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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第3章「テレセフの悪魔」

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68.城塞都市にて、独りと一羽


 一体全体、何故なのか。それはフェナリ本人にも分からない。しかし、事実としてまたも自分が行方不明の状態にあることに疑いもない。何の運命だか宿命だかが彼女を縛っているのではないかと彼女自身としても本気で疑いたくなる。


「――先程のアレ。頭の弱い私でも分かる。作為的なものじゃったな」


「少しは、頭を回せるようになってきたか、フェナリ」


「む――。『雅羅』……今度はまた、長く留守にしていたものじゃな」


 アーミルの攻撃によって散り散りとなったシェイドと彼率いる後衛部隊。フェナリもまた、身体の抗えないような巨大すぎる気配に圧され、どこだか分からない場所まで飛ばされてきたところだ。周囲に人もおらず、果たしてここからどうしたものかと今後の方針を考えようとしていたところだったのだが。

 久しぶりの登場であるというのに、あたかもここにいて当然かのようにその姿をフェナリの目の前に現した『雅羅』。瓦礫の中で残ったらしい家屋の柱の上に足を乗せ、彼はその黒翼を揺らしていた。

 フェナリとしても、そして前世の花樹(フアシュ)としても、『雅羅』が長く留守にすることは多かったこともあって、こういう登場の仕方をしようとも、彼女は特に驚きはしない。しかしまあ、自分についてくることを決めたのであれば、もう少し傍にいればよいのに、とは思うものだが。


「それで――留守にしていた理由と、帰ってきた理由をそれぞれ聞こうか」


「中空を住処とする烏がその実家に帰省した、と考えるだけでは収まらんか?」


「収まらんな。その程度の話、単なる生物でもなしに――『雅羅』という存在は、本能程度に押し流されるような弱体へ成り下がったか?」


「ふむ。――では、本題の前にその話からしておくことにしようか」


 言いながら、当然のように『雅羅』は自分とフェナリを覆って結界を展開する。周りの状況に懸念を抱かずに済むように環境を整えてから、彼は語りだした。これまで、フェナリの傍を離れて中空を飛び回っていた理由を。とはいえ、フェナリも尋ねながら、粗方の見当はついている。


「――ホカリナ王城での『厳籠』が現れた件。儂としても、調べねばならぬことがあってな」


「やはり。――『三大華邪』の居場所でも探っておったか」


「その通り。『厳籠』以外の『三大華邪』――『霧喰(きりばみ)』と『爆赫(ばっかく)』の所在について」


「分かったのか?!」


 これまでその所在が分からず、討滅の叶わなかった『三大華邪』。その居場所が分かるかもしれないという期待を孕んだフェナリの問いかけは、しかし『雅羅』の首が横に振られることで否定される。フェナリとしても、その答えには静かに肩を落とすしかなかった。

 とはいえ、状況が好転しなかったというただそれだけの話だ。元々、彼らの所在は分からずの儘。それが分かれば僥倖だが、分からずとも状況が変わっていないというだけ。


「仕方のないこと、じゃろうな」


「……そもそも、フェナリと場所を違えて『三大華邪』がこの世界に降り立ったこと自体、不可思議な話じゃ。儂の想定では――『転生』したフェナリに付随してくるなら、少なくとももう少し近くに現れるかと……力不足じゃろうな」


「『厳籠』は恐らくホカリナに降り立った。ではほかの『三大華邪』もまた――というのは、楽観的が過ぎるか」


「いや、儂も最初はそう考えておった。しかしまあ、ホカリナ周りに大きな気配は見当たらずじまい。『厳籠』が結界術師を洗脳し味方に引き入れていたように、身を隠す術を何らか手に入れているとすれば、厄介じゃな」


『雅羅』の懸念に、フェナリも押し黙る。この世界に於ける結界という存在がどれだけ重要なものか、というのは一か月と少し前に身をもって実感したばかりだ。この世界に転生してきてすぐのことなのもあって、記憶にはっきりと残っている。

『厳籠』の魂が葬り去られた今、幻術による洗脳というのは無くなったとみていい。しかし、『厳籠』の持つ妖術が幻術であったことを、フェナリは知らなかった。当然、他の『三大華邪』が持つ妖術の何たるかについても、彼女は知らない。であれば、幻術のほかにも洗脳に特化しているものを『三大華邪』が有している可能性は捨てきれない。


「『三大華邪』の所在に始まり、その行動目的にせよ、『転生』との具体的な関りも、何も分からぬ――が、一つ確かなことがある。それは、今回の件が『三大華邪』とは無関係であるという事じゃろうな」


「今回の――悪魔による都市の陥落には、『三大華邪』が関わっておらぬ、と」


「うむ。とはいえ――『三大華邪』に準ずるような、強大で凶悪な何かが蠢いている気配は、あるがな」


『雅羅』の含みのある言い方に、フェナリは追及せず、唯納得する。言いたいことはよくわかった。状況をはっきりと理解しているわけでもないフェナリだが、理論的にではなく直感的に、現状があまりにおかしいことには彼女も気づいている。

 状況の違和感、それを言語化して解決することが出来ないのは、彼女としても歯痒いところだが。


「そこは、アロン殿下に任せるとして――だ」


「適材適所、というやつであろうな。――して、初めの話題に戻るとしよう」


「ひとつ前の、悪魔の攻撃。あまりに広範囲に影響を及ぼしたあれが、作為的であるという話か」


 話は、『雅羅』が突然現れたタイミングまで遡る。今頃シェイドに対して『お母様の『末娘』アーミル』と名乗っているであろう悪魔が、事の発端として放った攻撃についてだ。攻撃、と表現はしつつも、しかしフェナリは身体に何らかの異常を受けている様子はないし、家屋以外に物理的な攻撃が与えられた形跡はない。そうしたところも併せて、作為的であると感じる所以なのだが。


「お主もこの世界に降り立ち、様々十人十色の者たちと関わり、頭もようよう働くようになったらしい。――お主が言った通り、あの攻撃は作為に占められておるよ」


「私に物理的な攻撃が加えられていないのも、それか?」


「恐らくな」と烏が首肯する。あたりを改めて見まわしてみれば、家屋に残された損失の傷跡というのは凄まじく、見るも痛ましい。しかし、少し視線を自分側へと寄せて行けば、フェナリの体に傷はなかった。強いて言うなら、除けるにも値しないと彼女が判断した小さな瓦礫が擦れてできた擦り傷が片手で数えられる程度はあるのかもしれないが、逆に言えばそれだけだ。


「私は攻撃対象外――いや、家々が攻撃対象、と考えたほうが筋が通りやすいのか?」


「そのあたりの具体的な考察には情報が足らんな。しかし、少なくともお主が攻撃を受けていないことは確実で、他の騎士――特に、シェイドと言ったか。あやつも死んではおらん」


「そうか。なら、一先ずは安心――と言えるほど、状況は楽観できる代物ではないが」


 シェイドの無事を事前に確かめたらしい『雅羅』の言葉で、フェナリとしても少しの安堵感が胸に去来する。しかし、自分はその元凶となったのであろう悪魔の近くにいないが、彼もまたそうだとは、考えにくい。それどころか、その悪魔の討滅を任務として与えられているシェイドが別の場所に飛ばされたとして、我先にとその悪魔の居場所を突き止め、任務遂行を果たさんとするだろう。今、彼が死んでいないなら安心、と一口には言えないのが現状だ。


「お主が攻撃対象に含まれていなかったことについては、その理由もまだ分からぬな。――分からずじまいのことが多すぎて辟易するわ」


「そうじゃな……『三大華邪』のことから始まり、あまりに不可解なことが多すぎる。そして続くのが悪魔の襲撃ときたもんじゃ」


『転生』という、それこそ不可解の象徴と言えるような現象を経験したフェナリは、それだけに留まらない不可解の渦中に放り込まれている。生まれてくる不可解は、しかしその謎が解ける前に新たな不可解を呼ぶ。お互いに関係がなくとも、別のところから当然のような顔をして生えてきたりもする。

 考えるだけでも、フェナリの頭ではすべてを把握しきれないような状況だ。


「まぁ、一先ず。状況の確認、そして――生まれた不可解の再確認。儂らが今できたのはそれだけ、ということじゃな」


「――歯痒いな。この世界は」


 前世の寂華の国では、花樹は何も知らなかった。本当に、世界の一割も知らない程度の知識量しか持ち合わせていなかった。世情を『雅羅』から聞かされていたとはいえ、それも最低限必要なものだけを彼が選出し、抜粋して伝えてきたもののみ。まさかそれだけで世界の全貌が見えてくるほど、単純な世界には生きていなかったのだ。

 しかし、逆に花樹は、知らないことばかりだからこそ、知らないことを自覚しないで生きていられた。自分が知っているものだけがこの世界の全てなのだと錯覚するような状況に置かれていて、だから自分の知らないものが何なのか、それを知らなかった。


 ――しかし、この世界では違う。


 彼女の居場所は山中奥深くの鉄籠の中などではない。世界に、ぽつりと無防備に置かれている。それは、周囲の知識から身を守る術もなく、ただひたすらに知識濫に晒されるということで、それだけの知識を持てば、自分の持たない知識、欠け落ちたピースの存在を知覚できるようになる。


「だから、只管にこの世界は謎に包まれておる――」


「……知らねば、死ぬぞ。――お主は、そうして死んだ」


「私も、ようやく知ったところじゃ。――知識は、生きるためにも必要なのだと」


『雅羅』が言い、フェナリが整えたその言葉には、あり得ないほどの重みがあった。生と死を確実に経験した人間だけが持つ――つまりはこの世界で、指折り数えられるほどしか経験したことの無いような、そんな数少ない人間だけが生み出せる重み。重力ともいえるそれは、その場の空気を圧し歪めていた。


 しかし、その雰囲気は霧散する。誰あろう、『雅羅』の言葉によって。


「フェナリ。語らいは終わりのようじゃ」


 ――来た、と。

 結界を通り過ぎる無形の気配が、告げていた。


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