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怪物狩りの少女、異世界でも怪物を狩る!~何をすればいいのか分からないので一旦は怪物倒しておこうと思います~  作者: 村右衛門
第3章「テレセフの悪魔」

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67.接敵―暴張


 本陣は最終防衛線であると共に、負傷兵の救護場であり、戦線に投入するとの指示を受けていない騎士たちの待機場であり、そして総指揮機関である。

 城塞都市テレセフの領主であるファドルド・バーカインと城塞都市を管轄する第二王子アロン。彼ら二人が指揮官として、本陣に座していた。そして、戦況は伝達兵により常に彼らの元へと伝えられる。


「北部洞窟にて、『紫隊長』グラルド卿が悪魔と接敵した模様! 戦闘地点は接敵後まもなく洞窟の奥へ移行し、以後状況は不明です!!」


 齎される情報を整理し、アロンの前に敷かれた地図にインクが付けられていく。どこに誰が、またはどの部隊が配置されているのか、またどこで戦闘が起こっているのか、その戦闘での勝敗はどうか。

 地図には初め、赤いインクでばかり印がつけられていた。それら全て、劣勢を示す印だ。しかし、騎士団の到着から少しして、優勢を示す青のインクが点々と増え始め、今では五分五分となっている。


「もしもこれが悪魔の活性化なのだとすれば……これ以上無い快進撃と言えましょう」


 ファドルドの言葉に、アロンも頷いた。しかし、アロンの思うところは彼と少し違う。確かに、現状は劣勢を五分にまで覆したのだから快挙に違いない。だが、ファドルドの言うように、今回のことが悪魔の活性化であるのか、というとアロンはそう考えていなかった。


「悪魔の活性化だとすれば――、あまりに悪魔の数が少なすぎます。町中を徘徊する悪魔の数も、史料とは比べる程でもない。それに……今回の事には、所謂悪魔の活性化のような、本能的なものではなく、確固たる意志のような――作為的な何かを感じるのです」


「作為的、ですか……まさか、悪魔が悪魔を従えていると?」


「確信を持って言えるわけではありません。ただ、状況がそうであるように思えるだけ。――北部の洞窟で獲物を待ち、動かざる悪魔だとか、挑発的なほど目立ちやすい状況で端を発した騒動だとか」


 アロンの指摘に、ファドルドも押し黙る。状況に違和感を感じたというアロンの考えは確かに一理ある。しかし、それを信じるには証拠が足りなさすぎるのも事実だ。

 これまでの史実で、悪魔が本能的に群れて人間を攻撃することは多々あった。しかし、それはやはり本能的に多対一もしくは多対多に持ち込んでいるだけで、そこに作為は存在しない。悪魔が本能以上のもので行動する、というのは極稀な事例だと言えるだろう。


「バーカイン卿は――何があれば、悪魔を従えられると思いますか」


「何が、ですか。ですが王子殿下、それは」


「いえ、悪魔を本当の意味で従えることを想定しているのではなく。――この城塞都市を陥落させた悪魔を、率いている悪魔が存在するとして、その首魁たる悪魔には、何があったから悪魔を従えられたのでしょう」


 普通の悪魔では、本能を主軸として行動する悪魔に指示することも、その命令に服従させることも、出来るはずがない。であれば、その悪魔には何らかの特異性があったはずなのだ。

 それが分かったから、何が変わるのか。何かが、変わるかもしれない。


「(自分には、グラルド卿やフェナリ嬢、シェイドのように前線で戦うような力はない――ならば、別の方向性から突く)」


 陳腐で当たり前、しかしだからこそアロンに求められていることだと、彼自身が思っている。だから、戦闘能力が対して高くもない彼だとして、この戦場での存在価値を得られるのだ。



「――緊急で報告します!! 騎士シェイド率いる隊が行方不明です!!」


 

 そうだ、アロンには役目がある。果たさなければならない物がある。それは艱難辛苦の一つや二つもなしに達成できるものではない。それを知っているからこそ――、下を向くのは歯を食いしばって爪を手のひらに食い込ませるたった一瞬だけ。

 アロンは、視線を報告してきた衛兵へと向ける。


「詳細を――報告してくれ」


 フェナリが行方不明になるのも、これで二度目だ。



  ◇



 ――約二十分前に、事の発端はあった。


「――――」


 フェルドを本陣へと送り出してから、シェイドの率いる隊は進行速度を上げて、ある目的地へと向かっていた。そこは城塞都市の西側の集合住宅。最も多かったときでは百人以上がそこに住んでいたという、テレセフで最も巨大な住居である。

 城塞都市テレセフの中でも住宅地が集中している地域で、住民の避難はこの地区が最も優先されたと聞く。


「だからこそ――、あまりに異質」


 ここに、悪魔が狩るような獲物はもう残っていない。だから、悪魔がここにいる意味はない。本能で生きる彼らが、その本能に従って獲物を追いかけることが自然なのであって、ここに悪魔が、それも強大な気配を持つ悪魔が残っているのはあまりに不自然なのだ。


「――全員、警戒して下さい」

 

 気配はあまりに大きいが、しかしその中心を注意深く探れば、この集合住宅付近であることが分かる。シェイドは後衛部隊にも警戒を促しながら慎重に歩を進めていった。

 住宅地なのもあって、周囲の景色はおおよそ家宅に占められる。幅員の狭い道路が敷かれ、視界はあまり良くない。シェイドの気配探知は常に鋭く敏く周囲を把握しようとしているが、あまりに大きな気配が故にそれも十全とは言えない。


「せめて、もう少し気配が小さければ――ッ?!」


 ちょっとした願望だった。叶うと思って言ったわけでも、叶えようと思って言ったわけでもない。ただ、ちょっとした独り言でしか無かったそれ。

 しかし、それは真っ向から否定され拒絶が返ってくる。気配が小さくなるどころか、急激に膨れ上がったのだ。


「――ッ!! ――――!!!」


 あまりに異常事態。一時撤退を判断し、シェイドは指示を叫ぶ。しかし、その音は空気を震わすことすら叶わなかった。気配が、辺りに充満し、音すらも消し去ったのだ。もはやこれは、『気配』という言葉では表現しきれない何か他の――、



「ふわぁあ。おはよ」



 刹那、場にそぐわぬ朝の挨拶は破壊の音塊に消し飛ばされた。

 シェイドが目的地として定めていた集合住宅、そこを中心として破砕と壊滅が伝播し、紫色の残像が視界の端を掠めたと思えば、目の前の世界が急変する。景観の整えられた閑静な住宅街が映っていたはずの視界には、今衝動的破壊の跡があるだけだ。

 住宅の外壁には凄まじい量の切断跡があり、いくつかは屋根から上を消失している。倒壊寸前の家屋も複数。その凄まじい破壊は、気配の膨張と同時に、気配の広まる範囲全体に、齎された。


 実体を持たないはずの気配の増長と爆発によって、シェイドは激しい風圧をその一身に受けているかのように錯覚する。

 そしてそれが止んだ時、視線の先に一人の少女が映った。まさか避難漏れの住民かと一瞬危惧して、しかしシェイドはその可能性を棄てる。


「悪魔――それも」


「お母様の『末娘』――アーミル」


「言葉を話す、上級以上……ッ」


 周囲を見回すが、彼我のそれぞれしかこのあたりには残っていない。後衛部隊は恐らく、先程の凄まじい風圧に飛ばされて散り散りになっているのだろう。つまり、今他の誰かの援護を期待することはできない。自分の実力だけで、目の前の悪魔を討滅しなければならない。

 シェイドは細かく慄える腕と心を無言にて一喝。意識を、切り替える。


「――――」


「話す気なさそう。つまんない」


「――ご名答」


 シェイドの騎士剣が煌めく。瞬間、彼我の距離はあと一歩か二歩のところまで縮まり、剣先と悪魔の翼がそのわずかな間合いを切裂いた。先程のような広範囲攻撃を危惧しながらも間合いを詰めたシェイドだったが、懸念していた状況にはならない。

 先程の気配の膨張は恐らく、そう簡単に何度も何度も放つことが出来るようなものではないのだとシェイドは判断。懸念を棄てて、更に間合いを詰めに行く覚悟を決めた。


「お姉ちゃんもいないし……折角朝なのに」


「朝――?」


 今の時間帯を考えて、シェイドは疑念を短く漏らす。少なくとも、今は朝ではない。それなのに、目の前の悪魔、先程アーミルと名乗った少女は今が朝なのだと宣う。それは、単なる勘違いだと断じることも出来るようなほんの少しの違和感だ。しかし、シェイドはそれを見逃してはいけないと本能で感じた。

 ホカリナ王城では、幻術に操られたフェナリと戦う際、彼女が自分の事を『怪物』と呼称していることが手掛かりとなって、フェナリに掛けられた幻術の内容について看破することが出来た。ちょっとした違和感、僅かな気づきは、それ自体を手掛かりとして重大な事実を導き出すこともある。シェイドがつい先日学んだことである。


「まさか――寝ていたのか」


「さっき言ったでしょ。『おはよ』って」


「睡眠……または起床、か」


 圧倒的な広範囲攻撃を仕掛けてきたアーミル。しかし、それは恐らく彼女の意図するところで無制限に放つことの出来る攻撃ではないと考えられる。では、何が制約となっているのか。小さな小石に躓いて、ここが断崖の際であることに気づいたような心持だ。

 確信はない。しかし、一つの可能性として筋は通る。


「眠らせてはいけない……戦い続けて、眠りを阻害し続ければ」


「――退屈じゃなかったら、遊んだげる」


 否定も何もなく、暗に肯定するような言葉がアーミルから返ってきたのを根拠として、シェイドは確信を得る。アーミルの能力の全貌は分からないが、恐らく発動条件の一つには睡眠と起床がある。つまり、彼女を眠らせてはいけない。そして万が一彼女が眠りについたのなら、起床するそのタイミングまでに攻撃範囲外まで退避しなければならない。

 戦闘の方針を確立させ、シェイドは改めて騎士剣を握った。ある意味、時間との勝負だ。常に間合いを詰め続けなければ、アーミルは少しの隙に眠りに落ちるかもしれない。


「お母様の『末娘』、アーミル。――『暴張』」


 シェイドは、まだ知らない。城塞都市テレセフ陥落を巻き起こした首魁――その裏に見え隠れする『お母様』の存在、そしてその娘たちの全貌を。


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