表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女王の華咲く日~新しい女王は六人の王配に愛されて華開く~  作者: リラックス夢土


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/148

第34話 素顔の光主

「まいったな…そんなに猫を被ってたつもりはないんだが…」


 自分の金の髪を片手でかき上げながら光主は困った表情になる。

 

「猫を被っていたんですか?」


「あ、いえ、そういうわけではなくって……いや、違わないか。確かに普段の俺はもっと粗暴な男ですよ、美雨様」


 口調が変わったことで光主の印象がだいぶ変化したように美雨には思える。

 それは悪い方向ではなくさらに良い方向にだ。


 今、自分の前で素であろう態度を見せる光主からは先程の礼拝で見た神々しさに加えて野性味が加わったような気がする。

 神々しい姿の時は自分が触れてはならないような存在にさえ感じたが素顔の光主はその時より人間味があり美雨には今の方が親近感が湧いた。


「粗暴だなんて思いませんよ、光主様。私の前では普段通りでかまいません。今までは無理していたんですか?」


「いや、無理と言うわけじゃない。神官の仕事の時や公の客人の前で丁寧な言葉遣いを使うように育てられたからな。俺も一応これでも族長の長男だから」


(そうだったわ。光主様は族長の長男という立場だもの。公の場での振る舞いができて当たり前よね。私も王女としての振る舞いを子供の時から叩き込まれたものだし)


 美雨にだって王女としての顔と美雨個人の顔というものがある。

 光主も美雨と同じく公で見せる顔と普段の顔が違っていても不思議ではない。

 むしろ上に立つ者はその使い分けができなくては失格だ。


「そうだったんですね。神官としての光主様も素敵ですが素顔の光主様も素敵だと思いますよ」


「…っ! 素敵…ですか?」


「え? あっ!」


 深く考えずに自分の気持ちを述べてしまった美雨は光主に問い返されてハッと気付く。

 これではまるで美雨が光主に好意を持っているようではないか。


(いえ、確かに光主様を素敵な方だと思ったけど言葉に出すと恥ずかしい!)


 美雨の顔はみるみるうちに真っ赤になっていく。

 その様子を光主はどこか満足気な表情で見つめていた。


「美雨様に褒められると嬉しいもんだな。だが美雨様にはもっと俺のことを知って欲しい」


 熱い眼差しを向ける光主を直視できなくて美雨は慌てて話題を変える。


「そろそろ部屋に戻りたいんですが…」


「俺は美雨様をずっと見ていたい…が、確かにここは落ち着かないから部屋にお送りしますよ。美雨様の可愛い顔を他の男に見せるのも癪だからな」


「か、可愛い!?」


「美雨様は可愛いですよ。顔を赤くしている姿なんか可愛い以外の何ものでもない」


 照れる様子もなく当たり前のように言われて美雨はさらに顔が火照ってきた。

 美雨たちの周囲では神官たちが礼拝後の片付けをしている。

 二人の会話が聞こえているかは分からないが美雨も自分の真っ赤になった顔を人に見られたくはない。


「ではこちらへ、美雨様」


「は、はい」


 光主の後を追って美雨は歩き出すが頭の中では光主の言った言葉がぐるぐると廻っている。


(か、可愛いって言ったわよね? ほ、本当にそう思われてるのかしら。もしそうなら嬉しいけど、でも…)


 先を歩く光主の後ろ姿をチラチラ見ながら美雨は考える。

 光主は見た目はいいし族長の長男という立場もあるので絶対に女性からモテるはずだ。


(光主様は女性の扱いに慣れていらっしゃるとか? だから女性を褒める言葉を使うのに躊躇いがないのかも…)


 そう思うと美雨の胸がチクリと痛む。

 光主が他の女性と共にいる姿など想像したくない。


 王配候補者は女王候補者と婚約する身の者たちだが果たしてその心に他の女性がいないと言えるだろうか。

 自分の姉の清和には秘密の恋人がいたのだ。清和も女王候補者のひとりであるのに。


(今は光主様に想い人がいるか聞けないけど光主様と行動を共にすればそれも分かるかも)


「美雨様」


「は、はい!」


 自分の考えに没頭していた美雨は光主に声をかけられてビクッと大袈裟に反応してしまった。

 光主は廊下の途中で歩みを止めていた。廊下には他に人はいない。


「部屋へ着く前にお願いごとがあるんだが」


「お願いごとですか? 何でしょうか?」


「俺の素の部分を見せて欲しいと言ってたよな。それなら俺にも美雨様の素顔を見せてくれないか?」


「え? あ、はい、それはいいですけど…」


 そう返事はしたものの美雨は特に猫を被っているつもりはない。

 すると光主は不敵な笑みを浮かべた。


「それならお互いに二人の時は敬称なしで名前を呼んでいいだろうか?」


「な、名前を!?」


「その方が女王候補者でも王配候補者でもなくお互いに個人を知ることができる。俺に名前を呼ばれるのは嫌ですか?」


「い、いえ、そんなことは、あ、ありません」


「ありがとう、美雨」


「…っ!」


 美雨の名前を何の敬称もなしに呼ぶのは美雨の家族ぐらいなものだ。

 他人に名前だけを呼ばれたことなどないので美雨は光主に名前を呼ばれて激しく動揺する。


(落ち着きなさいって、美雨。名前を呼ばれただけじゃない!)


 バクバクする心臓の音がうるさく感じる。

 美雨は落ち着こうと呼吸を整えるが次の光主の言葉でその努力は無に帰す。


「俺の名前も呼んで欲しい」


「え? あ、あの、えっと……こ、光主」


(やだ、野乃や当麻や高志乃は普通に呼べるのに光主様のことを名前で呼ぶだけでなんでこんなに恥ずかしいの?)


 羞恥心で身悶えそうになる自分に叱咤して美雨は光主の顔を見た。

 その顔はとても幸せそうな笑顔だ。


「美雨に名前を呼ばれるだけで俺は天国に逝ける気がするな」


 冗談なのか本気なのか分からない言葉を呟き光主は再び歩き始める。

 美雨も羞恥心でこれ以上言葉が出てこない。


 すると自分の部屋の扉の前に着いた。


「では、美雨。朝食の後に迎えに来るから」


「わ、分かったわ、こ、光主…」


 美雨は逃げ込むように部屋へと入る。

 扉を閉めても美雨の鼓動は速いままだ。


「美雨様。お帰りなさいませ。お顔が赤いようですがまた体調でも悪いのでは?」


「ううん! ちょっと神殿内が熱かっただけだから平気よ。それより今日は朝食の後に光主様とお出かけするから」


「承知しました」


 なんとか野乃を誤魔化し美雨はソファに座る。

 野乃の淹れてくれた紅茶を飲むとようやく気持ちも落ち着いてきた。


(敬称なしで名前を呼ばれるってこんなにドキドキするものだとは思わなかったわ。でもお母様やお父様たちに呼ばれてもこんな気持ちにはならないのにどうしてかしら)


 恋をしたことのない美雨は自分の心がなぜこんなにも名前を呼ばれただけで翻弄されるのかよく分かっていなかった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ