第41話 光の王配に相応しい男
「そうか。闇の王配の事件には美雨も関係していたのか」
「はい。私の我儘な行動が闇のお父様の命を奪うことになってしまったんです。そのことを何度も後悔しましたがその度に闇のお父様との約束を思い出し自分が女王になると決意したんです」
後悔の念に圧し潰されそうになりながらも美雨が前向きに生きて来れたのはその約束があったからだ。
美雨は桃色の花のネックレスを触る。
「そのネックレスが闇の王配との想い出の品か」
「はい。これを身につけていると闇のお父様が私と一緒にいてくれる気がして」
「美雨は女王になるために本当に頑張っているんだな。美雨の頑張りはきっと亡くなった闇の王配もちゃんと見てくれているさ。そのネックレスを通して」
光主はそっと美雨の身体を抱き締めて大きな手で頭を撫でてくれる。
(闇のお父様もこうやって私の頭を撫でてくれたわ。でも光主様の手は闇のお父様が撫でてくれた時より気持ちが安らぐ気がする)
あまりの心地よさに美雨は光主の胸の中でうっとりとした気分になった。
「美雨の女王になる決意の強さは理解した。だから俺も……光の王配に相応しい男になる」
決意に満ちた光主の声を聞き美雨は光主の顔を見た。
その表情は今まで見たことがない厳しい表情だ。
(なぜ光主様はこんなに厳しい顔をしてるのかしら)
美雨が疑問を持つと光主が美雨の頬に手を当てる。
「美雨を女王にするためなら俺はどんなことでもする。だから俺が光の王配に相応しい男になったら必ず俺を美雨の光の王配に選べよ」
有無を言わせない光主の力強い言葉に美雨は思わず頷いてしまう。
光主の金の瞳の中に自分の姿が映っているのを見ながら美雨は考えた。
(光の王配に相応しい男になるってどういう意味かしら)
既に美雨は光主に好意を持っている。
これで光主に光の王配としての能力があると確信できれば美雨は光主を自分の光の王配に選ぶつもりだ。
しかし今の光主の言葉はまるでまだ自分は光の王配に相応しくないと言っているようにも聞こえた。
(もしかして光主様は自分の持つ霊力のことを言っているのかも)
当麻たちに見せた光主の霊力の強さはかなりのものだった。
だが光の王配候補者の中では月神の加護を受けている月天が一番霊力が強いと言ってはなかったか。
確かに女王と六人の王配が張るという守護結界にはとてつもない霊力が必要だろう。
霊力が強いというだけで王配になる資格は十分にあるのだ。そこにお互いの愛情がなくとも。
「光主はこの国を護っている守護結界の話は聞いたことありますか?」
「ああ、知っている」
美雨と見つめ合っていた視線を光主は空へと向けた。
守護結界は目に見えるものではないがそこには確かに守護結界が存在するはずなのだ。
「守護結界は女王と六人の王配がいて初めて完璧な結界が張れるんだろう? そのためには強大な霊力が必要なんだろうな」
(やはり光主様が気にしているのは己の霊力のことなんだわ)
美雨だって自分に守護結界を張れるだけの霊力があるのか疑問に思う時がある。
光の王配になりたくても自分の霊力が王配に相応しいものなのかと光主が躊躇う気持ちが美雨にはよく分かった。
しかし霊力は生まれた時にその強さが決まっている。
光主が望んでも普通はその霊力を強めることはできないが例外が存在することは美雨も聞いたことがあった。
それは様々な神の加護を得ることで霊力を増強する方法だ。
神の加護を受けること自体至難の業なのでその方法で霊力を増強することは凡人にはできないが光主のように元々の霊力が強ければ神の加護を受けられる可能性はある。
「あの、光主はご自分の霊力が光の王配になるのに不足していると思っているのですか?」
「そうだな。今の俺の霊力ではおそらく光の王配としては力不足かもしれない。だから神の加護を受けようと思っている」
「月天様と同じ月神の加護を?」
「……そうだ」
「でも神の加護を受けるには危険も伴うと聞いたことがあります。光主の身に何かあったら私は…」
(光主様を失ったりケガを負ったりするのは嫌だわ!)
心配する美雨に光主は安心させるようにまた頭を撫でた。
優し気な瞳で美雨を見つめる。
「月天ができて俺にできないわけないだろ? 少しは俺を信用しろよ。そんなに俺は信用できないか?」
「い、いえ、光主のことは信用しています。でも…」
「ここは風が強くて寒いからそろそろ太陽神殿に戻るぞ。他にも連れて行きたいところはあったが美雨の足腰はもう限界だろうしまた今度連れて行くことにするさ」
美雨の言葉を遮るように光主はそう言うと美雨の身体を突然自分の肩に担ぎ上げる。
「きゃああっ! な、なにするんですか!?」
「美雨の今の疲れた足で長い階段を降りるのは無理だからな。下までこのまま俺が連れて行く。安心しろ、絶対に落とさないから。それに美雨は俺のことを信用してるんだろ?」
「…っ! し、信用はしてますけど、あ、あの、お、おろしてください! 私は重いですから!」
「美雨のお願いでもそれはきけないな。それに美雨はとても軽いから気にしなくていい。むしろ美雨を担いで重いというような奴は王配に選ばない方がいいぞ。そんな非力な男では美雨を護れないからな。おとなしくしてろ。今度こそ階段から落ちるぞ」
そう言われてしまえば美雨は暴れることはできない。
光主はそのまま塔の階段を降り始める。言葉通り美雨を担いでいても光主の足取りに不安定なところはない。
(は、恥ずかしい! でもここで暴れて階段から落ちたら今度こそ光主様を巻き添えにするかもだし…)
美雨は羞恥心に耐えながら光主に担がれて雷神の塔を降りたのだった。




