第40話 純白の園
階段の頂上にあった扉を開けると外に出られるようになっていた。
狭くはあるが美雨の胸の高さまでの壁で囲まれたバルコニーのような場所がある。
思った通り結構な高さがあるようだ。強い風も吹いている。
光主が先に外にでてバルコニーの部分に立った。
その後に続いて美雨が恐る恐る扉から外に足を踏み出そうとすると光主が美雨の手を掴む。
そして美雨が外に出る手助けをしてくれる。
「落ちると危ないからな。俺が支えててやるから」
外に出た美雨の腰に光主は腕を回して美雨の身体を自分の身体に密着するように引き付けた。
たくましい光主の身体を感じ美雨は恥ずかしくなるが先程階段から落ちるという失態を犯したばかりなので「大丈夫ですから」とは言いづらい。
「あ、ありがとうございます…」
お礼を言う美雨に光主は優し気な視線を送ってくる。
一瞬、また光主の金の瞳に囚われそうになり慌てて美雨は塔の外に目を向けた。
すると美雨の瞳に塔の上から見える景色が飛び込んでくる。
「す、すごい! とても綺麗だわ!」
眼下には光の都の白い街並みが広がっていた。
この光の都に着いた時にも白い街だとは思ったが高い所から街の全体を見下ろすとまるで純白の園と言ってもいいぐらいに思える。
それほどにこの光の都は「白」にこだわっているようだ。
「綺麗な街だろ。美雨が気に入ってくれて良かった」
「まるで純白の園の中にいるみたいです。ラーマ神のいる天の国もこんな感じかもしれないですね」
王家が崇めるラーマ神は天の国にいるとされている。
その天の国は汚れのない清浄な場所と言われそこからラーマ神は華天国を見守っているということを美雨は習った。
眼下に広がる純白の園のような白い都はそんな天の国を彷彿とさせる美しさだ。
「ラーマ神のいる天の国か。確かにラーマ神も白い色を聖なる色としていたな。だけどここは清く美しい汚れなきラーマ神の天の国ではない」
そう呟いた光主の声に美雨はハッと反応する。
ここは光族が太陽神の信仰のために築いた白い都なのだ。
光族もラーマ神を認めているが光族にとっては太陽神こそ一番崇拝するべき存在のはず。
その信仰の証を別の神のためにあるような発言は光主に失礼だったかもしれない。
「す、すみません、光主。この白い都は太陽神への信仰の証の都なのに他の神がいる場所に見えるなんて失礼なことを言って」
美雨が謝罪すると光主は首を横に軽く振る。
「そういう意味じゃない。この都には悪しき心を持った者たちも暮らしているってことだ。民は優しい善良な者だけではない。欲に塗れている者の方が多いくらいだ。そんな人間たちが住む場所が清く汚れなき天の国なわけはないという意味さ」
(人間は悪しき心を持っている…確かにそのことは私も理解しているわ。だってそういう者たちが闇のお父様の命を奪ったのだから)
美雨は首元の桃色の花のネックレスに触れる。
すると美雨の心の中にもうひとつの想いが浮かぶ。
(でも人間の全ての者が悪しき者ではない。それにそういう者も華天国の民というなら私はその者も含めた全ての民を救いたい)
自分の考えは甘いのかもしれない。
この世にはどんな残虐非道もできる者たちが存在するのだから。
それでも美雨はその者たちが悪しき心しかない者だとは思いたくなかった。
「光主の言う通り人間には悪しき心を持った者がいることは私も知っています。むしろどんな人間も自分の欲というものを持っているのは当たり前です。だけど悪しき心を持っている者でも必ず善良な心も持っていると私は信じています。だから善良な民も悪しき民もその者が華天国の民というなら私は女王としてこの国の民を護りたいんです」
決意に満ちた美雨の言葉に光主は驚いたように目を瞠る。
「もし自分の命を脅かす民がいても美雨はその者も護るというのか?」
「はい。私の考えは甘いのかもしれません。でも私は女王になると闇のお父様と約束したから。女王は民を護るために存在する者。それならば女王となる私は全力で民を護りたい」
「闇のお父様というのは亡くなった闇の王配のことか?」
「はい。そうです。光主、聞いてくれますか、闇のお父様が亡くなった時のことを…」
「ああ。美雨の話なら何でも聞いてやる。だが辛いなら話さなくてもいいぞ」
自分を気遣う光主の優しさに美雨は涙が出そうになる。
美雨にとって闇のお父様の事件を話すことは今でも心が苦しくなるのは事実だ。
しかしもし光主を光の王配に選ぶことを考えるなら自分が女王を目指すきっかけになったことを話した方がいいはずだ。
王配も女王と同じく民のために存在する者なのだから。
「いえ、ぜひ聞いてください、光主」
スウッと息を吸い込み美雨は過去に起きた闇のお父様の事件について光主に語り始めた。




