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女王の華咲く日~新しい女王は六人の王配に愛されて華開く~  作者: リラックス夢土


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第38話 雷神の塔

「ここが『雷神の塔』だ」


 光主が馬を止めてそう言ったので美雨は目の前に現れた高い塔を見上げる。

 ここは光の都の中心に近い場所のようだ。

 太陽神殿からもそれほど離れている所ではない。


 雷神の塔は光の都にある家々と同じく白い色の塔だがその高さはかなりありそうだ。

 塔の先端部分は棒のように細く尖っている。


「ここが雷神の塔ですか。ここには何があるんですか?」


「ここには光族の起源があるのさ。とりあえず塔の中に入るぞ」


 美雨は光主の手を借りて馬から降りた。

 バロンを塔の入り口にある木枠に繋ぐと光主は塔の入り口の扉を持ってきた鍵で開ける。


「さあ、中に入るぞ、美雨」


「はい」


 光主に促されて塔の中に入った美雨はその場に立ち尽くしてしまった。

 塔の一階部分は部屋になっており椅子と小さなテーブルがある。


 それだけなら美雨も驚きはしない。

 美雨が驚き立ち尽くした理由は部屋の壁一面の全てを使って描かれていた巨大な白い虎の姿が目に飛び込んできたからだ。


 白い虎はまるで生きているような鋭い目と恐ろしい牙と爪を持ち今にも美雨を襲ってきそうに思える。


「こ、光主、この白い虎は何ですか?」


「この虎は雷神さ。雷神は人の世界に降り立つ時にこの白い虎の姿になる」


 説明してくれる光主の声が硬い気がする。

 そのことに気付き美雨がチラリと光主の顔を見ると光主は壁の白い虎を忌々しそうに見つめていた。


(光主様、どうかしたのかしら? もしかして光主様はこの白い虎の雷神が嫌い?)


「光主は雷神が嫌いなのですか?」


 ついそんな言葉が美雨から漏れてしまう。

 すると光主は驚いたような表情で美雨に問いかけてくる。


「なぜ、そう思った?」


「いえ、光主が雷神を見つめる目が険しくなっていたので光主は雷神が嫌いなのかと…」


 すると光主は溜め息を吐きながら美雨から視線を外した。


「ああ、そうだな。嫌いと言えば嫌いだ。この雷神には昔、手酷い目に合わされたからな」


「え? まさか光主は本物の雷神を見たことがあるんですか?」


「……ああ、昔、一度だけな」


 答えた光主の言葉に美雨は驚きを隠せなかった。


 この国には王家が祀るラーマ神だけでなく各部族が独自に祀る神を合わせると様々な神が存在する。

 しかし美雨は今まで神と呼ばれる存在の姿を自分の目で見たことはない。

 神とは人と違う次元に存在していて神が人の前に姿を現すとは思っていなかったのだ。


(光主様は実際に雷神を見たことがあるのね。でもさっきその雷神に手酷い目に合わされたって言ってたけど何があったのかしら?)


 そのことを訊こうかと思ったが光主の表情は当時のことを思い出しているのか苦し気に見える。

 もしかしたら雷神と出会った記憶は光主にとって思い出したくないものなのかもしれない。

 少なくとも雷神に光主は手酷い目に合ったと言ったのだから。


 美雨はその部分に触れず別の質問をすることにした。


「雷神も光族が崇めている神なのですか?」


「光族は太陽神を主神としているがそれと対になる月神と太陽神の使いで力の象徴と言われる雷神も祀っている。神格では太陽神が一番で雷神が二番目で次が月神になる」


「雷神は月神より神格が上なのですか?」


「そうだ。雷神の放つ雷は太陽神の力を凝縮したモノだと言われている。太陽神の敵は雷神によって滅ぼされるというのが光族の考えだ。そしてこの雷神の加護を得た者は雷神の力を自由に使えるらしい。今現在雷神の加護を受けた者はいないがもし加護を得られればその者は間違いなく光族で最強の力を持つ者になる」


「光族の最強の力を持つ者…あ、あの、それは月神の加護を持つ月天様よりも強い者になるということですか?」


「もちろんそうだ。月神の力は自分を護る守護的なものだ。雷神の力は攻撃が最大の武器だ。雷神の攻撃は月神の守護も吹き飛ばすと言われるぐらいに強い」


(そんなに雷神って強いのね。でもその雷神の加護を受けた光族の人間は今はいないのね。今はってことはかつてはいたってことかしら)


「雷神の加護を受けた者は今はいないって言いましたよね? 昔は雷神の加護を受けた者が存在したのですか?」


 すると光主は美雨に意味深な視線を向ける。


「はるか昔その者は存在した。その者は光族の初代族長になった者だ。初代族長は雷神の力を操り強大な力を持っていたとされる。ある文献によると初代族長は雷神の子供だったのではないかとも言われている。その族長の子孫が今の光族だ。つまり雷神が光族の起源とも考えられるのさ」


(光族は雷神の血を引く子孫たちだというの? それが光族の始まり…)


「教えてくださってありがとうございます、光主。女王教育ではそこまで光族のことは習いませんでした」


「まあ、そうだろうな。華天国が建国される時にこの言い伝えは光族の中でも上位神官と族長の身内にしか伝えないと決めたようだからな」


「え? そうなんですか」


「元々、六部族はそれぞれが選民思考が強い。国をまとめるのには強過ぎる選民思考は邪魔になるだろ? 自分たちは神の子孫なんて思ったら他の部族を虐げる可能性がある。だからこそ光族は太陽神への信仰は続けつつも過激な選民思考を民が持たないように光族は神の子供ではなく太陽神に寵愛された者ぐらいにしておいた方がいいんだ」


「なるほど。確かにそうかも」


「他の部族も光族と同じような政策をとっているはずだ。それがこの国には必要なことだからな」


(六部族の調和がなにより大切ってことね。六人の王配を選ぶのもそのためだもの。光主様といると勉強になるわ)


 華天国が建国される前に六部族が争っていた理由には過激な選民思考があったのかもしれない。


「それより塔の上に登ってみないか、美雨」


「塔に登れるんですか?」


「こっちにある階段を登れば上の方まで行ける。そこから光の都の全貌が見渡せるぞ」


 そこには上へ向かう螺旋階段があった。

 階段を上るのは大変そうだが光の都の全貌が見えるというのは興味が惹かれる。


「分かりました。登ります」


「疲れたら俺が美雨を担いで上がってもいいぞ」


「…っ! 自分で登れますから!」


 光主に抱っこされただけでも恥ずかしかったのに担がれるなど論外だ。

 鼻息荒く気合いを入れて美雨は螺旋階段を上がり始める。


 そんな美雨の後ろ姿を笑みを浮かべて光主は愛しそうに見つめていた。

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