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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第3章「テレセフの悪魔」

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86.『総員、反撃』


「――結局、何なんだ。今度こそ、曖昧な言葉遣い、曖昧な情報提供、その一切を排除し、明確に、単刀直入に、調査結果を報告してもらいたい。ミドリス筆頭魔術師殿」


 明確にムアのことが苦手だ、と宣言したアロンは、周りにほかの要人がいないことをいいことに、強い口調でムアに詰め寄る。しかし、そのことに関してアロンを責めることは到底できない。何故なら、嫌われているムアの方にほぼ全面的な悪さがあるからである。

 フェナリがさも犯人であるかのような言い方をして彼女に詰め寄り、かと思ったら身を翻してフェナリが犯人であろうはずもないだろうなどと宣った。数分前の自分の発言とすら矛盾する滑稽具合である。


「そんなカリカリなされないでくださいですよ、王子殿下。必要なことはしっかり、やっておりますですから。まぁ、それをしっかりお伝えできるかは、私の気分次第ですが」


「その気分を固定する機構はないのか」


「ありませんですね」


「そこをはっきり断言されては困るのだ……」


 普通に考えて、王族から嫌われているなどと言う事実が発覚すれば、しかもそれを真正面から言われてしまえば、それは愕然として死を覚悟するに値するような悪状況である。まあ、当然のようにムアの態度は変わらないわけだが。

 

「まあ、そろそろ遊び飽きてきましたので。ええ、ええ、調査結果の正式な報告と参りましょう」


「遊び飽きたと言ったか? 遊んでいたと言ったか?」


「結論! 奥さんに似た感じの魔力が出てきたのは事実だけれど、魔力反応による調査なんて大した精度があるわけじゃないから決定打には到底至らず!! では、以上です」


「はぁ――――」


 この時、アロンは人生で一二を争うほど長い溜息を吐いた。ここまで精神を削りきった末、返ってきた結論がこれというのでは報われない。とはいえ、だ。ムアの態度がどれだけ不敬であっても、どれだけ個人的にムアが苦手だと主張しても、アロンはムアの魔術師としての実力だけは、否定できない。

 

「ミドリス筆頭魔術師殿の実力をもってしても、その報告以上の精度は望めないのか」


「私も全力を尽くしましたが、これ以上はなんともですね。で・す・が、ええ、ええ――この結論も全く何の役にも立たない、というわけではありませんですよ?」


「……というと、どういうことだ」


「やっぱり私が犯人だってことに……?!」


「安心してください、奥さん。私のおふざけ以外で貴女が犯人にされることは多分ありませんですから」


 日頃の行いというか、今先程の行いというか……素行の悪さ故に警戒されるムアだが、その表情が変わることはついぞなく。

 やっとのことで引き出せたそれらしい情報に、アロンは外交に身を削る王子の表情を取り戻す。どうせ効果はないだろうと悟りながらも無言の圧でムアに続きを促す。


「まぁ、隠す理由もないですし、そろそろ眠くなってまいりましたですから、いいです。ええ、ええ――お話しましょう、ズバリ! 魔力反応が出たということは、犯人は奥さんか、奥さんと血縁関係にある方、あと、稀な話ではありますですけど――奥さんに長期間、魔力による干渉を行った人物、そのいずれかである、ということです!」


「……フェナリ嬢が犯人である、という線は無い。その上で――メイフェアス伯爵家に、下手人がいる可能性がある、か」


「ですが、当家で結界術を扱える人間、というのは恐らく居なかったはずです。そもそも、メイフェアス伯爵家は大して魔術に造詣が深い家ではありませんし」


 何なら私は魔術適性が一切ないです、と続けるフェナリに、アロンは厳しい表情を崩さない。仕方のないことだ。城塞都市の陥落に一役買うようなことをしでかした人間が、当然のように自分の能力を周囲に知らせているとは思えない。結界術に適正があるという事実をひた隠し、一家の中でもそのことを知らせずに手札として持ち続けていたのかもしれないのだ。


「忘れてませんですか、王子殿下? もう一つ、可能性はありますですからね?」


「稀な話、なのだろう。当然、そちらも考慮はする。が、可能性の高い側から潰していくのは無難な方策だ」


「そーですねぇ。ええ、ええ――そうでしょうとも。また、機会があれば色々とこちらも調査をさせていただきますですよ」


 含みがあるのか、はたまたムアの話し方がおかしいゆえにそう勘ぐってしまうだけなのか。アロンはそのあたりを測りかねる。その横のフェナリとしても、こういった細かい話は苦手だ。ムアがどういう感情を孕んでその言葉を述べているのかは、残念ながら彼女には分からない。しかし一つだけ、その発言の際のムアの瞳、緑のローブに隠されていない側の瞳が、一瞬だけ妖しく光ったことだけは、フェナリも見逃さなかった。


「では、王子殿下――私の方はこれで。悪魔との戦いに関しては、ご健闘為されますよう、ホカリナ施設としてもお祈り申し上げますですよ」


「ああ、力添え感謝する。ホカリナ国王にも是非、謝意を伝えてくれ」


 一つ、大袈裟なほどに大きなお辞儀をして見せて、ムアは身を翻す。同時にはためく緑のローブが風に揺られて、手を振ろうとしないムアの代わりに別れを惜しんでいるように見えた。

 実害がないだけの嵐が去ったような心持で、アロンとフェナリはまた一つ、溜息をついた。


 心を落ち着けるべきタイミングだったのに、何だかんだでそれもうまくは行かず。しかし、そんな彼らの事情も知らずに日が昇る。

 


  ◇



 ――夜が明ける。光芒が闇を駆逐し、朝日となって地平を照らした。


 城塞都市テレセフが悪魔によって陥落し、『悪魔の娘』による被害はより甚大になりつつあった。そんな最中で、シェイドによるアーミル撃破の報せは殲滅戦を強いられる騎士たち、そして衛兵たちにとっての希望の光だ。

 城塞都市陥落から、希望ある夜明けを迎えられたのは今回が初めてのこと。その事実をしかと噛みしめながら、騎士・衛兵の未だ戦える者たちが一堂に会し、同じ場所へと視線を集中させる。木箱で作られただけの壇上に、アロンが立っていた。


「夜は明けた。進軍の時である。――劣勢を強いられ、流した血を惜しんだ。被害は甚大であり、騎士団の戦力の内半数は既に失ったも同然だ。『悪魔の娘』との戦いは、人外である彼らとの戦いは、常に我らにとって不利に進んでいく。そのことを、私も皆も、限りなく、悔しく思っている」


 集まる視線は無言のまま、しかし強い同意が籠められている。その視線を向ける者たちは皆、何かしらの傷を負っていた。治癒術師は貴重で、掠り傷や小さな裂傷を一つ一つ治療している暇はない。そう言った軽傷を負った者は応急処置だけをされて放置だ。だから、彼らの半数以上は体のどこかを包帯で巻き、止血処置だけをされた状況でこの場に立っている。

 だが、未だ戦える。戦わなくては、ならない。騎士は国家と、そしてそれに属する民草を守るために。衛兵たちは愛郷たるこの都市と、自分たちの家族や知り合いを含む市民たちを守るために――戦うべくして戦うのだ。


「苦しまなければ、犠牲を払わなければ、得るものはない――そんなことは虚言だ。出来るものならば、何も失うことなく、欲するものを手に入れたい。誰もがそう思っているはずだ。それが可能な場面だって、人生には幾つかあるだろう。しかし、今我々はその段階にいない。何も失いたくない、という誰しもが持つ当然の欲求は、既に世界から却下された。失ったものは多く、大きい。だが――!!」


 アロンが、拳に力を入れて空虚を握り締める。その動作も、戦う者たちからはよく見える。彼の気迫に感化され、同じように掌に力を籠めるものだっていた。この場にいる者たちの心が、意志が、段々と統一されてくる。元々、守るべきものを守るのだと、そういう形で固まっていたはずの彼らの目的が、更に確固たるものとして昇華される。


「我々は困難な状況にある。皆が、何らかの形で苦しみを受けた。我々は、確かに犠牲を払ったのだ。であるならば――! 払った犠牲に見合う、対価を。我らが得るべき結果を。当然、手に入れなければならない!! 『悪魔の娘』の撃破、そして城塞都市を跋扈する魔の殲滅。我らの欲するものを全て、手に入れる!! それが、既に何かを失った我らの、使命だ!!」


「そうだ、そうだ」と納得の声が上がり始める。その声は周囲に伝播し、騎士は騎士剣に手を掛け、衛兵たちは地面に突き立てた槍を握り締める。

 失ったものを、取り戻すことは出来ない。特に、大切な誰かを喪った者は、それを取り返すことが出来ないことを知っている。それでも――アロンが言ったように、払った犠牲に見合う対価を、取り戻さねばならない。それが、悪魔の殲滅、そして城塞都市の奪還だ。

 目的が、決意が、意志が、覚悟が。統一される。


「騎士シェイドが『悪魔の娘』を討滅し、我らの上に立ち込めていた暗雲は切裂かれた。而して差し込むのは希望の光だ。我々は、『悪魔の娘』を撃破できる。勝てない敵であろうはずがない!! 国家ギルストを脅かした悪魔に、一矢報いるのだ!!」


 アロンが木箱の演壇から下り、近くに用意させていた馬に跨る。騎士も衛兵も、臨戦態勢を整えた。あとは、アロンの号令を待つだけだ。そのことを確認し、グラルド卿が騎士団の旗を、衛兵隊長が衛兵団の旗を掲げた。

 騎士団の旗は、オリーブの葉と交錯する騎士剣を象ったもので、その旗が掲げられることは正式な騎士団として、王族の命による出陣が為されることを示す。つまり、その旗が挙げられたということは、そういうことだ。


 アロンが、自らの腰に下げた剣を引き抜く。その重みをしっかりと手のひらで感じ取り、大きく息を吸って――、



「総員――ッ、反撃だ!!!」



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