第52話 蜂蜜酒の作り方
「今日はどこに行くんですか? 光主」
次の朝、部屋に迎えに来てくれた光主と共に太陽神殿の厩に向かう途中で美雨はそう光主に尋ねる。
光族の民の暮らしを見せてくれると約束をしたが具体的にどこに行くのかはまだ聞いていない。
「都から少し行った所に光族の特産品でもある「蜂蜜酒」を作る作業場がある。今日はそこに行く予定だ」
「蜂蜜酒……ですか?」
「美雨は蜂蜜酒を知らないか? 蜂蜜を混ぜて作る酒なんだが色は仄かに黄金色で甘くて飲みやすいから女性にも人気がある酒だ」
(黄金色の甘いお酒……? そういえば光のお父様が好んで飲んでいたわ)
美雨は自分の記憶にあるお酒の存在を思い出した。
現在の光の王配の空也は見た目からは想像できないほどの酒豪だった。
特に好んで飲んでいたお酒は黄金色の綺麗な色をしたお酒で昔美雨がそれをお酒だと知らず「綺麗なお水」を自分も飲みたいと駄々をこねて空也を困らせたことがある。
確かそのお酒の名前が「蜂蜜酒」だったはずだ。
「蜂蜜酒は光のお父様が好んで飲んでいました。光族の特産品だったんですね。知りませんでした」
「蜂蜜酒が特産品として流通し始めたのは最近だ。少し前までは希少品だったから王配ぐらいしか手に入れられなかっただろうな。蜂蜜酒は光族の土地でしか作ることができないから美雨もこういう機会じゃないと見学できないと思ってな」
(光族の土地でしか作ることができないならぜひ見ておきたいわ。次にいつまた光族の土地に来れるか分からないもの)
女王候補者の王女として育った美雨が王都の外に出たのはこの王配選びの旅が初めて。
そして王配選びの旅が終了して無事に女王になれたら再び王都の外に出ることは難しい。
誰よりも何よりもこの国の女王は危険から護られる存在。
それ故に女王に即位した後は基本的に王宮で暮らすことになる。
そんな自分の立場だからこそ各部族の様子はこの機会に知っておきたい。
王配選びの旅はこの国を自分の目で見られる絶好の機会でもあるのだ。
「そうですね。この土地でしか作れないお酒には私も興味があります」
そう答えたところで厩に着き先日と同じように光主の愛馬であるバロンに乗せてもらう。
美雨の後ろには当然光主が乗るのだがやはり馬上では二人の身体が密着するのは避けられない。
「しっかりつかまっていろよ、美雨」
光主は美雨が落馬しないように自分の身体に引き寄せる。
たくましい光主の身体を間近に感じて美雨の心臓はドキドキと高鳴るが先日光延に手を握られたような不快感は一切感じない。
(男の人に触れられても光主様の時は光延様の時みたいに嫌な気分にならないわ。それは光主様だから……?)
疑問が美雨の頭を掠めた瞬間、勢いよくバロンが走り出す。
美雨はギュッと光主の衣服につかまり落馬しないように気を付ける。
バロンは光の都を駆け抜けて行く。
しばらく走るとバロンは光の都の外に出た。
するとすぐに大きな木造の建物が見えてくる。
光主はその建物の前で馬を止めた。
「ここが蜂蜜酒の作業場だ」
美雨は光主の手を借りて馬から降りてその建物と周辺を見渡す。
建物は横に長く建てられており周辺では多くの光族の人々が作業をしていた。
すると建物の入り口近くにいた男性が美雨たちに気付いたようで足早に近付いてくる。
「これは光主様。今日はどうしてここへ? まだ花は元気ですが」
「忙しいところすまないな、作業長。実はこちらの女性は商人の関係者でな。今度蜂蜜酒を商品として扱いたいと相談されたからまずは実物を見てもらおうと思って連れて来たんだ。悪いが見学させてくれるか?」
光主は作業長に美雨を商人関係者だと紹介した。
ここで美雨が王女だというと大騒ぎになるだろうから美雨も光主の言葉に口裏を合わせることにする。
「こんにちは。作業長さん。私の両親は商人なんです。本来なら両親が見学させていただきたかったのですが仕事で忙しくてここに来れないので代わりに私が見学させてもらっていいですか?」
「もちろんです。ここで製造される蜂蜜酒は一級品ですからぜひ見学して行ってください」
ニコニコしながら作業長は答えた。
作業長に嘘を吐くのは申し訳なく思うが美雨の正体を知られるわけにはいかない。
「どうぞ。ご案内します」
「ありがとうございます」
美雨は光主と一緒に建物の中に入る。
そして建物の中にある一室の光景に美雨は目を奪われた。
部屋はガラスで囲われているのだがその中には黄金色の花畑がある。
その花畑の中を無数の拳ほどもある巨大な蜂の大群が飛び回りさらに人の背丈ぐらいはありそうな巨大な蜂の巣があったのだ。
(こんな大きな蜂は見たことないわ! それにこんな巨大な巣も!)
「これが蜂蜜酒の材料になる蜂蜜を作り出す光族の土地にしかいない特別な蜂だ。そしてこの黄金色の花もこの土地特有の花だ。この花の蜜をこの蜂が採取して特別な蜂蜜ができる。この二つがそろわないと蜂蜜酒はできない」
光主は巨大な蜂の迫力に圧倒されて声も出ない美雨に説明をしてくれる。
「そうなんです。昔は森にできていた自然の蜂の巣から蜜を採取していましたがそれだと効率が悪くて。それを光主様のおかげでこうやって蜂を飼うことができるようになって蜂蜜酒も安定的に作れるようになりました」
「光主様のおかげですか……?」
「ええ。この蜂が蜜を吸うこの黄金色の花はある一定量の光族の者が持つ霊力を養分とする花なんです。何もしなければこのような室内で栽培するとすぐに枯れてしまいますが光主様が定期的にご自分の霊力を花に与えてくれているのです。そのおかげで花は枯れることなく蜂も蜜を吸い続けられます。光主様ほどの霊力は普通の民にはありませんし蜂蜜酒を光族の特産品にしてくれた光主様には光族の皆が感謝しています」
(それって霊力を与える光主様がいなくなったら特産品の蜂蜜酒が作れなくなる可能性があるってこと……?)




