第43話 三人からのお誘い
「あいたたた…」
美雨は自室のベッドに横になっていた。
その美雨の足を侍女の野乃が強弱をつけて揉み解してくれている。
雷神の塔に自力で上ったもののそれだけで美雨の足は悲鳴を上げてしまい光主に担がれて塔を降りることになってしまった。
それどころか太陽神殿まで馬に乗せられて帰ってきたのはいいが光主はさらに美雨を部屋まで横抱きにして運んだのだ。
太陽神殿の廊下ですれ違う神官たちにその姿を見られて美雨は羞恥心で穴に入ってしまいたいと本気で思うぐらいだった。
力強くたくましい光主は三階へ上がる階段も美雨を横抱きにしたまま難なく上ってしまう。
部屋で待っていた野乃が美雨がケガでもしたのかと真っ青になり単なる足の疲労だと納得してもらうのにも苦労した。
光主が「ゆっくりお休みください」と言って退室して行ったのでこれ幸いと美雨は早めの入浴を済ませて今の状態に至る。
「美雨様の若さなら筋肉痛は明日には治りますが無理はしないでくださいね。美雨様のお身体は女王になる大切なお身体なんですから」
「分かっているけど…自分の体力の無さに自分で呆れてしまいそうよ…」
自己嫌悪に陥りそうになる美雨に野乃は僅かに笑う。
「仕方ないですわ。女王教育に塔を上るなんてなかったでしょうし。美雨様ができないことは王配の方がやってくれますから美雨様も王配の方を頼ることを覚えてくださいね。まあ、まだ王配候補者ではありますが光主様は礼儀正しい方なので美雨様を安心して預けられます」
(野乃には光主様が礼儀正しい方に思えるのね。確かにそれは間違いないけど光主様が自分のことを「俺」と呼ぶような粗野な部分があると分かったら野乃はどう思うかしら)
美雨自身はそんな粗野な部分を含めて光主に好意を抱いたが普通の民から見たら光主のそういう部分は王配として不適格だと思うのか気になるところだ。
「ねぇ、野乃。光主様は私といる時は自分のことを「俺」と呼ぶような粗野な部分もあるの。それでも野乃は光主様が光の王配に相応しいと思う?」
すると野乃は不思議そうな顔をする。
「別に公の場での立ち振る舞いがきちんとできるなら問題ないのではないでしょうか。今の氷雨女王陛下の王配の方々も女王陛下とお話する時はご自分のことを「俺」と言う方はいらっしゃいますし」
(そういえばそうね。お父様たちはお母様と一緒の時はそんな言葉遣いもしていたわ)
自分の父親たちのことを思い出し美雨は納得する。
「むしろそういう部分を光主様が美雨様に見せるのであればそれは光主様が美雨様にありのままの自分に好意を持って欲しいということなのではないでしょうか」
野乃から光主が美雨に好意を持って欲しいのではと言われて脳裏に光主から言われた愛の言葉が蘇る。
『俺は美雨を愛してる』
その時の光主の声が再び聞こえたような気がして美雨は顔が真っ赤になった。
「美雨様。お顔が赤いですが長湯し過ぎましたか?」
「ううん、平気よ。なんでもないわ!」
「そうですか。あぁ、そういえば美雨様が留守の間に他の王配候補者の方から伝言が来ておりまして」
「伝言?」
「はい。月天様からは一緒に光族の書物を読みませんかという伝言で光延様からはお茶会のお誘いの伝言で光拓様からは魚釣りに行きませんかという伝言です」
(月天様と光延様と光拓様からのお誘いか。他の王配候補者とも一度は話をするべきよね。でも誰のお誘いを受けようかしら)
美雨の身体はひとつなので三人の誘いを一度には受けられない。
空月からの誘いがないのも気になるがきっと何かで忙しくてまだ美雨の相手ができないのかもしれないので気にしないことにした。
(う~ん、月天様はちょっと苦手だから後回しにしようかな。光延様はお茶会で光拓様は魚釣りか。魚釣りは一度やりたかったことでもあるから明日は光拓様と魚釣りに出かけようっと)
「それじゃあ、順番にお誘いを受けることにするけど、明日は光拓様と魚釣りに行くことにするわ」
「承知しました。ではそのように手配しておきます」
野乃は美雨の足を揉むのをやめて部屋を出て行く。
足を揉んでもらったのでだいぶ筋肉痛も和らいだ気がする。
(これなら明日は魚釣りに出かけても大丈夫ね。でも魚釣りに行くなら都の外に行くのかしら。さすがにそうなると当麻たちがついて行くって言いそうだわ)
明日の朝も当麻たちとひと騒動あるかもしれないと思うと美雨の気も少し重たくなる。
(光拓様が光主様みたいに霊力の強い方なら当麻たちもまた納得するかしらね)
そう考えるが光拓に光主並みの強い霊力があるのか美雨には分からない。
どうするべきか悩んでいるうちに美雨は疲労で瞼が重くなってきた。
(とりあえず明日のことは明日考えよう……)
美雨はそのまま眠りの中に落ちていった。




