ? この作業所を潰すため? いや、それならこんな強い霊力を持つ武器を用意するのは大袈裟過ぎる気がする)
間違いなくこの武器に霊力を込めた人物はかなり強い霊力を持っているはずだ。
それこそ光族で言うなら族長の身内と同等なほどの。
そんな人物が蜂蜜酒の作業所を潰すだけのためにこの武器を手渡すだろうか。
ある意味自分の証拠を残すことになるのに。
霊力には個人を表す特徴があるのが普通だ。
この武器から感じる霊力を持つ者に光主は心当たりがない。
少なくとも光主の周囲の者が犯人ではないということだ。
そこで光主の脳裏に美雨の顔が浮かぶ。
(もしかして美雨を狙ったのか? 蜂が美雨を襲うようにガラスを割って蜂を部屋の外に逃がすのが目的だったとか)
美雨は女王候補の有力者だ。美雨を邪魔に思う輩がいてもおかしくはない。
しかしそれならわざわざ蜂を逃がして美雨が刺されるようにするという不確かな方法ではなくこの武器で美雨自身の命を狙えば良かったのではないか。
そんな遠回りな方法で美雨を排除しようとする理由。
光主はそこである可能性に気付く。
(美雨を排除したいがあくまで事故に見せかけたいということか。ということは犯人は美雨が死んだ時に自分が疑われる可能性のある人物だということだ)
それが誰なのか今の段階では光主が知る術はない。
次代の女王を選ぶために美雨たちが行っている王配選びの旅には無数に関係者が存在する。
その中から犯人を見つけ出すのは容易なことではない。
「だからと言って美雨を簡単に殺せると思うなよ。その前に俺が八つ裂きにしてやるからな」
光主から美雨を奪う者など許すつもりはない。
美雨が女王になることを邪魔する者などこの世から消すだけだ。
光主の金の瞳に剣呑な光が浮かんでいた。




