第49話 光延とのお茶会
午前中は月天と過ごし美雨は一度部屋に帰って来た。
一緒に読書をしたいと言われて誘われたはずだがまともに本を読むことなどできなかった。
それというのも図書室にいる間は月天から自分がいかに光の王配に相応しいかという話をずっと聞かされていたからだ。
傷跡のある光主を貶める発言をした月天を光の王配に選ぶことはないと決めた美雨だったがそれでも月天は王配候補者のひとり。
一応失礼があってはいけないだろうと思い美雨は強く反論することなく月天の話に適当に相槌を打ちながら聞いていたのだがさすがに疲労困憊だった。
(月天様って何であんなに自信家なのか不思議だわ。言ってることのほとんどが支離滅裂なのに)
月天や光族のことを深く知らない美雨でも月天の自慢話が全て本当だとは思えない。
それなのに午前中いっぱい途切れることなく自分の自慢話をしていた。
ある意味尊敬すらしてしまいそうだ。
「次は光延様とのお茶会だったわね」
ようやく月天から解放されても今日の午後は光延とのお茶会がある。
まだまだ気を休めるわけにはいかない。
美雨は光延と初めて顔を合わせた時のことを思い出していた。
初対面でありながら美雨の身体を舐めるような視線を送ってきた相手だ。
正直第一印象が良いとは言えない。
しかし第一印象だけで光延を王配には選びたくないというのも失礼な気がする。
気乗りはしないが光延とも一度きちんと話をするべきだろう。
そんなことを考えていると部屋の扉がノックされた。
野乃が対応に出ると光延が迎えに来たらしい。
「美雨様。お迎えに上がりました」
部屋に入って来た光延は笑顔で美雨に挨拶をするがその視線はやはり美雨の身体を舐めるように動いている。
一気に光延への不快感が増すがグッと美雨は我慢をして平静を装う。
「ありがとうございます。光延様」
「ではご案内します」
光延に続いて美雨は部屋を出る。
廊下を歩きながら美雨は光延に尋ねた。
「今日のお茶会はどこで行うのですか?」
「太陽神殿の中庭のひとつです。そこは上位神官しか立ち入れない中庭なので人は滅多に来ませんから美雨様と二人で話すにはちょうどいい場所です」
中庭とはいえ人が滅多に来ない所に光延のような人物と二人になることに美雨は抵抗感を感じるが今更お茶会をしたくないとは言えない。
それに光延だって王配候補者の一人だ。女王候補者に対して不埒な振る舞いなどすることはないだろう。
「こちらから中庭に入ります」
「はい」
中庭に続く入り口から美雨は中庭に入った。
美雨たちが歩く小道の両側には美しい花々が咲いている。
「綺麗な花ですね」
「ええ。でも美雨様の方がこの花たちより何倍も美しいですよ」
光延は美雨に誉め言葉を使ってくるがその口調が軽く感じられてしまうのは美雨の気のせいだろうか。
「ありがとうございます」
無難にお礼を言ったところで目の前に大きな東屋が見えてきた。
東屋の中にはお茶会の準備がされている。
「ここが本日のお茶会の場所です。席に座ってください」
「はい」
光延が一つの椅子を示したので美雨はそこに座った。
お茶の準備はできているがお茶を淹れてくれるような使用人がいない。
(誰がお茶を淹れるのかしら? まさか光延様がお茶を淹れるの?)
いつも侍女の野乃にお茶を用意してもらっている美雨は自分でお茶を淹れることができない。
使用人のいないお茶会など初めてだ。
「あの、光延様。お茶を淹れる使用人がいないようですが……」
「平気です。私が淹れるんで。せっかく美雨様と二人きりなのに使用人がいたら邪魔じゃないですか」
そう言うと光延は自分でお茶を淹れ始める。
だがその手つきは怪しい。とても普段からお茶を自分で淹れて飲んでいるような感じではない。
「どうぞ。美雨様」
「ありがとうございます」
なんとかカップにお茶を注ぎ終わり光延がそのカップを美雨に差し出した。
光延も自分のお茶を淹れて席に着いたのを確認してから美雨は光延からもらったお茶に口をつける。
「…っ!」
思わず顔をしかめたくなるぐらいの不味さだ。
このお茶を飲みながらの光延とのお茶会も美雨にとっては苦行になりそうな予感がする。
「どうですか? 味は?」
「え、ええ、とても美味しいですわ」
光延も同じものを飲んでいるはずなのに光延の表情は変わらない。
(光延様ってもしかして味オンチなのかしら。はぁ、これなら野乃について来てもらうんだったわ)
そんな後悔が美雨の頭を過ぎる。
すると光延が美雨にニコリと笑みを向けてきた。
「せっかく美雨様と二人きりですので率直に意見を申し上げます。光の王配には私を選んでください」
「えっ!」
驚く美雨に畳みかけるように光延は言葉を続ける。
「私が光の王配になることがこの国の為であり、また光族の為になるのです」
(光延様を光の王配に選ぶことがこの国と光族の為になるというの? それはどうして?)




