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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第3章「テレセフの悪魔」

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88.果たされた再会

フェナリの誕生を祝って、久しぶりの登場です。

主人公……なんですけどね。

もし良ければ是非、皆さんもお祝いしてやってください!


「あまりにも、簡単だったな。罠でも疑いたくなるくらいだ」


「ええ――確かに。ですが、グラルド卿が対応している悪魔の力量は凄まじかったはず。あれが、一番の罠であった可能性もありましょうな」


 領地邸の奪還と言う第一目標は、アロンらの想像を裏切り、いとも簡単に成し遂げられた。待ち伏せや占拠と、そういった類のものが用意されているかと危惧していたアロンだったが、そう言ったものは今のところ、ヴァミルの存在以外に確認できていない。

 ヴァミルが待ち伏せしていた、というそれこそが罠であり、本当ならば彼女だけで全てを一掃できる、と言う考えだったのではないかと言うファドルドの考えも、納得できる。しかし、アロンはどうしても、それだけだと思うことが出来なかった。


「まあ良い。領地邸の奪還が為せたのは僥倖だ。ここを本拠地とし、護衛体制を敷く。そして、他の『悪魔の娘』――シェイドが会敵した最後の一体を捜索、討滅しなければならない」


「領地邸の奪還でも、低級悪魔の殲滅でも、城塞都市の奪還は叶いません。――『悪魔の娘』が残っている限り、市民たちは決して安堵の儘に寝床に入れない」


「そうだ。低級悪魔の殲滅であれば、現状動ける騎士たちに任せることが出来る。しかし、やはり――『悪魔の娘』ともなれば……」


 アロンは、続きを濁した。ファドルドも彼の考えを悟ったように口を閉ざす。

 低級悪魔の殲滅と、『悪魔の娘』の討滅。その二つの任務の間には決して見逃せない差異が存在する。単純に、敵がどれだけ強力か、と言う点だ。アロンの言うように、騎士団の多くの騎士たちは低級悪魔と相対した時、ある程度の人数がいれば余裕をもって討伐が可能だろう。しかし、『悪魔の娘』を相手取るのであれば、話が変わる。

『悪魔の娘』は、普通の騎士たちが少し集まった程度で対抗できる存在ではなく、それより一つや二つ、格が上の騎士が対応しなければならない存在。それこそ――、


「……王子殿下。もう一度、私にお任せいただけませんか」


「シェイド――。体調は……いや、立っていてもいいのか」


 シェイドならば、『悪魔の娘』を相手にして抗戦できる。それは、アーミルの撃破という功績が証明したことだ。当然、今の状況でもシェイドの力が必要とされていることは疑うまでもない。しかし、ならば彼を戦線へと送り出せるか、と言うとそう簡単な話ではないのだ。

 シェイドは、負傷者だ。騎士団や衛兵たちの中でも英雄と同一視されて然るべき功績を打ち立てた彼も、負傷者であるという事実は覆せない。元々騎士団に存在した癒者とフェルドの尽力、そしてムアの助力。そのどれもがあって、しかしシェイドの体には傷が残った。それほどに、酷い負傷だったという事は考えずとも分かる。


「ひとまず、癒者の方から立ち歩きの許可は出ました」


「立ち歩きの許可『は』出たのだろう? 流石にまだ、戦線に送り出す訳にはいかない」


 はっきりと断言され、シェイドも押し黙る。しかし、彼も簡単には引き下がらなかった。彼にとって、譲れない再会があるのだ。そのためならば、自分の体は少しくらい傷つけたって構わない。

 シェイドにとって、城塞都市には残したものがある。王都への移住となって、様々なものを故郷に置いていくことになってしまった。しかし、その中でも未だに残してしまったことを後悔したものが二つある。その一つが兄フェルドの存在であり、こちらはシェイドの想像していた以上の形で再会が果たされた。だがもう一つ――、


「では、近くの巡回も兼ねて、墓参りに――いえ。今は亡き知人の、死を悼みに行ってよろしいですか」



  ◇



 結局、シェイドは護衛の騎士を一人付けることと、巡回はせずに純粋な墓参りのみを行うことを条件に、外出が許可された。

 亡くなったものたちの弔問を果たしたいものはシェイド以外にも多いはずで、本来ならばシェイドだけを、という特別措置は歓迎できない。それが理由で集団内の不和が生じては困るからだ。しかし、シェイドだけにはそれが許された。アーミル討滅の功績がそれだけ評価されたという事でもあるし、怪我人であり当分は戦線へと送られることの無いシェイドの精神衛生上必要だと判断されたからでもある。



「わざわざお付き合いいただき、ありがとうございます」


「いえ……王子殿下の、ご命令ですから」


 ちなみに、その集団内不和を避けることを目的として、シェイドの付き添いに選ばれたのはフェナリだった。彼女であれば、およそシェイドが知人の死を悼んでいることについて過剰な不満を持つことはないだろう、との判断だ。そして、シェイドがアロンらを誤魔化そうとしているのでなければ、彼が行くのは比較的安全な場所。そこならばフェナリを送り出しても、安全だろうと判断された。


『絶対に、安全第一だ。分かったか、フェナリ嬢?』


『任せてください、アロン殿下! しっかり、低級悪魔の殲滅を――』


『違う! 違うんだ!! ア・ン・ゼ・ン、だ。フェナリ嬢はシェイドが無理をしないかだけ、それだけを見張っていてもらいたい、それだけだ』


『分かりました!! 外に出られるんですね!!!』


『分かってくれたんだな? 本当に、分かってくれたんだな……? ぅむ……信じるぞ』


 最後までアロンは不安を払拭しきれなかった。フェナリに安全第一の旨を説こうとしても、彼女からの返事はなんだかズレているような気がして、そのズレこそが致命的な気がして。半分洗脳する勢いで安全をフェナリに刷り込み、アロンは彼女を送り出した。

 フェナリの強さは十分以上に理解しているアロンだが、過保護はこれからだって無くならないのではないかと思う。逆に、彼女の強さそのものに価値を見出した時、それは何かが終わってしまう時であるようにも思っていた。


 シェイドの付き添いとしてフェナリが選ばれたのは、当然他の騎士を向かわせてシェイドの特別待遇が外に露呈することを避けたかったためでもあるが、それだけでもない。

 フェナリこそが――否、チョーカーの効果によって『誰だか分からない仲間』である彼女こそが、シェイドの傍にいるには相応しいと考えられたからだ。同じ騎士と言う立場でありながら、その存在をシェイドは正しく認知できない。そんな相手であれば、必要以上に気にすることなしに、純粋に知人の死を悼むことも出来よう。


「――こっちです。この森に沿って、もう少し歩いたところ……」


 シェイドは歩きながら、フェナリを案内する。フェナリは周囲を気遣いながら、彼の背中を追いかけていた。その背に向ける感情は、恐らく心配の色が大きいだろう。

 今のシェイドは、至る所に包帯を巻かれており、騎士たちの目撃を避けるために与えられたフードを目深に被っている。フェナリにとっては、そのフードによって彼の心自体も閉ざされてしまったかのように思えてならない。


 ――アーミルを撃滅した時のような覇気は、今の彼から感じない。


 フェナリは、間近で起こったあの征討劇を脳裏に焼き付けていた。間違いなく、他人の戦う様を見てあれほどまでに興奮を覚えたのは、彼女にとって初めてのことと言っていいだろう。それは当然、自分ばかりが戦って、他人が戦うところを見ることすら珍しかったから、というのもあるが。

 アーミルは、強かった。それは、あの場にいた者たちの共通見解であろう。当然、フェナリもそう思っているし、だからこそ彼女を滅したシェイドの評価も上がるというものだ。


(だからこそ――今のシェイドの様子には少々、疑問を感じざるを得ぬな)


 多大なる功績を打ち立て、それによって歓喜に震える者、傲慢に堕ちる者、達成感に乱舞する者――フェナリは、そう言った人間を見てきたことがある。その功績の殆どが、周囲にとって良いものではなかったが、それでもどこかの世界では功績だと、そう認められるものだった。

 だから、彼らは狂喜した。だのに、シェイドにそれはない。フェナリの記憶の奥底に存在する彼らとは違い、本当に功績と認められるそれを打ち立てておきながら、彼の纏う覇気は次第に萎えている。その理由は、恐らくこの先にあるのだろう。シェイドがどのような双眸を以て、この場所を訪れることをアロンに打診したか。それを、フェナリは彼から聞いた。アロン曰く、『全てを喪った者の瞳』であるかのようだった、と。


「……聞いても、よろしいですか。この先には、誰が――」


 フェナリは思い切って、先を行くシェイドに尋ねた。『全てを喪った者』のようだと、アロンに言わしめたシェイドの様相。その原因は恐らく、この先で眠る誰かだ。シェイドは様々なものを得たというのに、それでも何もかもを失ったかのように、そう思わせるだけの誰かがいる。

 それが、誰なのか。そして、シェイドにとってその誰かは、どんな人間だったのか。


「大した話ではありません。ただ、幼いころに知り合っただけの、名前も知らない少女が――少し先の場所で、眠っているだけの話です。貧乏がゆえに、恐らくは墓も立てられていない。誰にもその存在を認められず、曖昧なまま……彼女は、この地に眠った。私は、彼女を知っていた数少ない人間として、その死を悼みたいだけです」


「……お悔やみを。私は、その方を知る人間には、なれませんでしたが」


「――。私も、大して貴女と違いませんよ。彼女のことを、名前すら知らない。それでもその相貌だけは、忘れたことが無い――ただそれだけに過ぎませんから」


 そう言って、シェイドは口を閉ざしてまた歩き出した。森沿いの、辛うじて整備されているであろう道を歩く彼の歩みは遅々としており、この先に近づくことをどこかで拒絶しているようにも思えた。

 しかし彼の拒絶も虚しく、歩みは目的を果たして止まる。


 フェナリは改めて辺りの気配を探って、ふと気づいた。


「――誰か、います」


 シェイドは、フェナリの言葉を受けて正面に視線を飛ばす。森の木陰に、誰かがいる。低級悪魔だろうか、とあたりを付けた二人だったが、そのシルエットは明らかに人間のものに見える。であれば巡回中の騎士だろうか、とシェイドはフードをさらに深くした。

 しかし、彼らの想像はどれもが違う。何もかも、違う。そこにいるのはもっと純真で、もっと悍ましいものだ。


「やっと、やっと……見つけた――ッ!!」


 木陰から、その姿が現れる。それは、少女だった。フェナリが咄嗟に、偽装のために与えられていた騎士剣の柄に手を掛ける。



「見つけた、見つけた、見つけたッ!! ――私を苛む楔、つまらない約定の果てにいる人!!」



 少女と、シェイドが――邂逅した。


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